所得補償保険

所得補償保険の基本

所得補償保険(Disability Insurnace)は何らかの理由で仕事ができなくなってしまったとき、収入を補償してくれる保険です*1。死亡したときに保険金が支払われる生命保険は誰もが「万が一のときのために」と思い、会社で入っている保険を確認したり、自分で選んで加入することが多いと思います。それに対して所得補償保険は意外と忘れられている、あるいはしっかり確認されずに会社の保険に加入しているだけ、という場合も多いようです。 しかし、統計的には65歳より前に死亡する確率よりも、障害のために半年以上働けなくなってしまう(=Disability)ことのほうが多くなっています*2。医療費はある程度、健康保険がカバーしますが、働けない期間は収入がなくなってしまいます。扶養家族がいた場合はその分、大きな経済的な負担になりますから、それを補うために、自分に合った所得補償保険に入る必要があります。 この章では、主に長期の障害をカバーするLong-Term Disability Insuranceを対象として書きます。

特有の用語

所得補償保険では、特別な用語が使用されるので、説明が分かりにくい場合もあります。これらの用語をしっかり理解しておけば、保険エージェントと相談する場合や、ウェブで保険を調べるときにも役立ちます。

Elimination Period

Elimination Period(免責期間)は障害が発生してから、実際に支給が受けられるようになるまでの期間です。多くの場合、30日、60日、90日、180日のいずれかになります。Elimination Periodが長いほうが、その分、保険料も安くなります。

Benefit Period

Benefit Period(補償期間)は補償が受けられる期間のことで、2年間、5年間、65歳まで*3、一生涯などの選択肢があります。保障期間が長いほど、保険料も高くなります。障害が長く続いた場合のことも考え、5年以上の補償期間にするべきでしょう。

Own Occupation

障害のために仕事ができなくなったとき、今までと同じ職種では仕事ができないが、別の職種ならできる場合があります。専門性が要求され、所得水準が高い場合、自分の職種の仕事ができなければ収入が大幅に下がってしまいます。障害を追った時と同じ職種で仕事ができない場合に、それをDisabilityと認めるのが、Own Occupationです。Own Occupationであれば、その人の住んでいる地域で、学歴や経験にふさわしい仕事につけなくなった場合、Disabilityと認めてもらえます。 Own Occupationでない場合、つまりAny Occupationの場合は、何らかの仕事に就くことができる場合、Disabilityとして認められません。例えば脳外科医が障害を負って手術ができなった場合、Own OccupationであればDisabilityと認められるでしょう。しかし、Any Occupationであれば、例えば清掃員として仕事ができれば、Disabilityとは認められないことになってしまいます。

Pre-Existing Condition

日本語では既往症が一番近い意味ですが、同じではありません。既往症は既に治っている病気を指すのに対して、Pre-Existing Conditionは病気と怪我を含み、保険が有効になる前の一定期間(3ヶ月や1年間)に診療を受けたり薬を処方された場合を指します。また、症状を自覚しているのに医者に掛からなかった場合も、医者に掛かったのと同様の扱いを受け、Pre-Existing Conditionとなります。 所得補償保険ではPre-Existing Conditionが原因のDisabilityは保険金の支払い対象となりません。告知義務もありますから、嘘ではないにせよ、意図的に情報を告知しなかった場合も、保険の請求が却下される原因となります。どういった場合にPre-Existing Conditionになるのか、加入前によく確認する必要があります。

加入の際の注意点

保険金額の決め方

多くの所得補償保険は収入の2/3ほどをカバーするようになっていて、失う収入のすべてを補償はしません。この理由は、できるだけ加入者の職場復帰を促すためです。障害を負った際に、働かなくても何も変わらず生活できると、職場復帰への意欲が少なくなってしまいます。リハビリなどを意欲的に行わせるために、2/3ほどの補償を基本としているのです。 それ以上になると、保険料が高くなります。その為、一般的には基本的な補償額を受け入れることが多いようです。しかし、自分が障害を負った場合、配偶者が仕事を減らして面倒を見る場合があります。そういった場合には自分だけではなく、配偶者の収入も減ってしまいます。状況によっては2/3以上の補償金額にしておいたほうが安心でしょう。

Own Occupationの支給条件

Own Occupationであれば、その人にふさわしい職種に就けなくなった場合に保険金が支給されます。他の仕事ならできる状態であれば、元々の職種ではなくても仕事に就く場合もあるでしょう。True Own Occupationであれば、他の職種に就いた場合でも、ふさわしい職種に就くことができない限り、保険金が支払われます。しかし、True Own Occupationは稀で、多くの場合はModified Own Occupationとなります。Modifiedでは、他の仕事に就くことができた場合、その収入に応じて保険金の支給額が減額されてしまいます。 可能であれば、True Own Occupationの方が良いでしょう。Modifiedでは、以前の収入よりも少ない仕事をした場合でも、保険金が全く支給されなくなる場合があります。例えば他の仕事で以前の80%ほどの収入になったとします。所得補償保険で支給されるのは以前の収入の2/3ですので、他の仕事の収入が保険金額を超え、支給はなくなってしまいます。

免責期間

Long-Term Disability Insuranceは免責期間があり、保険金が支給開始されるまでに必要なお金を、他の方法で確保しなければなりません。雇用主がShort-Term Disability Insuranceを提供している場合、ちょうどShort-Termの支給が終わるときに、Long-Termの免責期間が終了し、支給を受けられるようになっているはずです。この場合は、Short-Termの支給が始まるまでの比較的短い期間だけ、緊急資金など自分の預金を使えば済みます。 もしShort-Termが提供されていない、あるいは自営業などの場合は、自分でShort-Term Disabilityにも加入するか、あるいはLong-Termの支給が開始されるまでに十分な緊急資金を用意しておくべきでしょう。
*1:Disabilityを直訳して「障害保険」と表記していることもありましたが、より正確にこの保険を表しているのは所得補償保険と言えます。日本で障害保険というと怪我や事故のときの入院費用を補償するものだけを意味するようです。
*2:特に医療や技術の発達で障害を持ったまま生き残ることのほうが多くなっているようです。たとえば車のエアバッグは死亡率を低くするのに貢献しましたが、高額医療費がかかる怪我がある状態で生き延びるケースが増えているそうです。
*3:一般に65歳から社会保障(Social Security)の受給が可能なことから、所得補償保険の必要性はその時点までと考えることがあります。社会保障の需給開始年齢は誕生年により段階的に引き上げられているので、注意してください。