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新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (2) NOL

Max Hata
CARES Act成立から一夜明けた。CARES Actが緊急に手当てしようとしている大きな課題の一つに雇用問題があるけど、雇用環境の急激な悪化を物語っているのが米国失業保険の申請者数。歴史上、一番申請数が多かったのは1982年10月に記録された一週間695,000という数字だそうだ。一方、先週の申請者数は3,300,000だったそう。つい数週間前まで史上ベストの雇用環境だったんだから、凄まじく急激に状況が一変していることが分かる。まだ始まったばかりという説もあるし。CARES Actが一矢報いてくれるといいけどね。

前回は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (1) 2020 Recovery Rebate」で$1,200の現金給付制度に関して触れた。今日はNOLに関して。

NOLにかかわるCARES Actの規定は、事業者の流動性確保の観点から、NOL使用制限を緩和し、また繰り戻しを認めている2点が骨子。またついでにTCJAの法文にエラーがあった部分の修正と、新旧のNOLが混在している際にどのように80%制限を適用するべきか分からなかったので、法文を修正して分かり易くしている。

まず、NOL使用制限緩和だけど、TCJAで2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLは原則、使用年度の課税所得の80%を使用限度額とすることになっていた。CARES Actではこの制限を3年間適用停止している。すなわち、2018年~2020年に開始する課税年度にNOLが繰り越される、または繰り戻される場合には、80%制限は加味せずにNOLを使用することができる。また、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLが2017年12月31日以前に開始する課税年度に繰り戻される場合も同様に80%制限を考える必要はない。

で、このCARES Actの法律変更で、80%制限がキックインしてくるのは実質、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLを、2021年1月1日以降に開始する課税年度で使用するタイミングからになったことになるけど、元々TCJAで導入された法文ではどのように80%制限を算定するか分からず、近々に財務省規則が公表されてこの点がクリアになると言われていた。

どのように分からなかったかというと、TCJA以前の旧NOL、すなわち80%制限に抵触しない有利なNOLだけど、とTCJA以降の80%制限抵触新NOLが混在して繰り越しされてきて、それらの双方を使用する課税年度がある際、使用年の課税所得にどうやって80%を適用するべきか、という算数的な問題。TCJA導入直後から、その計算法が不明確という問題が指摘されていて、財務省やIRS内でも法文だけでは適用法が分からない、っていう点は認識していた。考え得るポジションの代表的なものには3パターンあった。最初の2パターンは80%制限枠そのものは、共に課税所得全額に80%を適用して決定するもの。その後、パターン1では、制限に抵触する新NOLのみと制限枠を比較して、使用可能NOLの金額を確定するという考え方。パターン2は制限に抵触しない旧NOLは使用制限そのものには抵触しないので自由に使用できるものの、制限枠が残っているかどうかの判断目的では、旧NOLも制限枠を食い潰していると取り扱う考え方。その場合、旧NOLが制限枠を超過している場合には、制限枠はゼロになってしまう。パターン3は制限が適用されない旧NOLを適用した後に残るネット課税所得に80%を乗じて制限枠を算定する、っていうもの。法文そのもののグラマー的な解釈としてはパターン1が妥当そうだよね、って個人的には考えていた。

で、今回、NOLの規定をアップデートする機会に恵まれたのを利用し、この点を明確にしようとしている。そもそも80%制限は2020年まで適用が停止されたので、2021年1月1日以降に開始する課税年度からの話しになるけど、そのような将来的な課税年度において使用可能となるNOLは、2017年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOL、すなわち旧NOLは全額、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じる新NOLは、使用年度の課税所得を旧NOLで減額した後に超過額があれば、その超過額の80%を上限に使用可能となった。その際に使用する課税所得は、section 199Aに規定されるパススルー事業所得にかかわる20%想定控除、およびsection 250に規定されるGILTI・FDIIは適用せずに計算するのは従来の通り。ということは考えていたパターンの3になるということだね。3つの中では最悪のパターンではなく、NOLミックスと課税所得次第では一番納税者よりの選択となることもあるので、まあまあウェルカムな法文アップデートって言っていいかも。

次にクライシス時にお約束の5年間繰り戻しだけど、2018年1月1日以降2020年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOLに関して5年間の繰り戻しが認められている。例外として、REITが認識するNOLは繰り戻し対象とならないと規定され、また以前REIT選択としていた法人が、後年に認識するNOLをREITだった課税年度に繰り戻しすることも認められない。さらにTransition TaxのNOLに関してはNOLの使用放棄とか選択があったり、それにより国内費用のFTC枠の配賦が難しかったりいろいろとあるので、Transition Tax目的でCFC等の留保所得をSub F合算している課税年度には繰り戻しをしない選択も認められている。でないと再計算大変だもんね。Transition Taxの計算とか、その際のFTC、NOLの使用放棄する際の加算金額のバスケット毎の費用配賦とか超複雑で、もう一回やり直すなんて考えただけで気分悪くなりそう。

次は元々の法文ドラフトエラーの修正に当たるけど、NOLの繰り戻しを撤廃した際に、2018年1月1日以降に「終了」する課税年度に生じるNOLから繰り戻しはなし、と規定されてたけど、これを本来は意図していた2018年1月1日以降に「開始」する課税年度より適用、と修正している。暦年が課税年度の米国企業にとってはどっちでも結果は同じだけど、3月決算が多い日本企業の米国子会社は2018年3月に生じるNOLが、急に繰り戻しできなくなり当時面食らったものだ。TCJA可決当時からここは間違いと指摘されていたけど、Technical Correctionが直ぐに通らずそのまま今に至っていた。この法文修正により影響を受けるNOL、例えば2018年3月期のNOL、はCARES Act成立日となる2020年3月27日から120日以内に繰り戻し、または繰り戻し放棄の選択をすれば、申告期限内に当該処理を実行したものと認められると規定されている。ということは、この期にNOLがあった納税者は7月25日までに修正申告をしなくちゃ、ってことだね。

ちなみにTCJAでNOLの繰越期限は撤廃され未来永劫使えることになったけど、TCJAの法文そのものは旧NOLの取り扱いに触れておらず分かり難いので、法文修正で「2017年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOLは20年の繰越期限があります」って確認を入れている。これらの法文修正は、Technical Correctionという位置づけなので、2017年12月22日に成立したTCJAに当初から規定されていたと同様の効果を持つことになる。

NOL結構複雑だね。次回はSection 163(j)かな。

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