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2011年米国タックスの行方(3)- Repatiriation(続2)

Max Hata
前回までのポスティングで 米国企業が低税率国に所得を溜め込んでいるばかりでなく、そのダメ押し策としてそれらの海外埋蔵金を米国税負担ナシに米国に持ち返る作戦について触れてきた。中でも「Deadly D」再編と言われる手法の注目度が高い。この手法がなぜ、この手に取引に網を掛ける目的で制定されているSec.367の網の目をくぐっているのかというところから続ける。

と言ったところで日本が世界最大級の地震に見舞われてしまった。被災された方々には心よりお見舞いを申し上げたい。またCNN等に映し出される被災地の映像を見ると心が痛む。米国のニュースでもこの地震は大きく取り上げられ、CNNでは地震から一週間は24時間このニュースのみと言っても過言ではないほどのカバーぶりだった。なぜか天気予報まで一週間程は日本列島のものに変わっていたし、有名なアンカーであるAndersen Cooperに至ってはすぐに仙台に飛び、自分の番組であるAndersen Cooper 360を日本から中継するという気合の入り方だった。一週間チョッと経ったところでリビアで反体制勢力がカダフィ政権の放逐に立ち上がってというニュースに徐々に取って代わられた感じだった。

CNNばかりでなく、NY Times、L.A. Times、Wall Street Journal等も連日一面での報道であった。最初の頃は「日本という国はこのような災害が起こっても略奪、救援物資の取り合いなどが起こらないという信じられないモラルの高い国」というニュアンスの報道がとても多かった。個人的には「そうくるか・・・」というか「そこを褒めるか・・・」という不思議な気持ちだったのだが、逆に言えば他の国では災害が起こると略奪が起こり、救援物資が奪い合いになるということなのだろう。他の国なら国民が大騒ぎして管政権のようなものはすぐに転覆するのだが、日本は大人しいので政権も楽だ、といった皮肉な見方もあった。確かに自然災害で大打撃を被る政権は多いかもしれない。カタリナ・ハリケーン時の連邦政府の対応不手際はブッシュ政権に取っては想定外の痛手だったし。

後半になると報道は原発一色だった。NHK(Japan TV)とCNNとかFoxを交互に見ていたけど、原発に関する報道には結構な温度差が見られた。米国のニュースはどちらかと言うとどんどん悪い想定をして「これはスリーマイル島レベルではなく、チェルノブイリだ」というような発言をする人も出たりしていた。でも、個人的に「なんだかな~」と思うのは、今回の日本の原発事故と異なり、スリーマイルもチェルノブイリも何の天災もなかったのに起きてしまったという点で背景が全く異なることだ。人的なミスや無理な設計で起こった事件と、世界最大級の地震と津波に襲われたケースが同レベルで比較されていることは日本人的にはチョッと悔しい感じがした。もちろん原因は何であり原発事故は怖いことには変わりはないが。日本企業の米国ビジネスの今後の柱の一つと捉えられていた原発だけに今後の米国での反応はかなり気になる。

最初の「日本という国はモラルの高い国」的な報道で連鎖的に思い出されるのが、米国のいろいろな街でタクシーに乗ると「どこから来たのか(もともとどこで生まれ育ったのかという意味)」と聞かれることが多い。「日本だよ」と言うと、「素晴らしい国で一度行ってみたい。みんな勤勉なんだよね?」というような反応が圧倒的だ。個人的なイメージでは、アメリカ人も上の人たちはよく働くので(特に会計事務所とか法律事務所のような専門業界で働いているとイヤでも皆働かされる?)、「いや、日本が特に勤勉ということはないと思います」とか「それは昔の話しです」とでも言ってしまいそうになるが、まあ敢えてタクシーの運転手と議論しても始まらないので「そうね、ありがとう」って言っておく。でもこれって凄いことで200を超える国の中で、そんなイメージを持ってもらっている国はそうは沢山ないはずだ。これは日本の先達が世界で積み上げてきた実績があってこそのイメージ。さらに今回の地震で明らかになったのは、本当にハイテクな部品の多くは未だに「日本製」であることだ。そんな素晴らしい国なのに余り希望が持てないような風潮が長く続いているのは嘆かわしい。震災を機に「がんばれ日本」というような言葉をよく聞くようになったがぜひ本当にがんばって欲しいし、日本MNC(多国籍企業)にはグローバルなタックスプラニングを実行して競争力を維持して欲しい。

*Sec.367

本題のタックスの話しに戻る。Sec.367は複雑な米国税法の中でも一際複雑な条項で、「非課税規定を利用して資産・株式が含み益を持ったまま外国に逃避して米国で課税できなくなるのを防ぐ」という当初の「Exit課税」という目的から進化して「米国法人そのものの外国逃避(=Inversion)」にも目を光らせる門番たるべきという役割をも財務省から仰せつかり、抑制不能な程複雑怪奇な状況にある。

上のDeadly Dの取引例で、Targetが資産を非課税再編のひとつであるD型再編を利用して外国法人に譲渡するステップがあるが、これは単純に考えるとSec.367でオーバーライドされて課税されるように見える。特にSec.367(a)(5)では、適格再編に基づき非課税となるであろう取引でも、国内法人の資産が外国法人に移管される場合(=Sec.361取引)は、Sec.367に盛り込まれている例外規定(=Active Tradeとかを基に非課税にしてくれる規定)に係らず、課税関係を認識するべきと規定しているから尚更そのように見える。上の例で行くとTargetの資産が外国法人に移管されるステップがまさしくこれに当たる。

つまりSec.367(a)(5)をそのまま適用するとDeadly Dは非課税で資金を米国に持ってくることができないように見える。ここで重要となってくるのが、Sec.367(a)(5)規定適用の例外規定だ。例外が多すぎて分かり難いので整理する。

資産の譲渡は課税取引である(=資産の時価と税務簿価の差異が課税所得となる、という一般取り扱いに対する「例外1」が「一定の要件を満たす再編系の非課税の条件を満たすと資産・株式譲渡は課税されない」というものだ。その例外に対する「例外2」が「ただし、譲渡先が外国法人であれば非課税再編であっても資産・株式譲渡益を認識すること(これがSec.367(a)(1)の基本的な考え方)」となる。その例外2に対する更なる「例外3」が「ただし、外国に移管された資産がActive Tradeに使われてるのであれば課税はしない(Sec. 367(a)(3))」というものだ。その例外3に対する「例外4」が「ただし、資産が非課税規定のSec.361下で移管される場合には、Active Tradeであっても課税する(Sec.367(a)(3)をオーバーライドしてSec.367(a)(1)に戻す)」となる。これが「Sec.367(a)(5)」だ。そして更にこの例外4に対する「例外5」が問題の部分だ。例外5によると「資産を譲渡する法人が5人(または5社)以下の米国株主に支配されており、「税務簿価調整」が行われるのであれば、Sec.367(a)(5)の適用はなく、したがって、Active Tradeに基づく免税措置を受けることが可能」となる。米国の税法は複雑怪奇だ。

この例外5で求められる「税務簿価調整」とは何か?このポイントが大きな争点となる。地震関係に紙面を使ったのでこの続きは次回。

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