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絶滅種に指定されそうなテリトリアル課税対象所得 (2)

Max Hata
NYCとか米国北東部の冬を知っている身としては、お正月明けの七草がゆ直後の1月9~10日に立ち寄った東京はとても暖かく感じられたけど、その後、NYCに戻ってビックリ。11~12日の週末は70度(℃だと20度くらい?)に迫る勢いで、1月だというのにCentral Parkで桜のつぼみが春が来たと勘違いして開きそうになっているとWSJで特集されていた。その後も温暖で、コートも持たずに調子にのって出歩いたりしてたんだけど、一週間経った今日、金曜日は氷点下まだ冷え込んでしまい、いつもの冬に戻ってしまった。それでも5~6年前に2年連続で襲った極寒の冬とは比較にならないけど、来週前半まで寒いみたい。明日、土曜日は午後小雪が舞うっていう予報だしね。そんな週末は暖かいミルクティー飲みながらMKの禁断のブリオッシュでもつまみ、もう直ぐ出そうなSection 163(j)の最終規則がどんな内容かアレコレ空想に耽るのが最高(なにそれ?)。実際には諸々のHouse-Keepingマターでバタバタすることになるんだけど気持ち的にはね。

で、前回のポスティングでは、新年の挨拶代わりに、「テリトリアル課税」に移行したはずのTCJA以降の米国国際課税システムにおいて、米国企業がテリトリアル課税の恩典を受けることができるチャンスはほとんどない、であろう点について書き始めた。

この話しの前提となるクロスボーダー課税関係の基礎的なルールだけでも数冊の本になりそうだけど、今回の話しに関係しそうな部分だけ、表面的にチラッと触れる、米国では分配がないにもかかわらずGILTIやSub Fで米国株主が合算課税される場合、CFC側の留保所得が「課税済留保所得」、すなわち「Previously Taxed E&P、略してPTEP」(「ピーテップ」っていう発音)となる。TCJA前はPTIって言ってたんだけど、TCJA直後からPTEPに変わってしまった。基本的に内容は一緒。

このPTIやPTEPの世界は深淵で、2006年に財務省規則案が公表されてるけど結局今日まで最終化されていない。そうこうしているうちにTCJAが可決してしまい、大幅にアップグレードせざるを得ない状況に。2006年当時はあくまでもSub Fの世界の話しで、それだけでもとてつもなく奥が深かったけど、TCJA下のTransition TaxやGILTIで巨額のPTEPが課税システムに創出され、その重要性、複雑性、共に従来とは比較にならないレベルに達している。そんな進展を反映して、IRSはNotice 2019-01を公表し、暫定的なアプローチを示すと共に、2006年の規則案を実質書き直して新たな規則案を策定するとしている。Notice発行当時は2019年の秋から冬に掛けて規則案が公表される、って財務省やIRSの国際課税担当官が法曹界のパネルとかでアグレッシブなタイムラインを披露してくれてたけど、結局2020年になっちゃったね。ただ、他に先行している規則にも少なからず消化不良の部分が残っている中、PTEPみたいな複雑な規則案をこのタイミングで公表されても、実際にはチョッと困るのも事実。

で、CFC側のE&Pのうち、どの部分がPTEPに区分されるっかていうのをトラッキングする必要がある理由だけど、従来は、CFCからの分配はE&Pの範囲で配当所得となりFTCは取れるけど課税対象だったので、既に課税されているE&Pを原資とする分配は二度目の課税が生じないように管理するというのが一番の目的だった。コンセプト的には分かり易いね。テリトリアル課税になった今日でもトラッキングが必要な理由は後述する。で、ここでいう配当は、もちろん会社法上の分配に基づく配当に限らず、米国税務上、配当と取り扱われるCFC株式譲渡時のSection 1248とか、組織再編の際に配当となる部分のBootとか、も含まれる。で、PTEPの分配は配当ではないので、どうなるかって言うと、元々Sub F合算時にはCFC株式の簿価を合算額だけ増額させているので、PTEP分配時は同簿価を減額させて調整していた。

この仕組みは、従来のSub FのようにCFCを個別に見て米国株主の合算額が決まる、すなわち課税所得は単純にCFC側の属性で決定される合算システム下では、株式簿価とCFC側のPTEPが連動することになり分かり易い。一方、Transition TaxやGILTIのように、米国株主側で複数のCFCのプラスやマイナスを相殺したり、他の属性を通算するようなシステムに同じ仕組みを適用するのはとても難しく、分配時に思わぬみなし譲渡益が出たりすることがある。従来の感覚では、PTIは株式簿価があるのでTax-Freeで戻せるいい属性で、逆にPTIでないE&Pは、High-Tax Poolが一緒に付いてないと悪者、っていうイメージだったけど、TCJAで逆にPTEPでも必ずしも非課税ではないので要注意となってしまった。

で、本題のなぜ配当可能原資となる純粋な、すなわちPTEPでないE&Pが存在し得ない、または僅少か、という点に入るけど、旧国際課税システムから新システムへの移行に際して1987年以降のE&PはTransition Taxで課税されている。法的にはTransition Taxは該当E&Pを全額一気にSub Fと取り扱って課税しているので、2017年12月31日以前に開始するCFCの最後の課税年度末に全額発生したことになる。このTransition Taxっていうのは実に良くできていて、TCJAで規定されているにもかかわらず、「旧」法が適用される。CFCの課税年度の関係で米国側で2018年に課税されていてもそれは変わらない。なので全額E&Pを低税率で合算して、税率が低い分減額されるけど外国法人税Poolがフローアップする。PoolingはTCJAで撤廃されているので、過去のPoolingを使用できるのは金輪際これで最後となる。Section 956でPoolingを使おうって企んでたけど、規則案が出てダメになってしまったしね。

Transition Tax課税はSub Fだから、2017年12月末(稀に11月2日)時点のE&Pは全てPTEPになっている。しかも、他のCFCのマイナスと米国株主側でオフセットされて実際には課税されていないE&PまでPTEPにすると言う変わった法律だったので、1987年以降の留保所得は全て本当にTransition Taxで課税されている所謂965(a)PTEP、または他のCFCのマイナスで課税はされていない965(b)PTEPとなっている。ということは2017年12月時点で手つかずのE&Pは、1986年以前のものだけ。そんな古いE&P誰が持ってるの、って感じだけど、もしあればこれが1つめのテリトリアル課税対象となり得るE&P。実際にはまず存在しないだろう。実際には課税されていないのにPTEPになっている965(b)の存在は税法上異質で、いろいろな追加検討を誘発しているけど、この話しは以前にもした記憶があるので、興味ある方は昔のポスティングを覗いてみて欲しい。

そんな状態で一旦E&PとTax Poolが全額洗浄された後、今度はGILTIで毎期CFCの所得は米国で合算される。GILTIは米国株主側で加工する米国の属性だっていう点はさっき強調したけど、仮にCFCの所得がGILTIで課税されている状態だと、今後、毎期E&PはPTEPになる。チョッと面白いことに、GILTIにしても、Transition Taxにしても通常の法人税より低税率で課税されるんだけど、株式簿価はそのまま全額増額するし、E&Pも全額PTEPになる。

となると、今後もPTEPとならないCFCの所得、すなわちテリトリアル課税適格のE&Pは未来永劫生まれない、っていう厳しい現実だけど、例外が少しだけある。ここからは次回。
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