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ETF→mutual fundとwash sale

jinmei

1つ前の記事では、分配金再投資が不便というETFの欠点を補うという観点から、ETFの分配金を自動再投資するDRIP制度について書いた。一方、その記事でも触れたように、ETFを通常の投資信託((traditional) mutual fund, TMF)に転換することで、ETFの欠点を抜本的に解消するという考えもあり得る。この記事では、こうした転換についてのちょっとした詳細と、wash saleとの関連についての筆者の最近の学習結果をまとめたものである。

筆者の場合、具体的には、新興国の株式ETFであるVWO(課税口座で保有)を対応するAdmiral classのTMFであるVEMAXに転換することを検討していた(なお、Investor classのTMFであるVEIEXだとexpense ratioがかなり割高なので、DRIPも使えるとなればわざわざ転換する必要はないだろう)。この転換を実現するもっとも簡単な方法は、ETFの一部または全部を売って、すぐに同額のVEMAXを買うことだろう(ちなみに、Vanguardの場合、(ほとんどの場合)TMFからETFへの転換は透過的、つまり売買による税金を発生させずに実行できる)。

ここでまず問題になるのは、このような売買(における売却)はwash saleになるのかということである(ちなみに筆者の保有するVWOは大部分のlotが値下がりしていて平均でもマイナスなので、いま売却すればロスになる)。これが一筋縄ではいかない問題だった(アメリカの場合、税金が関係する話は一筋縄ではいかないことの方が普通だが)。

上のlinkでも挙げたIRSの資料(Pub 550)によれば、該当証券の売却の前後30日の期間に”(substantially) identical”な証券を買うことがwash saleとみなされる要件である。ところが、この”substantially identical”が具体的に何を意味しているのかが、とくにmutual fundやETFの場合ではほとんど規定されていないらしい。VanguardのFAQでは、Vanguardのmutual fundとETFの違いについて、”many characteristics—like the fund’s objective, holdings, and management—are identical”とまで書かれているので、一見するとIRS的にも”substantially identical”と考えるのが自然なように思われる。しかし、Fidelityの説明には、

It could also be argued that a sale of mutual fund shares at a loss, followed by the purchase of an ETF that is similar to the mutual fund, is outside the wash sale ban.

などとあり、mutual fundとETFの相互売買はwash saleの対象外となるようにも読める(“could be”とか”similar”とかいったあたりに曖昧さがあるのも気持ち悪いが)。

結局、いろいろ調べてみても判然としなかったのだが、一番参考になりそうと思ったのはとあるblog記事だった。この記事では、売買する2つの銘柄の値動きの相関がある程度高ければwash saleが成り立つと考えるのが安全だとしている。VWOとVEMAXの相関まで具体的に調べてはいないのだが、普通に考えればほとんど1に近いくらい高いだろうから、やはりこれらの相互売買はwash saleに引っかかると考えるのが安全だろう。

ただし、筆者の場合、この売却によってtax loss harvestingを狙っているわけではないので、wash sale扱いになること自体は実は問題ない。Wash saleのせいで申告できなかったロスは、結局対象となる購入証券のbasisに足されて相殺されるので、税金上の効果は実質的にはまったく売買しなかったのと同等だからである。

Wash saleと考えるのはいいとして、その次の問題は、具体的にどのように「basisに足して相殺」すればいいのかがよくわからないということである。損失の合計を新規購入のMTFのbasisとして均等に足すというような単純な方法でよければ簡単なのだが、IRS Pub 550の記述からすると、まったく同銘柄の株式を売買した場合のように、売却した1株(口)が購入した1株(口)に対応することを前提とされているように思われる。mutual fundとETFの間には通常そのような関係はないので、売却したETF n株が購入したTMFの何口に相当するのかは(少なくとも一般の個人には)わからない。

ということで、Vanguardに直接問い合わせてみたのだが、Vanguardがやってくれるのは同一アカウント内の同一証券の売買に伴うwash saleの価格調整のみとのことだった(ここでいう「同一証券」は、より正確には同じCUSIP番号の証券で、VWOとVEMAXでは異なる)。個人でも何らかの基準に基づいてbasisの調整を計算することは可能かもしれないが、Vanguardの口座で管理されているものと違うbasisを自分で管理するのは面倒だしあとあと間違いやトラブルの元になりそうで、そこまでしてTMFに転換するほどの利点もなさそうである。Wash saleにまつわる諸問題を完全に避けるために30日待ってから購入するという方法もあるが、これには価格変動のリスクがあり、やはりそれを負ってまで転換を測るほどの利点はなさそうである。

結局、とくにDRIPで再投資するのでもそれほど不利でもなさそうということもあり、筆者としてはTMFへの転換というアイデアは基本的にボツになった。アメリカの税金の制度に関する、他に応用が効きそうもない無駄な知識だけがまた増えることになってしまった…。

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