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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(4) 留保所得一括課税

前回は米国国際課税制度移行時の特別措置となる特定外国法人の留保所得一括課税の法的枠組みの基本的なアプローチについて触れた。すなわち、特定外国法人の留保所得をSubpart F所得と規定することで、従来のSubpart F規定の一環で米国株主側で課税所得として認識させる、心憎いアプローチだ。

従来のSubpart F規定はCFCが認識する受動的所得等の特定の所得をSubpart F所得として、米国株主が自己の課税所得と合算申告する仕組み。具体的には、外国法人が自己の課税年度内に一日でもCFCに該当する日があると、当課税年度内で法人がCFCの定義を充たしている最終日に、直接・間接にCFC株式を保有している米国株主が、CFCの課税年度終了日を含む米国株主側の課税年度に、CFCのSubpart F所得の米国株主帰属額(Pro Rata Share)を課税所得とすること、というもの。なんか回りくどい立て付けに聞こえるかもしれないけど、留保所得一括課税を理解、検討する上で、ここは絶対に理解しておかないといけないベーシックなコンセプトとなる。

で、前回のポスティングの後半に、通常のSubpart F規定には存在しない、マイナス留保所得によるプラス留保所得の相殺取り扱いに関して触れ始めた。すなわち、米国株主が少なくとも1社でもDeferred Foreign Income を持つ特定外国法人の持分を保有し、同時に少なくとも一社でもマイナスE&Pを持つ特定外国法人の持分を保有する場合には、米国株主側で取り込むべき留保所得はマイナスE&Pの金額で減額することが認められる、っていう相殺容認規定だ。米国株主側で複数の特定外国法人の属性を通算できる点、チョッとGILTIに似てる。

で、複数の特定外国法人にプラスの「Deferred Foreign Income」があったり、マイナスE&Pがあったりすると、どの特定外国法人のマイナスを誰のプラスと相殺しているのか、っていう検討事項が発生する。「でも一括課税って一回切りだし、相殺後のネット課税所得の金額が同じだったら、別に誰のプラスが誰のマイナスで消されてても関係ないじゃん」って思うかもしれないけど、それは大間違い。一括課税で各特定外国法人のE&Pが消えてしまう訳ではないので、プラスとマイナスの相殺は、一括課税後に各法人にいくらE&Pがあり、そのうちどの額が一括課税で課税済みとなり、またSubpart F所得の合算、およびその後の分配と連動する米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価の算定、など広範かつ複雑なインパクトを持つ。

そこで税法では、ある米国株主に帰属すると扱われるマイナスE&Pの総額は、その米国株主が一括課税で認識するDeferred Foreign Income総額に占める各特定外国法人のDeferred Foreign Incomeの%に準じてプラスの留保所得を持つ特定外国法人に配賦、と規定している。配賦法としては予想通りだし極常識的なものと言える。さらにこの目的ではマイナスE&Pは米国株主が認識するプラスの留保所得総額、すなわちDeferred Foreign Income総額に限定される。それはそうだろう。要はプラスの留保所得と相殺するためにマイナスE&Pを配賦する訳だから、プラス総計を超えるマイナス額で、全体の一括課税額をマイナスとすることは認められない。

もし、マイナス額がプラス額より多く、プラス額を消去してもマイナス額が余ってしまう場合、マイナスE&Pはプラス留保所得の額に限定されるけど、その際、どの特定外国法人のマイナスE&Pをいくら使用したと考えるのか、すなわち、今度はマイナス額そのものの配賦法が問われることとなる。ここはフォーミュラアプローチが法文に規定されていなくて、今後公表される財務省規則に基づき、米国株主がどの特定外国法人のマイナスを使用したと取り扱かいたいか指定可能とされている。特定外国法人が全社100%保有のCFCだったら、米国株主側から見るこの辺りのメカニズムも多少容易かもしれないけど、実際にはCFCの一部は他の米国株主が保有していたり、または外国株主の持分が入っていたり、いろいろと複雑な検討が付きまとうことになる。

さらに、従来のSubpart F規定の一部に、米国株主側で合算するSubpart F所得を過年度の同じ活動から発生しているマイナス所得で相殺してもよろしいという、通常の課税所得算定時の繰越欠損金の取り扱いに似た規定がある。この適格マイナス所得に関して、一括課税で他の特定外国法人のプラス留保所得をマイナスE&Pで相殺している場合、どの活動のどの繰越適格マイナス所得に紐付けるか、という指定も米国株主側に認められる。この辺りになると従来のSubpart F規定を知ってないとチョッと難しいかもね。

ちなみに一括課税目的のマイナスE&P額の算定だけど、プラス留保所得、すなわちDeferred Foreign Income の算定法と2つの点で異なる。Deferred Foreign Income に関しては後日詳しく触れるけど、「プラス」留保所得の算定時には、1987年以降の累積E&Pから米国事業関連所得(ECI)および過去にSubpart F所得として合算され課税済みとなっている留保所得(PTI)を減額する。さらにプラス留保所得は2017年11月2日または12月31日時点のいずれか大きい方の額を使用すること、と規定されている。

一方、面白いことに「マイナス」留保所得算定時には単純にE&Pそのものがマイナスか否かを2017年11月2日時点の一発勝負で決める。プラスとマイナスの算定法がパラレルでないことから、場合によってはひとつの特定外国法人がプラスとマイナス双方の留保所得を持つような結果があり得るという不思議な規定だ。更に、場合によっては留保所得がプラスでもマイナスでもない結果となることもあり得る。これって法文が狙ってそうしているのかどうか分からないけど、数日前に公表された財務省規則案では、そんな混乱に応えるため、特定外国法人の留保所得算定法に優先順位を設けてる。法文が複雑怪奇で、いろんな点にガイダンスを策定しないといけない財務省もさぞ疲れ気味だろう。「Christ you know it ain't easy. You know how hard it can be. The way things are going, they're going to crucify me」とか思わず口ずさんでしまう気分では?

で、規則案の優先順位に基づくと、最初にまず、特定外国法人に「プラス」留保所得があるかどうかを判断する必要がある。その結果、プラス留保所得ありという判断となる場合、「マイナス」留保所得有無の判断は行なうことはできず、「プラス」留保所得を持つ特定外国法人と確定される。一方、「プラス」留保所得なしという判断結果が出た場合、初めてそこで「マイナス」留保所得を持つかどうかを判断に移ることが許される。万一、「マイナス」留保所得も持たないと判断される場合には、特定外国法人は「プラス」留保所得も「マイナス」留保所得も持たない法人と確定される。たかが、留保所得があるかないかの判断なんだけど中々難しい。

という訳で、次回はマイナス留保所得が特定外国法人の将来のE&Pに与える影響等に関して。