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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(7)

Max Hata
前回は1120F出し忘れにかかわる救済措置、前々回はウォーレンバフェットの話しに飛んでしまったけど、その更に前から書き始めたBase Erosion %の算定の話しの続き。Base Erosion %の分母と分子に何を入れるかは前回のポスティングで分かったとして、次に「誰の」数字を入れるのかっていう問題を考えないといけない。もちろん、納税者本人となる自己法人の数字は入れるに決まっているけど、それに加えて「Aggregation」規定に基づき、特定のグループ内法人の数字は合算して検討しないといけない。

Aggregation規定に基づくと、Base Erosion %の算定(および以前に触れた$500Mの売上基準の適用)時にはSection 52(a)で一人の雇用者と扱われる法人群は一社と考えるとしている。Section 52自体はは「Work Opportunity Credit」(WOC)の算定を規定している条項で、その際に複数の納税者を一人の雇用者と扱うとしているが、BEATのBase Erosion %算定時にも一人の納税者と扱われることとなる。ITS(国際税務)、Sub CとかSub Kを主に扱っているタックス専門家には馴染みが薄い。ただ、たまにBEAT以外の局面でも誰を同一グループのメンバーと扱うかとかいう判断で引き合いに出される条項だ。

米国税法下で、特定の恩典に適格となるか、とか、困難な計算を免除してもらえるか、っていうような判断、または以前は税率区分が課税所得レベル別に法人税でも4つはあったのでどの税率区分に属するか、っていうような決定、に所得その他の「しきい値」を用いることが多い。BEATでも売上$500M未満は対象外ですよ、っていうのもその代表的な例だ。もしこの判断を純粋に個々の法人単位で行うことを認めてしまうと、同じグループで複数の法人を組成して個々の法人レベルのしきい値を下げることで、いろいろとメリットが出てくる。そこで、同じ支配下にあるグループ法人群は十把一絡げにして一社として判断しましょう、という乱用防止的なアプローチだ。

このような目的で一社として扱うべきかどうかの判断を行う場合、大別すると連結納税グループを規定するSection 1504で攻めてくる場合と、Controlled Groupを規定するSection 1563から攻めてくることが多い。例の悪法の代表だった2016年の過少資本税制の財務省最終規則では「Expanded Group」(今となってはなんか懐かしい響きだけど)をSection 1504を引用して規定していた。Section 1504そのものの本来の目的はどの法人が連結納税グループの構成員となるかを規定しているので、もちろん外国法人が入ったりすることはない。ところが、Section 1504を引き合いに出す多くのケースで「ただしSection 1504の(b)(2)外国法人や(b)(3)保険会社を除外している部分は無視して下さい」というようなややこしい回り道をしてグローバルのグループを定義したりすることが多い。さらにSection 1504では考えることはない「みなし持分(Attribution)」とかもSection 318を後から適用させたりして、オリジナルSection 1504の原型をとどめない程、変更を加え、グループに誰が入るのかを判断する時点でお手上げ、専門家を雇い巨額(?)のプロフェッショナルフィーを支払うようなことになる。

過少資本税制の時も思ったけど、一旦Section 1504を引き合いに出した上で、外国法人も入れたり、みなし持分も加味させたりするんだったら、Section 1563の方を参照すれば、Component Memberとしない限り、最初からかなり目的に沿った構成員を定義できるんじゃないかな、って気もするんだけど。ここは引き続きなぜ議会や財務省がSection 1563というまさしくピッタリくる条項が現存するにもかかわらず、敢えてSection 1504を使ってくるのか、そのうち時間に余裕ができたらプールサイドでアイスレモンティーでも飲みながら自分でも良く考えてみたい。

上述の通り、Base Erosion%の算定目的では、Section 52(a)が参照され、Section 52(a)は基本的にSection 1563を参照していることから、BEATはSection 1504ではなくControlled Group概念を適用していることになる。Section 52のWOC目的では法人(C Corp)以外のパススルーとかも同一支配下であれば一人の雇用者と規定されているが、BEATではSection 52の(a)のみを取り込んでいるので、Section 1563のControlled GroupのMember法人、ただし、本当のSection 1563が80%以上基準としているものを50%超基準に置き換えて使用することになる。このことからSection 1563で広範に規定されるみなし持分の考え方が間接的に適用となる。

また、Section 52(a)では、Section 1563を50%超基準で適用する際、Section 1563の (a)(4)と(e)(3)(C)は無視するとしている。(a)(4)はControlled Group内に複数の保険会社が存在する場合には、保険会社群のみ別のControlled Groupとして他の法人群と分けて考えるというもの。この規定が適用されないということは複数の保険会社がグループ内に存在しても、それらも含んで一つのグループとして考えるということになる。(e)(3)(C)はみなし持分の考え方を適用する際に、退職金プランの信託が保有する株式は考慮しないというものだけど、この規定を適用しないということは逆に言えば、信託保有の株式も通常の株式同様に加味した上で持分を決定するということになる。

ここで一点、かなりテクニカルな話となるけど、BEATの法律には「ただし、Section 52(a)に基づきSectiton 1563を適用する際、Sectiton 1563(b)(2)(C)は無視する」と宣言している。これは凄く不思議。というか、個人的には単なる間違いのように見える。Sectiton 1563(b)(2)(C)はComponent Memberの定義として、ECIのない外国法人は免除しているというものだけど、元々Sectiton 52(a)ではSection 1563のメンバーの話しをしていて、Component Memberの話しはしていない。なのに、急にここでComponent Memberにかかわる外国法人の除外規定が不適用と言われても、Section 52(a)でもBEATでも元々除外されてない訳だから意味不明。間違って書いてあるように思うけど、こんな基本的なことでTechnical Correctionとなるんだろうか。

まあ、こんな感じでグループ合算して、Base Erosion%を算定することになる。グループで算定したBase Erosion%が3%以上になってしまったら、個々の法人の状況にかかわらず、グループ法人全員がBEATの計算をしないといけなくなる。また、BEAT目的の修正課税所得を算定する際、NOLのうちどれだけを加算する必要があるかっていうのも、このグループ全体のBase Erosion%に基づくことになる。グループ内他の法人が原因でBEATの世界に引きずり込まれたり、助かったり、どっちのシナリオをあり得ることとなる。

ちなみに合算する対象は全世界グループだけど、%を計算する際に取り込むべき数字はあくまでも米国でネット申告課税の対象となる法人が米国の申告書で計上している費用に限定される。米国法人の金額は当然全て入ってくるけど、外国法人に関してはECIで支店のような申告をしていれば、そこだけ加味することになるはず。$500Mの売上基準に関しては、厳密に法文解釈すると、条約のPE条項で課税が免除されていても内国法で本来ECIであれば、そこの売上は加味しないといけないとしか読めない。一方、Base Erosion%算定のケースではIRCのChapter 1で控除される費用が対象となっていることから、Section 894はChapter 1の一部であることを考えると、PE条項で課税免除されている外国法人の数字は、例え内国法でECIでも、入れなくてもいいように個人的には考えている。

さっきBase Erosion%によるNOL調整の話しが出たけど、ここの計算は法文上は良く分からないことが多い。この点は次回。

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