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ついに米国もテリトリアル課税に?(3)

前々回から米国国際課税システムの抜本的変更である「テリトリアル化」のWays and Means Committee(W&M委員会)法案に関して書いてきているが、今回はどのような条件で外国からの配当が非課税となるのか、という規定そのものを少し掘り下げてみたい。なお、ここで書いている改正案はあくまでも現時点では「案」に過ぎない点再度強調しておく。

*配当の95%非課税

特定の外国子会社から受け取る配当金は米国案でも日本同様に95%非課税となる。米国版のテリトリアル規定を策定するに当たり、米国財務省は各国の規定を分析しているだろうから、その意味でここの部分が日本と同じとなっているのは興味深い。

なぜ100%非課税にしないかというと、配当を支払う外国子会社の株式に投資しているということはその投資のためのコストが米国親会社側で発生しているだろう、という前提に基づく。すなわち、株式に投資しているコスト(主に金利)を損金不算入とはしない代わりに、その見合いで5%部分は課税扱いさせろ、という考え方となる。この点に関しては注意が必要で、実はオバマ政権は数年前から全く逆の方向を向いた改正案を提案し続けている。オバマ政権のここ何年かの提案は、外国子会社からの配当を非課税とするどころか、その逆で配当しないのであれば、外国子会社株式を保有しているために発生しているコストを否認しようとするというものだ。W&M委員会の外国配当非課税案が「ホトトギス鳴くまで待とう」的なアプローチなのに対し、オバマ政権の案は「殺してしまへホトトギス」のように感じられてしまう(?)。オバマ政権は国際税制に関しては短気な信長だ。

またオバマ政権は実は先週、W&M委員会とは別に、独自の抜本的税法改正案を公表している。その改正案には外国子会社からの配当非課税は規定されておらず(したがってテリトリアル化は想定されていない)、前提はそのまま全世界課税ベースのものだった。この点で今回のポスティングのテーマであるW&M委員会の税法改正案とは全く異なる方向である点面白い、というか国の方向としてチョッと支離滅裂な感じだ。こんな基本的な方向性一つも下院の重鎮W&M委員会とコンセンサスが取れていない点ひとつ取って見ても、米国税法の抜本的改正はまだまだ時間が掛かりそうなことが分かる。ちなみにオバマ政権による改正案はどちらかというと「コンセプト」的なものに留まっており、詳細は議会の決定に委ねるという方向であった。W&M委員会の出した改正案は法律の文言ドラフトまで入っている具体的な案であることから、この点でも対照的だ。

米国でこの手の抜本的税法改正が最後に実行されたのは1986年のレーガン政権によるものだが、その際も実際には1982年頃から改正の話が出てきて、その後4年程掛けてようやく法制化に漕ぎ着けたという経緯がある。つまり、大きな改正を達成するにはどうしても数年という長い歳月を要するものだ。しかも1986年と言うと、今の米国がおかれている状況とは大きく異なり、米国が世界唯一の経済派遣大国として君臨していた時代だ。一方、今日の税法改正は巨額の財政赤字を減らすという大条件がある中での策定となるため、場合によっては1986年よりも時間が掛かってもおかしくない。

また、2012年は米国大統領選挙の年となるため、2013年に新政権(または新内閣)が誕生するとする。
となると、実務的に改正に着手できるは早くても2013年後半、したがってこの意味でもテリトリアル化を含む改正が法制化されるとしても2014年以降にとなるだろう。米国の下の付いている外国子会社を日本の下とかにつけ直すべきかどうかを検討している日本企業としては早くテリトリアル化に決着を付けて欲しいものだが、そうは簡単にいかないようだ。

*対象はCFCまたは10/50法人からの配当

非課税措置措置は、基本的にCFC(Controlled Foreign Corporation)と呼ばれる特定外国法人が対象となる。また、米国株主の選択により10/50外国法人と呼ばれる特別な法人から受け取る配当も対象とすることができる。

CFCとは米国株主が議決権または株式総価値の50%以上を持っている外国法人を意味する。ただし、ここで言う米国株主とは「全ての米国人(または米国法人)の株主=米国株主」と数える訳ではなく、外国法人の議決権の10%以上を直接、間接的に所有している者のみを指す。現状の法律下でも投資先の外国法人がCFCとなるかどうかは重要な検討事項である。外国法人がCFCとなると、そこで認識される一定の所得(Subpart F所得)が配当されないでも米国株主側で課税されたり、CFCの株式を売却してゲインが出るとCFCの米国税務上の剰余金(E&P)の範囲でみなし配当となったり(間接税額控除が取れるので悪い話でないことが多い)、CFCを非課税清算とか非課税再編してCFCでなくしたりするとE&Pを配当所得として認識させられたり、と様々な課税関係が発生する。

今回の改正案では10%以上の議決権を持つ法人米国株主がCFCから受け取る配当は95%を非課税処理することができる。ただし、例によってこの手の規定に付きものと言える最低保有期間が規定されており、配当日の前後それぞれ1年、つまり合計で2年の間に1年以上外国法人がCFCであり(10/50法人の場合には1年以上10/50法人であり)、また米国株主は1年以上米国株主でなくてはならない。過去ばかりでなく、配当後の1年を見ることができるのが面白い。実務的には配当時点での課税・非課税判断が困難な局面があるような気がしてしまうが。

上でチラッと触れたが、従来から米国株主がCFCの株式を売却して得るゲインはCFCのE&Pの範囲でみなし配当となるが、改正案では、株式売却ゲインに関しても他の適格条件を満たしていれば非課税措置の対象となるとしている。改正案を読む限りE&Pの金額に係らずゲインは非課税措置の対象となるようだ。ここは日本の規定と異なり、米国のシステムがより総合的な「Participation Exemption」の形を目指していることが分かる。

加えて外国法人がCFCではないがいわゆる10/50法人の場合も、米国株主はそこから受け取る配当を非課税という選択を行なうことができる。10/50法人とは議決権または株式総価値の50%以上を米国株主が保有していないためCFCにはならないが、少なくとも一人議決権の10%以上を所有する米国株主が存在する法人を意味する。法人米国株主が上述の保有期間条件を満たす場合に非課税措置を選択することができる。ただし、この選択は注意が必要で、技術的にはこの選択の意味は10/50法人をCFCと取り扱いますということなので、他のCFCに対する規定の全てが10・50法人に適用されることとなる。

10/50法人というコンセプトは現行法下では間接税額控除を取ることができる最低持分が10%であることから重要となるが、そのコンセプトを流用して配当非課税措置の適用選択を認めるというものだ。なお、当然と言えば当然だが、95%非課税の対象となる配当に関して税額控除を取ることはできない。

10/50法人からの配当に関して非課税措置適用の選択をしない場合、すなわち10/50法人をCFC扱いしない場合、従来であれば認められた間接税額控除の計上が認められなくなるとされている。

*恐怖の移行措置

米国のテリトリアル化はタダでは実現しない点は前回のポスティングで簡単に触れた。それがこの「移行措置」だ。法案によるとテリトリアル化が適用される課税年度の期首時点で(正確にはテリトリアル化が適用される課税年度の前年の期末時点で)、それまでに累積されているCFCおよび10/50法人の所得全額(累計E&Pで以前にSubpart Fとして課税済みの金額は除く)の15%に当たる金額をみなし配当所得として米国株主に(各自の持分に準じて)課税するとしている。技術的には15%相当額をSubpart F所得として留保金課税するというものだ。その年に実際に他のSubpart F所得が存在する場合には、15%相当額に本当のSubpart F所得を足してトータルの課税所得を計算するものと思われる。

テリトリアル化の前の状態でみなし配当課税されるということは配当に対する税率は35%となることから実効税率的にはこれは5.25%の配当課税となる。ここで興味深いのは10/50法人の累計E&Pは、10/50法人からの配当を米国株主が非課税とする選択をするかしないかに係らず、この移行措置の対象となる点だ。

なお、このみなし配当はテリトリアル化の前の状態での税法が適用されるので間接税額控除の計上が認められる。ただ以前から何回も触れている通り、米国多国籍企業が海外に貯めている埋蔵金はいわゆる「Low Tax Pool」のものが多い、「High Tax Pool」であればすでに配当して税額控除も取ってしまっているかもしれないし、もともと税率がゼロに近いような国にたくさんお金を貯めてきたのだから税額控除は焼け石に水のようなものとなるケースも多いだろう。

実際に配当を受けていないのに巨額の税負担が発生する可能性を考えてか、移行措置に基づく課税は最長で8年に亘って税金を分割払いすることができる。分割払いを選択する場合にはもちろんだが金利が課せられる。また、8年経つ前に法人清算とかになる場合にはその時点で残高全額の支払いが必要となる。

このように制度移管時点で(正確には1年前に)過去の累積所得に5.25%のトールチャージを支払うこととなるが、その後、実際に米国に配当を行うとどうなるか?一回課税されているので全額非課税となってもおかしくなさそうだが、実際にはそうではなく、通常の配当同様95%のみ非課税となる。ということはもともと5.25%課税済みであることを考えると、さらに5%部分が25%で課税され(改正案がW&M案のまま可決していると仮定して)追加で実質1.25%の課税となる。結果としてトータルでは6.5%の税負担となる。これはいわゆる「PTI(Previously Taxed Income)」規定が撤廃されるため、過去に15%の部分に関して課税されているという点を考慮せずに一律95%非課税規定が適用されるためだ。

と大分長くなったが、次回はこの移行措置が抱える大きな問題点、その他の細かい規定に触れる。また、外国からの配当が非課税となると、一旦国外に逃げた所得は二度と米国で課税できない。これはIRS的に考えると「今後はますます海外への所得移転は許されない」ということになる。この点に関しても追加措置が規定されており、こちらも次回以降とする。