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健康保険

日本の健康保険との違い

アメリカと日本では健康保険制度が違い、戸惑う場合もあります。日米のシステムの違いに注意し、自分の状況に合った保険を選ぶようにしましょう。

民間保険

アメリカの健康保険(Health Insurance)の大きな特徴は民間企業の保険であるという点です。健康保険に関する規制はありますが、日本のように総加入制度にはなっておらず、どの保険であっても加入は任意となっています。そのため、健康保険に加入するには、一般には勤務先や学校などが提供するグループ保険(Group Insurance)を利用します。

健康保険と歯科保険の2本立て

日本では1つの健康保険で歯科治療までカバーされますが、アメリカでは歯科保険(Dental Insurance)と、それ以外の医療全般をカバーする健康保険に分かれています。歯科保険ではカバーされる治療や、年間の適用限度額などの仕組みが違いますので、注意しましょう。

健康保険の種類

健康保険にはさらにいくつかの種類に区別されています。グループ保険によっては複数の種類を選択できるようになっている場合があります。自分の状況に合った種類を選ぶことが大切です。

HMO(Health Maintenance Organization)

HMOはアメリカの健康保険制度の主流のひとつです(もうひとつはPPO)。HMOの特徴は、医療費を抑えるために主治医制度になっていることです。HMOが適用される医者のリストから自分の担当主治医(PCP:Primary Care Physician)をあらかじめ選んでおき、どのような診療でもまずはPCPに相談してから行います。PCPの専門で無い場合は他の医者を紹介してもらう必要があります。紹介なしにPCP以外の医者に行っても保険が適用されないか、自己負担額が通常よりも増える仕組みになっています。ただし、緊急医療(救急車で運ばれた場合など)はカバーされるHMOが多くなっています。自分のHMOがどのような制度になっていて、診察を受けるためにはどのような手順が必要か、確認しておく必要があります。 HMOでは、加入している医者のリストがあり、担当主治医および紹介を受けた場合のどちらも、このリストに載っている医者である必要があります。このリストに載っている医者をNetwork、載っていない、つまり保険適用外になる場合を Out of network と表現します。何かの理由により、Out of nteworkの医者に掛かった場合、Network内の医者に掛かるよりも自己負担額が多かったり、保険が全く使えない場合もあります。

PPO(Preferred Provider Organization)

HMOと同様に、PPOも保険が適用されるリストに載っている医者に行かなければなりません。しかし、HMOと違い、担当主治医を決めておく必要はなく、Network内であればどの医者でも診療を受けることができます。PPOの方が一般にはHMOよりも柔軟性が高く、大手の健康保険ならNetwork内の医者も多く、実質的にはどの医者に掛かっても保険が適用されることが多いでしょう。 PPOではNetwork以外であっても、保険が適用される場合があります。しかし、その場合は自己負担額はNetwork内に比べ高くなります。

用語

Copayment

Copaymentとは、毎回、医者に通院した場合に払う費用のことです。医者に掛かるための基本料金といってもいいでしょう。保険の種類や雇用主の契約している保険会社によってCopaymentの金額も違い、普通に医者に掛かる場合、$5~$40程度が一般的です。医者に行くたびに払う必要があり、日本の初診料のように初回だけというわけではありません。 また、処方箋薬(Prescription)を購入する場合もCopaymentがあり、$5~$20程度の一定額を払う必要があります。

Out-of-pocket

医療費や処方箋薬の自己負担分をOut-of-pocketと呼びます。医者は1回の診療で掛かった費用のうち、既に受け取ったCopaymentを引いた、残りを保険会社に請求します。保険会社はそのうち、保険が適用される割合のみを医者に支払います。割合は診療内容によって違います。100%カバーされる治療費であれば医者は保険会社から請求した全額を受け取ります。100%カバーでない場合は、不足分を患者に請求します。 この仕組みのため、医者に掛かると、請求書が後から送られてきて支払うことになります。大掛かりな検査や手術では複数の医者や技師が関わり、それぞれ別々に診療費を請求します。一度、手術を受けると、退院して何週間も経ってから、次から次へと請求書が送られてくることになります*1

Premium

健康保険に限らず、保険でPremiumと言えば保険料のことです。会社などでグループ保険に入っている場合、会社が一部を負担し、保険料の自己負担は給与から自動的に引かれます。グループ保険でない場合や、後述のCOBRAの場合は、Premiumは自分で払わなければなりません。Premiumの支払いが遅れると保険がキャンセルされてしまう場合もありますので、注意しましょう。

Deductible

保険が適用される前に自分で払わなければいけない金額のことです。この金額まで自分で払った後は、規定に従って保険が適用されるようになります。ただし、全ての診療にDeductibleが適用されるわけではありません。Copaymentを払えばDeductibleなしで直ぐに保険が支払われる診療項目もあります。

健康保険の注意点

プランの選択

会社によっては複数のプランから健康保険を選ぶことができる場合があります。同じ保険会社のHMOとPPOから選べる場合が多いと思いますが、いくつかの保険会社から選べる場合もあります。いずれの場合もプランを選ぶ際には、違いを理解して選ぶ必要があります。 一番重要な選択はHMOにするかPPOにするかでしょう。PPOであれば主治医を決めることなく、いつでもネットワーク内の医者に掛かることができます。しかし、一般的にはその分、CopaymentやDeductible、Premiumが高く、自己負担額が多くなります。HMOは主治医を決めなければなりませんが、例えば小さい子供がいていつも同じ人に見てもらっているなど、信頼の置ける医者にいつも相談しているのなら、HMOでも問題はないでしょう。 プランを選ぶ際には、Copaymentなどの自己負担額だけではなく、最大でいくらまで健康保険が支払われるかにも注意が必要です。治療が難しい病気や怪我などを負い、高額医療が必要になった場合、制限があると自己負担額が大きくなってしまいます。例えば、Lifetime Limit(生涯で受けられる医療の合計額)が無制限でない場合、その金額に達すると医療行為を自己負担なしには受けられなくなってしまいます。Lifetime Limitは最低でも$1~2 Million、できれば無制限のプランを選択しましょう。 プランによっては医者に保険金が直接支払われず、一旦、自分で払っておく必要があるものがあります。その場合は後でレシートを送ると、負担割合に応じて保険金が戻ってきます。ネットワークの制限がない保険や、自営業向けの個人加入の健康保険ではこのような場合もあるようです。支払いを受けるための手順などを確認し、いざというときでも医療を受けられるようにしておきましょう。

自己負担の割合

日本の健康保険は窓口負担は3割(高齢者は1割)と、自己負担が割合で決まっています。しかし、アメリカの健康保険では保険プランごとに違います。Copaymentだけで済む診療もあれば、何%が自己負担と決まっているものもあります。さらに、同じ治療を受けられる回数が決まっているものもあります。例えばレントゲン(X-Ray)は年に1回だけ、理学療法(Physical Therapy)は60回までという具合です。この規定回数を超えると、保険会社は払わず、すべてが自己負担となります。

COBRA

20人以上の従業員がいる企業に勤めている場合、会社を辞めた場合でもグループ保険を続けられる権利があります。Consolidated Omnibus Budget Reduction Act of 1985 で制定された法律ですが、一般には略称を使ってCOBRAと呼ばれます。COBRAは、今までと同じ健康保険を18ヶ月間(違う期間の場合もあります)続けられる権利です。 COBRAの権利がある場合、会社を辞めた後に保険加入の案内が送られてきます。もしすぐに他の健康保険に加入できない場合、指示に従って加入の手続きをするようにしましょう。COBRAでは保険を続ける権利はありますが、保険料(Premium)は自分で払わなければなりません。多くの企業では健康保険の一部を会社が払っていますが、辞めた後はその分も支払わなければならないので、かなりの負担になる事が多くなっています。

健康保険の特典

アメリカでも医療費は高騰し続けており、保険会社にとっては医療費を抑えることは重要な課題です。そのため、被保険者にさまざまな健康促進のためのプログラムを特典として提供しています。ジムの会費の一部を支払ってくれるものや、無料の定期検診、肥満を解消するためのダイエットプログラムなどがあります。自分の健康保険のプログラムを確認し、利用できるものがあれば活用しましょう。

歯科保険

歯科保険は健康保険とは違ったルールになっています。歯科保険を利用するためにはその仕組みの違いを理解しておく必要があります。 歯科保険は1年間に保険でカバーされる金額が決められており、一人当たり数千ドルが一般的です。そのため、一度にいくつもの歯の治療をしようとすると、限度額を超えてしまう場合があります。歯科医とのコンサルテーションを行い、自分の歯の状況に応じて治療プランを立てます。自分が加入している保険で適用される治療と限度額を考慮しながら、どの治療から始めるか、いつ治療を行うかなどの計画を立てていきます。 どういった治療プランにするかを判断する上で重要なのが、治療の内容によって保険の適用範囲や、限度額が違うことです。以下に歯科保険の適用範囲の例を示します。自分が加入してる保険が、どのようになっているか、これを参考に確認してください。

タイプI 予防、診断

虫歯などの予防につながる定期的なクリーニングや、最初に歯科医に掛かる際の診断はタイプ Iとして分類されます。多くの歯科保険ではタイプIは全額がカバーされることが多くなっています。ただし、このタイプに分類されるものであっても、適用される回数や期限が決まっているものがあります。例えばクリーニングは6ヶ月に1度、口全体のレントゲン(X-Ray)は5年に一度、などと決まっています。どのような治療が全額カバーの対象か確認し、期限以前に同じ治療を受けて自己負担にならないようにしましょう。

タイプII 修復治療

主に歯冠などの治療がタイプIIになります。虫歯を治し、詰め物をした場合、多くの治療行為はこのタイプになります。歯科保険ではこのタイプの治療費のほとんどをカバーしますが、Deductible(免責額)や自己負担額が決まっています。例えばDeductibleが$50であれば、まず$50を自分で払い、それに加えて治療費の20%を自己負担として払う、などと規定されています。他のタイプ同様に一定期間で適用される保険の回数が決まっています。特に同じ歯に対する期間が決まっている治療もあります。例えば1つの歯に対して歯冠治療は2年に一度などと決められています。

タイプIII 補綴(ほてつ)治療

クラウン、ブリッジ、義歯など比較的大掛かりな治療がタイプIIIになります。これらの治療は費用が掛かるため、自己負担額も一般的に高くおり、多くの保険では半額が自己負担になります。適用を受けられる期間も決められており、クラウンや義歯を入れ替えられるのは5年に一度程度と、長めに設定されています。

歯列矯正

子供のための歯列矯正も歯科保険でカバーされることが一般的です。しかし、その範囲は限られており、自己負担額が大きくなるのが一般的です。例えばDeductibleを払った後、カバーされるのは50%までで、かつ、一生の間でカバーされるのは$1,000まで、などといった形です。

歯科保険の注意点

上記のように、日本とアメリカで歯科治療のシステムが違うので、診察を受ける際にもさまざまなことに注意する必要があります。 日本人が一番注意しなければいけないのは、歯科医療の保険のカバー範囲は限定的で、十分な計画が必要である、と言うことです。例えば、歯科医に最初に行くと、現在の状態を把握するための診断がなされます。口全体のレントゲンが必要な場合もあるでしょう。親切でない歯科医の場合、患者の保険の適用の有無を確認せず診察を行ってしまいます。5年以内に既にレントゲンを別の歯医者で受けていたため、保険が適用されない、と言った事態が発生します。歯医者を選ぶ際には、患者の保険を確認し、患者の立場になってプランを考えてくれる人を選ぶ必要があります*2。 事情により、別の歯医者に移る事もあるでしょう。その際は、レントゲンの写真など、以前の診断の記録を新しい歯医者に移してもらう必要があります。こうすることにより、一定期間ではカバーされる回数が決まっている診断であっても、新しい歯医者が正しい診断を下すことができます。 大掛かりな治療の場合、あらかじめ保険会社に連絡し、どのような治療行為が保険でカバーされるのか、確認することができます。まず、治療項目毎にどのくらいの費用が掛かるか見積書(Pre-Treatment Estimate)を歯科医に発行してもらいます。この見積書を保険会社に送ると、どの項目がいくらまでカバーされるのかを示した説明書が送られてきます。これを元に、治療プランを立てると良いでしょう。
*1:私は実際に経験しました。退院してから1ヶ月ほど経ってから、何通かの請求書が届きました。すぐに全体でいくらの自己負担になるのか分からないため、非常に不安になります。
*2:アメリカに来たばかりの日本人は仕組みを良く分かっていないため、医者の意見に盲目的に従ってしまう傾向があるようです。そのため、いきなり何千ドルもの治療プランを勧められることがあります。歯医者によっては強引な場合もあるようですので、ご注意ください。