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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(6) 留保所得一括課税

Max Hata
前回のポスティングでは、これでもかっていう位、課税済所得の話しに終始してしまったけど、まあ、それだけ重要なポイントってことを理解頂ければ何より。従来のSubpart F規定に基づく課税済所得に加え、このポスティングのテーマとなる留保所得一括課税、そしてさらに今後はGILTIで外国法人側の留保所得の多くはますます課税済所得化するトレンドとなる。ちなみにGILTIと言えば、今日(8月31日金曜日)またはLabor DayのLong Weekend明け直ぐに待望の財務省規則案の公表が予定されている。ただ、今回の規則案はGILTI制度の中でも、メカニカルな計算にフォーカスした内容となるとIRSの高官が言ってたし、外国税額控除とか課税済所得は財務省・IRS内に別の「ワーキンググループ」があり、各々、独自の財務省規則案をドラフトしているらしい。となると、課税済所得に関しては今回のGILTI規則案には盛り込まれず、長らく最終化されていないけど、元々、従来のSubpart F規定に基づく課税済所得のルールを規定しようとしている財務省規則案を大幅に加筆・修正して、新たな課税済所得規則案が2018年中には公表されると見るのが妥当だろう。従来の国際課税制度の枠組みでは考えられない規定が多いし、その上、既存の規定も温存されているので、そこのすり合わせとか大変そう。でも、財務省とかIRSのワーキンググループに属してたら楽しそう。三権分立の考え方がしっかりしている法治国家の米国では、行政府となる財務省、IRSには、立法府である議会が制定した法文の各条文に明記してある範囲のみで規則策定権限が存在するので、どこまでの規則策定権限が与えられているかを慎重に見極め、その範囲内で規則を策定する必要がある。なので、むやみやたらに規則を策定できるものではない。この範囲をどう拡大、または狭義に解釈していくかという点ひとつ取ってみても実に興味深い法的な検討だ

で、前置きはこの辺にしておいて、今回は約束通り、特定外国法人の株式簿価にかかわる怪談。早くしないと夏も終わっちゃうしね。

まず、従来からのSubpart F規定に基づく米国株主のCFCに対する株式簿価の仕組みだけど、ここの基本部分を理解してないと留保所得一括課税時の簿価の動きも分からない、というのは当然なので、まずは、その辺りのおさらいから。

従来のSubpart F規定に基づき米国株主が課税される場合、課税対象となるCFC側のSubpart F所得は、実際には米国株主に分配された訳ではないので、まだCFCの手元に残っている。これを課税済留保所得という特殊なアカウントでトラッキングする点は前回のポスティングの通りだけど、その際、同時にCFC側で課税済所得となる金額分 米国株主の持つCFC株式簿価を増額調整させる必要がある。従来のSubpart F所得は所得自体の算定は米国課税所得算定法に準じるけど、米国株主側の要合算額がCFC課税年度のE&Pを上限としていたことから、Subpart F所得、課税済所得(E&Pコンセプト)、そして株式簿価増額、その後の分配(E&Pベース)、という一連の流れをスムースに一貫して管理できる。今後、GILTIはE&Pベースではないので、その辺り、課税済所得規則案がどうアプローチしてくるのか、2018年冬の規則案公表が待ち遠しい。

留保所得一括課税の局面で考えてみると、もし単純に米国株主がプラス留保所得を持つ特定外国法人一社しか保有してないとか、複数の特定外国法人を保有しているけど、全ての法人がプラスの留保所得というような、どちらかというと単純というか従来のSubpart F規定に近いケースでは、上述の今までの簿価調整同様の考え方をそのまま適用することが可能だ。すなわち、留保所得課税の対象となった金額がそのまま各特定外国法人側で課税済所得となり、米国株主側では同額が特定外国法人各々の株式簿価増額調整、っていう綺麗に惑星が一列に並んだような処理となる。

問題は米国株主が保有する特定外国法人にマイナスとプラスの留保所得を持つ法人が混在している場合。前回のポスティングでも触れた通り、米国株主側にプラスやマイナスの留保所得が存在する形で金額がフローアップしてくると、米国株主レベルでプラスとマイナスを相殺することになる。これは従来のSubpart F規定では存在しない新しい概念だ。この新概念が今後、GILTIに踏襲されていくことは以前にも触れた通り。Subpart F所得というのは、元来、各々のCFC独自の属性という位置付けだったから、米国株主側にフローアップした後に所得金額が変わったり、他のCFCが認識するSubpart Fマイナス金額と調整されてしまうということは従来では考えられない。そんなことしようもんなら、各CFC側に米国株主側の処理を加味した後の数字を反映し直す、っていう複雑な調整メカニズムが必要になる。その手のメカニズムは、個々のCFCから見ると期せずして変な調整になって納税者が困ってしまったり、または、逆にうまくその辺りをデザインすることで、賢い納税者にプラニングの機会を提供してくれたりすることとなる。今回の税制改正で導入された全く新しい国際課税規定となるGILTIは、GILTIそのものをどちらかというと米国株主側の属性としながら、課税方法はSubpart Fに規定される多くのインフラ、プラットフォームをそのまま流用するような構成となっているけど、留保所得の一括課税もプラスとマイナス相殺を規定した段階で、GILTI同様に、米国株主側の調整をCFCに投げ返すという新しいルールを導入しなくてはならず、財務省規則案によるこの辺りのアプローチ作りはいろいろと苦労がうかがえる。

他の特定外国法人のマイナス留保所得でプラスが減額された場合、減額された金額は米国株主側で課税されていないにもかかわらず、プラス留保所得を持つ特定外国法人の課税済所得となる点は前回触れてるけど、じゃあ、対応する米国株主側から見た特定外国法人の株式簿価が、従来の調整のように課税済所得同額に関して全額増額するか、というと単純にそうはならない。簿価調整目的では、マイナスで減額された後のネット額、すなわち実際に米国株主側で留保所得課税の対象となった金額のみが増額金額となるというのがデフォルト規定となる。

う~ん、なるほど。となると、マイナス留保所得を持つ特定外国法人を一社でも保有してて、他の特定外国法人のプラス留保所得と相殺してしまった米国株主にとって、プラス留保所得を持ってた特定外国法人の株式簿価の増額は、特定外国法人側に留保されている課税済所得の増額に満たないこととなる。課税済所得が実際に将来、分配されてくるタイミングでは、課税済所得部分は配当扱いされないので、テリトリアル課税だろうが、従来の全世界課税だろうが、通常は非課税になるけど、課税済所得分配額が株式簿価を超えてしまうと、超過額がみなし譲渡益としてキャピタルゲインとなる。

え~、そんなだったら、他社のマイナスで減額されたプラス留保所得は、一層のこと課税済所得にしてくれない方がよかったんじゃないの、って思うけど。だって、課税済所得ではない通常の留保所得のままだったら、税制改正後は従来と異なり、分配時に245Aで特定外国法人からの配当は米国側で100%配当控除が取れるので非課税になるはず。ここは何がベストか難しいところだけど、留保所得が課税済みの扱いとなるって言うと、税制改正前の感覚で、何となく「良かったね」って安心したくなる。今後は、このような従来の概念が必ずしも通じないというところが恐ろしい。今回の税制改正後の米国クロスボーダー課税が、他国の国際課税規定との比較も含めて、全く新しい「Whole New World」に突入したんだな、っていう点を改めて認識せざるを得ない。まさに「A new fantastic point of view」で、誰かに魔法のカーペットに載せてもらって「Wonder by wonder」解説してもらわないとね(この歌詞、アラジンの映画とかブロードウェイ見た人は分かるね?)。

で、基本ルールは上の通りだけど、課税済所得額と株式簿価増額をシンクロさせる選択が規則案に規定されている。チョッと話しが既にヘビーかつメタル(?)になり過ぎてるので、ここからは次回。

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