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OECDピラー1のAmount A、B、CとALP (2)

Max Hata
前回からAmount A、B、CとALPというテーマにチャレンジし始めたけど、そのオープニング・アクトとして前回のポスティングでは、ピラー1の神髄的な金額となるAmount Aとは何か、にフォーカスしてみた。すなわち、Amount Aというのは多国籍企業「グループ」の連結財務諸表の税引前利益、すなわち会計上の数字、と一定のフォーミュラだけで算定するっていう、従来の国際課税システムでは考えられない方法で認定する課税所得だって点。これは、ALPと異なり、機能やリスクベースじゃないし、グループベースの恣意的な金額なのでグループ内のどの主体に属するという紐付きの関係がない、という刺激的な所得。また、ALPベースで既にどこかの国、主体で何らかの形で課税されている金額を再度、別の計算で複数の国に分け与えてしまう。Amount AはALPベースで認識されている課税所得と「重複」していることになり、無理やりどこかの主体にALPベースの課税所得の一部を献上させないとダブルカウントになる。したがって、そうならないようにどのように誰にAmount A相当の所得を献上させるか、っていうのはピラー1デザインの今後の最重要検討事項となる。

ちなみに、前回も触れたけど、ピラー1は僕が普段24/7で(笑)接している米国税務、特にクロスボーダー系とか組織再編、パススルー分野とは異なるので、ピラー1にかかわる経済分析、移転価格の新しい概念、特にインパクト分析の数式に登場してくるギリシャ文字とか、去年から、初めて解析し始めた分野。なんであくまで現時点の私見として読んでほしい。今後も各国間の議論の中でデザインは変わっていくだろうし。皆様もいろんな立場でピラー1の今後を見守り、日本という国、日本の多国籍企業に与えるインパクトを考えていくことになると思うけど、その際の一助となれば、みないな特別企画だ。詳細なテクニカル面を法的に追求するGILTIとかBEATの話しと比較して、チョッと感じが違う話し。う~ん、BEATとパートナーシップにしとけばよかったかな、「イニミニマニモ・・・」やり直す?って言うのは冗談で、せっかく乗りかかった船だから目的地まで行かないとね。ちょっと「免責」っぽい?

で、ピラー1で一部抜本的な改定が提案されている従来の物理的な存在に基づく課税権という考え方が100年の歴史と言われているのは、その原形が1923年の The League of Nationsによる合意まで遡るからだ。The League of Legendsじゃないからね。The League of Nationsって日本語だと国際連盟。今のUNは国際連合って訳されるけど、昔、社会の歴史のテストで連盟と連合を混同して減点された問題があったのを思い出す。英語だと名前似てないのにね。それ以来、100年間に亘り「物理的な存在、PE、に基づき課税権を認める」というコンセプトは国際課税システムの大原則として不動の地位を確立したんだけど、これは単なるポリシー的に合理的と考えられていたばかりでなく、主体やPEが税金を払わなければ国内の資産を差し押さえるという強制執行が可能という実務的な合理性も持ち合わせている。国内に物理的な存在を持たない相手に強制執行しようとしても自国に資産がなければ差し押さえるものがない。かと言って資産が所在する他国では他国の法律に基づかないと資産に手は付けられないだろうし、条約等の特殊なルートでも使わない限り実行困難。徴収しようとする国には他国の法執行権がないからね。まあ、Amount Aに関しては親会社が所在する国、または何らかの国際決済機構が代表して税金を徴収してくれることになれば、基本的に取りっぱぐれるようなことはないんだろうけど。

で、この100年の歴史をピラー1が少なくとも部分的に変えようとしている背景に関しては前回のポスティングで簡単に触れた。物理的な存在要件が、なぜ国際課税システムとして確立・定着してたかって言うと、上述の差し押さえとかの実務的な側面はあるとは言え、要は各国が相互に契約した約束事だったからだ。普遍の真理で成り立っていた訳ではない。例えば、135 人の人達が広場で手をつないで「私たちは飛べる」っていくら信じても飛べないけど、「ユーザーには価値があって、物理的な存在がなくてもユーザーの所在国でも課税できる」って信じればそうなる。それが135国(だっけ?)で構成されるInclusive Frameworkのコンセンサス作りだ。

で、Amount A、B、Cだけど、よく新聞とか業界の集まりとかで、この業種は消費者向けビジネスに当たるとか、あなたは自動化デジタルサービスに当たりますとか、また売上に基づくカットオフとか、更にスコープに入っても利益率が低いから大丈夫(?)とか、各企業が対象になるのかならないのか議論されることが多い。このスコープ系の話しはあくまで「Amount A」を適用して市場国に超過利益を配賦する必要が生じるかどうかだけの話し。Amount BやCは規模や業種にかかわらず、市場国があれば全員対象となる。もちろんピラー2も特定のカーブアウトがなければ全員対象。ピラー2に至っては消費者向けビジネスである必要もない。

ここでAmount Bに一瞬フォーカスしてみると、Amount Bは「ルーティン販売・マーケティング活動」に対するリターンを意味し、従来通りPEや疑似ALPに基づく課税。従来のピュアなALPと異なるのは、各企業が市場国で展開する販売・マーケティング活動を個々に分析して適正なリターンを確定するのではなく、だいたいルーティン活動は似たり寄ったりで、統計的にもリターン%はほぼ一定の範囲内に収まる話しなので、売上に対するリターン%を前以て世界中で合意・固定してしまう点。Amount Bに関しては、前回のポスティングで、従来のシステムとピラー1を比較する際に、PEやALPに基づく既存システムと仮にほぼ同様としてるけど、実際には従来のリターンとは若干異なってくるだろう。

ルーティンの販売・マーケティング活動に対するリターン%を前以て合意しとくっていうのはとても合理的な話しで、たかが(?)ルーティン販売・マーケティング活動に対するリターンの話しで世界中のあちこちで係争が頻発してるのは、各国税務当局や納税者にとって無駄が多い。すなわち、ルーティン販売・マーケティング活動に対するリターンがピュアなALPに基づく個々の事実関係ベースで、2.0%なのか、2.1%なのか、2.7%なのか、とか結局のところ不変の真理的な回答が存在しないんだから、意味がないというか、しょうもない世界での係争ではないか、という正しい認識。全世界で適正リターンを、例えば2.5%と合意し、この%に関してはその経済的な正当性や個々の事実への適用可能性を問うことは一切認めない、というアプローチだ。ちなみに%は未だ全然決まってなくて2.5%っていうのは単なる例だからね。

したがってAmount Bはデジタル化で新たな課税権が生じたり、超過利益を配賦したりという世界とは関係なく、ピラー1の重要な目的の一つとなる従来からのALP適用時の係争防止規定となる。したがってAmount B自体は「Safe Harbor」ではないはず。米国財務長官のピラー1のSafe Harbor化提案は今後も引き続き火種になるけど、Amount Aに限定される発言ではないか、って個人的には推測している。Safe HarborではAmount Bの意味がないからだ。Safe Harborっていうのは、本来であれば個々の事実認定に基づいて課税関係を決めるはず、例えば、ルーティン販売・マーケティング活動に対するリターンを個々の活動内容に基づいて決めるはず、だけど、その代わりに前以て規定される何らかの「Parameter」、すなわちAmount Bで言えばリターン%、を使用している限り、個々の事実認定は「不問に付す」っていうこと。で、Safe Harborの場合、このParameter、Amount Bで言うと世界中で合意された%、が気に入らなければ「私のルーティン販売・マーケティング活動はとっても限定的なんです」とか言って、固定%より低い%を適用することが認められる。Safe Harbor制度というのは、Parameterを適用しないオプションがあるということで、その場合はSafe Harborで認められる「不問に付す」という恩典を納税者自ら放棄して、個々の事実関係に基づく通常の係争を覚悟の上申告するっていうことになる。

そんな制度ではAmount Bを固定%にする意味がなくなってしまうので、Amount Aはともかく、Amount BはSafe Harborにはならないはず。すなわち固定%を各国が合意する限り、税務当局にも納税者側にもそれ以外の%を適用することは認められるべきではない。税務当局にしても、個々の納税者のルーティン販売・マーケティング活動の内容の蓋を開けて「あなたのルーティン販売活動の内容に基づくと2.5%ではなく、2.6%ですね」とか言ったりすることは許されない。つまり納税者も、各国の税務当局間でも、屁理屈は許されない、ということだ。Amount Bの目的はこれらのマイナーな意味のない係争を魔法の杖一振りで全て防止するという点にあるからだ。

となると、Amount Bに関して少なくともリターンが何%であるべきかっていう係争は存在し得ないことになる。係争の種として残るものがあるとすれば、そもそも何がルーティン販売・マーケティング活動の範囲内かっていう事実認定部分だろう。ここの定義はどこまで明確化しても、最終的には個々の「事実関係」への適用時に不確実性が残ることは必至。「ルーティン」販売・マーケティング活動だよね、って「見れば分かる」的なLRDのようなケースは別として、結局のところ市場国の税務当局が「あなたが我々の国で従事している活動はルーティンの域を超えています」とか言い始めると、せっかくAmount Bを固定リターン%にしている意味が低下する。

市場国における販売・マーケティング活動が、ルーティンの域を超えると認定される場合、ノンルーティン部分に対応する超過利益は、PEや何らかの物理的な存在があるっていう前提で、既存のALPでも市場国が課税できるけど、ピラー1ではそれをそのままAmount Cとしている。Amount Cはピュアな従来からのALPそのもので、ノンルーティンという性格から係争の種。事実関係次第なので固定%化するのは不可能。従来から係争は多いだろうけど、ピラー1でAmount Bのルーティン部分リターンを固定しまうと、ますます多くの係争の種になる。そこでピラー1では、係争防止・解決策として、従来の二国間の係争対応策を強化する形で、強制仲裁を条件にAmount Cを認めるような方向を模索してるように見える。つまり、Amount Cは新しいコンセプトや金額じゃないけど、係争防止・解決面で改善を試みようとしている金額。ちなみに強制仲裁、Mandatory Arbitration、という用語がよく出てくるけど、仲裁結果はMandatoryでなければ仲裁そのものに全く意味がない。また、Mandatoryと言っても、仲裁結果が気にいらない場合にある国が「こんな仲裁結果はただの紙切れ」とか言ったらどうするんだろうか。国内の判決というのは資産没収とか、禁固とかの強制執行権が付きまとうからこそ効果がある訳で、国際的な係争にかかわる仲裁結果の強制は、戦争する訳にはいかないだろうから、その実効性にかかわる不確実性を完全に払拭するのは難しい。

ちなみに、日米租税条約には、昨年批准がようやく完了した改定を通じて、調停が組み込まれているので、Amount C部分に関しては、既にピラー1と同様の位置づけにあると言える。これは前回のポスティングでも触れた通り、米国がMarket Intangibleの存在に基づく超過利益課税を推し進めることは既存の枠組みでも法的に問題ないばかりでなく、仮にピラー1が現状の提案のまま合意されたとしても問題なく追及可能ということを意味する。さらに言えば、ピラー1とは関係なく、Functional Cost Diagnosisとかを整備してAmount C同様の金額を米国で課税する準備を着々と進めてきた中、ピラー1で世界中がAmount Cを認知することになると、コンセプトとしては従来の国際課税システムとAmount Cに関しては変わらないので影響はないはずとは言え、米国によるMarket Intangibleリターン課税がより一層のお墨付きを得たような知覚的な作用がもたらされ兼ねない。う~ん、Market Intangibleの流れを一歩先にIRSは感知して実践に移してるってことだね。さすがAPMA。

Amount A、B、C とかピラー1をこのように考えていくと、ちまたでたまに言われている「ALPの終焉」とか「ALPの衰退」って言うのは、まだチョッと大げさというか、時期尚早な気がする。ALP衰退説の根拠は、Amount AはRPSMっぽいけど、フォーミュラ計算なので名ばかりのRPSMでもちろんALPじゃないし、米国のTCJAの大元と言える「Blue Print」で提唱されていた、今となっては懐かしい響きの「Border Adjustment」ではALP自体不要だし、また、GILTIで超過利益を 有形償却資産税務簿価の10%と決めてしまった、といったもの。でも実際にはピラー1でもALPから派手に逸脱しているのはAmount Aだけ。Amount Bは物理的な存在がなければ課税できず、あくまで事業主体やPE単位のALP同様。リターン%の多少を議論する代わりに、原則、魔法の杖一振りで全世界固定%とするもの。業界により%が微妙に異なったりする可能性には言及されてるけどね。なんで、Amount Bは正確なALPではないけど疑似ALPで、Cは上述の通り完全にALP。また、市場国が市場として課税する所得以外の所得、例えばルーティン製造活動、ルーティン・サービス活動、または従来から認識している市場ではない立場で認識している超過利益、とかはALPベースの検討がそのまま残るし、多国籍企業が各国で認識する所得の大半は今後もALPで決まるんだろう。

Border Adjustmentが米国でもし採択されてたら、完全な消費地課税になると同時に、ALPは本当に終焉してたはず。先日、下院歳入委員会の関係の方と話した際、Border Adjustmentの議論は若干時期尚早だったというか、一般の有権者が付いてこれなかったけど、いずれ導入議論が再燃するだろうと言っていた。確かにピラー1でA、B、C、とかを世界で合意する流れになるんだったら、せっかくの100年に一回しかない(システム安定性の観点からそう願いたい?)大改革なんだから一層のことVAT紛いの法人税Border Adjustment化を世界中で合意してしまえばいいのかもしれない。まあ、ドレミや1、2、3、じゃなくてA、B、C、でこれだけもめるんだから、Border Adjustmentは次の100年後の改革かもね。Justin BieberのBeauty and the Beatじゃないけど「We gonna party like it's 3012・・・」の世界。

ということで、次回はA、B、Cの相互関係や、テーマであるピラー1とALPの関係の話しを続けたい。

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