ブログ

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(6)「下院ついに本会議可決」

先週木曜日に歳入委員会によるマークアップが終了し本会議審議に入っていた下院税法改正案が今日、227対205で可決された。採決に先立ちアジアからDCに戻って間のないトランプ大統領はDCの国会議事堂(Capitol)の地下にある会議室HC-5で下院共和党議員に最後の念押しをしたと言われる。トランプ大統領が念押しをするまでもなく可決は事前の票読みに基づきここ数日既定路線になっていたと言える。そのせいか今のところオバマケア廃案が下院を通過した際に見られたようなホワイトハウスの庭における下院共和党指導部と大統領の集合写真大会のような企画は未だ見ていない(これからかもね)。Paul RyanやKevin Bradyはこれで一安心だろう。ちなみに予想通り民主党議員は全員反対票を投じている。ということは13人の共和党議員も反対票を投じたことになる。おそらくNY州、NJ州、CA州の州税控除反対チームだろう。下院の可決には最低218票必要なので、今回は9票それを上回っている。

これで又一歩31年皆が慣れ親しんだ「Internal Revenue Code of 1986」に別れを告げて「Internal Revenue Code of 2017」が実現する日が近づいた。だけどまだまだ油断大敵。ウィスコンシン州上院議員のRon Johnsonはパススルーに対する恩典が少ないという理由で現状の上院案には反対表明している。他にもオバマケア廃案で反対票を投じた複数の反対票予備軍というか容疑者がいるが、John McCainは今のところ反対とは言っていない様子。オバマケア廃案の最後の試みに引導を渡したアラスカ州上院議員Lisa Murkowskiも今のところ比較的ポジティブ。一部にはLisa Murkowskiが推進しているアラスカ北部のノース・スロープ自然保護区の油田開発関係の法案が税法改正に関連して認められる可能性がある点が影響しているとも言われている。いろいろとポリティカル。 上院案は未だ委員会でマークアップ中なのでどのような姿に落ち着くか現時点で余り詮索しても仕方がないんだけど、可決された下院案は歳入委員会を通過する際にギリギリで複数の修正が入り、最終的な形が一体何だったのか若干分かり難い。日本企業に関心が高いと思われる法人税、国際課税周りの最終的に採択された規定をザックリと復習しておくと次の通り。

まず、法人税率を2018年課税年度より20%にするという点は誰もが知るところ。上院案だと現時点で適用が一年遅れるとなっている。どちらの案も法人税率20%は恒久措置だ。予算関係で赤字幅に敏感な上院案では代わりに個人所得税の恩典の多くが10年後に失効するようになっている。

そしてAMTはようやく撤廃。ここで面白いのは過去からのAMTクレジット繰越額の結構寛容な扱い。2018年および以降の課税年度では、基本的に通常法人税額と相殺が認められる。AMTが存在する現状では、通常税額がAMT税額を超える分しか使用が認められない。まあ、AMT自体が無くなるので、現状の計算はもちろん成り立たないけど。で、更に凄いのが還付規定。なんと2019年から2021年課税年度では各々の時点で残っているAMTクレジット未使用額の50%まで還付可とされ、それでも残っているAMTクレジット未使用額は2022年課税年度に全額還付が認められる。

設備投資減税は既存のボーナス償却を拡充する形で実現。2017年9月28日から2022年末までに取得される特定の事業資産に100%初年度償却が認められる。現状のボーナス償却と異なり納税者にとって新規取得であれば中古資産でもOKとされている。

NOLに関しても結構大きな改正がある。2018年および以降の課税年度に発生するNOLに関しては繰越期限が撤廃される一方で繰戻も撤廃。この規定には小規模事業や災害損失に関して一部免除がある。更に意外にみんなにとって痛いかもしれないのは2018年および以降の課税年度のNOL使用額が繰越年度の課税所得90%に上限されること。現状のAMT規定に似ている。で、下院案に基づくと過去から繰り越されているNOLにも使用が2018年またはそれ以降だとこの90%制限に抵触するように見える。上院は同じく90%(2024年からは80%)制限が審議されているけど、あくまで2018年および以降の課税年度に発生したNOLが対象のようだ。また下院案では2018年および以降の課税年度に発生するNOLに対して毎年繰越額に「短期AFR+4%」の金利を付けて増額させてくれるようになっている。上院案にはこの増額は不在。

特別な控除関係だとR&Dおよび低所得者住宅税額控除、一部のエネジー関係控除は温存されるものの米国製造者控除(Section 199)を含む多くの他の恩典は撤廃となる。

The Blueprint時代から注目度の高いネット支払利息の損金算入制限は二つの新設規定で実現されている。まず、全事業主に適用される新設Section 163(j)。The FrameworkではC Corporationと他の事業主を区別して議論していたので、下院最終案はチョッと意外な感じ。で、小規模事業、不動産・ユーティリティー業など一部の業界を除き、EBITDAの30%を超えるネット支払利息損金は不算入となる。この規定で面白いのは、後述の多国籍企業に対する更なるネット支払利息に対する制限規定と異なり、米国連結納税を行っている内国法人グループにかかわる規定が不在な部分。文字通り読むと(法文なので文字通り読まないといけないけど)個社レベルで適用があるように見える。損金不算入額は5年繰越可となり、長年日本企業が慣れ親しんだ既存のアーニングス・ストリッピング規定(163(j))は撤廃。

多国籍企業グループに属する米国法人(または米国支店)に関してはもう一つネット支払利息損金算入制限が規定された。この対象の決定方法が面白くて、Section 1504や1563という通常の税法上のグループ規定を用いるのではなく、米国法人および外国法人を含む連結財務諸表を作成している多国籍企業グループ、と会計原則を基準としている。グループ売上が3年平均で$100M以下の場合は対象除外。で、前述の通り、この規定の目的では米国連結納税を行っている内国法人グループはまとめて一社扱いと明言されている。この規定が適用となると全世界グループネット支払利息(会計ベース)をEBITDAレシオで米国法人に配賦し、米国法人ネット支払利息(会計ベース)と比較して損金算入可能%算定。もちろん米国の方が低ければ100%となり問題はないが、米国多国籍企業は通常グローバル全ての借り入れは徹底して米国法人のみで認識しているので、ここで100%となるケースは彼らの場合にはないに近いだろう。で、ようやくここで税務ベースの米国法人ネット支払利息が登場。米国税務ベースで当制限考慮前の段階で損金算入できる金額に110%乗じて、そこに先に計算した損金算入可能%を乗じた金額が損金算入額上限。エクセルがないとチョッと難しいね。こちらも損金不算入額は5年繰越可。

前述のEBITDA30%制限下と比較し制限額が大きい方、すなわち納税者から見て不利な方の規定を適用することとなっている(それはそうだよね)。

で、次に国際課税関係だけど、海外子会社(10%以上投資先)からの配当が非課税になり、世の中のトレンドに超遅れてようやくテリトリアル課税制度に移行。ただしタダでは移行させてくれない。2017年11月2日または12月31日時点どちらか大きな未配当原資累積額に一括課税される。税率も以前は3.5%だの8.75%だのと言われていたけど、フタを開けてみると結構高く、委員会最終修正後は何と14%。Cash Position以外の事業資産に再投資されているケースは7%に低減される。Cash Positionの決め方も変な操作やゲームを許さないという覚悟がありありで、2017年度の期首、期末、そして2017年11月2日の3時点の平均で決定するよう規定されている。委員会の議員も良く考えるね。で、海外に巨額の埋蔵金をため込んでいる米国企業にとってはとてつもない負担額となるケースもあるので8年間の割賦払いが認められる。また部分的に外国税額控除が認められる。

そして、何と言っても一瞬日本企業を震撼させた20%ペナルティー課税。米国法人(または外国法人の米国支店)がIFRG内の米国外関連会社に行う「特定支出」に法人最高税率(法改正後は20%)でペナルティー課税するという衝撃的な規定だ。でも実際にはこれを払う法人はないであろうことは以前のポスティング「米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(3)「輸入に対する20%ペナルティー課税」」で触れているので詳しくはそちらを参照して欲しい。

IFRGとはInternational Financial Reporting Groupの略で連結財務諸表を作成している多国籍企業グループ。前述の多国籍企業グループに対するネット支払利息の損金算入制限でも出てきた財務諸表ベースの判断だ。Section 1504や1563ベースでない点は個人的にはとても違和感がある。ちなみに上院側の姉妹規定とでも言うべき「Base Erosion Minimum Tax」はSection 267すなわち基本的にSection 1563の50%バージョンと25%株主基準なのでこちらの方が税法的には普通な感じ。

何が特定支出かと言うと費用項目ばかりでなく棚卸資産の仕入れを含む資産取得コストも含まれるというから凄い。例外は支払利息、コモディティ・債券取得コスト、マークアップなしのサービス費用。また特定支出が3年平均で$100M以下のケースは適用除外だ。更に、特定支出でも受け手の外国法人がECIとして申告していたり、30%源泉税対象となっていたりする支出は対象外。源泉税が条約で低減されている場合には低減相当分額が特定支出扱いになるとされている。ちなみにこの20%ペナルティー課税は法人税算定目的で損金不算入とされているからその厳しさは徹底している。

で、ここからが当規定の神髄だけど、外国法人が特定支出を米国事業所得(ECIまたはPE帰属所得)として申告課税扱いする選択が可能となっている。ネット申告が認められるのでこちらの方が金額的には断然有利。費用実額は損金不算入とされているが「みなし費用」控除が認められる。このみなし費用は全世界グループの該当プロダクトラインの会計上の米国外利益率(金利・税金前)を基に算定するってなってるけど、そんな計算どうやってするんだろう?一瞬みなし経費に104%+短期AFRを掛けてよろしいという修正があったが、歳入不足に気づいて直ぐに取り下げられた。最初から分かってたと思うんだけど立法プロセスって不思議。また外国税額控除も財務諸表ベースの実効税率と修正されたかと思うと最後の最後で本当に計算する外国税額控除となった。特定支出に対する外国の税金80%を上限と規定されている。その上で更に普通のSection 904の上限計算をするんだろうか。そんな計算できるのかな。そもそも特定支出が米国源泉のケースもあり、それだけでは控除枠は存在しないこともあるだろうし。

という訳で共和党下院指導部にとってはようやく有権者に顔向けできない辛い日々が過去のものになるかもしれない重要な一日でした。