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ドル転に伴う課税

一つ前の記事においては本題ではなかったが、”nonfunctional”通貨を”functional”通貨に変換する(たとえば日本円を米ドルに替える)行為はCFR 1.988-1(a)(1)(i)の”disposition of nonfunctional currency”に相当するため、”section 988 transaction”であり、この両替の時点でexchange gain/lossが実現されて該当年の課税対象となる。たとえば、CFR 1.988-1(a)(6)Example 2には、カナダドルを米ドルに替える操作におけるカナダドルの”disposition”がsection 988 transactionであるという例が示されている。

したがってたとえば、日本で保有していた株式を日本の証券会社で売却し、受け取った現金を米ドルに替えてアメリカに送金したというような場合、売却によるcapital gain/lossの税金処理(これは前の記事の本題)に加えて、ドル転で生じるexchange gain/lossの税金処理も必要になる(なお、替えた米ドルをアメリカに送金したかどうかは税金処理の必要性とは無関係だが、アメリカの居住者がわざわざドル転するのは大体そういう目的の場合だろう)。前の記事でも参照したコラムでも、まさにこの場合の例(ただし通貨は米ドルとユーロ)が具体的な数字付きで紹介されている。

以下では、おもにこのような円からドルへの変換のケースを念頭に、具体的にどのように課税されるのかと、それについてのtax returnでの報告方法についての筆者の調査結果をまとめている。ただし、実際に読めばわかるように、これをまとめているいまの段階でもまだかなりの部分が謎につつまれたままである。また、いつものことであるが、多くの部分が法令やIRS資料の筆者による素人解釈にもとづいているため、内容の信憑性には一切保証はない。この内容を信じて何か行動してもその結果には筆者は責任は持てないのであしからず。

いろいろ細かいことを書く前に、要点をまとめておくと以下のような感じである:

  • 日本円をドルに替えると為替の変化による”exchange gain/loss”が実現されたとして課税される(ことがある)
  • 円建ての債券が満期になって償還されたときにもexchange gain/lossが実現したとみなされる(戻ってきた日本円をドル転するかどうかは無関係)
  • 具体的なgain/lossの計算は、細かいところまで考えるとかなりモヤモヤする
  • Exchange gain/lossの申告にはauditのリスクを伴う(らしい)

さて、株式売却の代金をドル転するという想定シナリオのような場合、exchangeのbasisは、CFR 1.988-2(a)(2)(iv)(C)の例で示されているように、capital gain/lossを求めるために計算した米ドル換算proceedsになる。一方、exchangeで実現された米ドルの金額の決め方は、CFR 1.988-2(a)(2)(ii)(A)で規定されている。ここの記述はやや曖昧で、挙げられている例も通貨から通貨への変換でないのでいまひとつわかりにくいのだが、この項が参照しているInternal Revenue Code (IRC) 1001(b)によれば、これは要するにexchange元のproperty(この場合は日本円の現金)のfair market value(FMV)に相当すると言っているようなので、結局変換した日本円をその日のスポットレートで米ドルに直した値ということでいいのかもしれない。または、ドル転した結果の米ドルの金額自体がFMVだと言えるなら、それをそのまま使ってもいいのかもしれない。

なお、筆者が知っているある専門家は、株式売却からドル転までの日数が短い場合は米財務省発表の4半期レートを使う(ことにする)のがおすすめだと言っていた。これだと結局同じレートを使うことになってgainもlossもないことになり、報告の必要もなくて処理が楽(かつ万一問い合わせを受けても財務省のレートを使いました、という説明ができる)だというのが理由である。Section 988まわりの文献で盛んに出てくる「スポットレート」にこの4半期レートが相当するのかどうかは筆者にはいまひとつ謎なのだが(CFR 1.988-1(d)(3)にはある種のケースで4半期ごとにまとめてレート計算する場合の規定があるが、これは個人の株取引のようなケースというより事業をやっている人の場合向けのように読める)、実績のあるプロが採用している方法のようなので少なくとも実務上は問題ないのだろう。

また、このような簡便法が採用できないとしても、上記のようにFMVの米ドルの額を求めるのは難しくないだろうから、申告の手間はあるとしてもexchange gain/lossの計算自体にはとくに悩まなくて済みそうにも思える。

しかし、CFR 1.988-2をさらによく読んでみると、まだモヤモヤする部分が残っていることに気がつく。1.988-2(a)(1)(iii)およびその後の例からすると、銀行等のnonfunctional通貨口座の残高にはfunctional通貨に換算したbasisが対応することになっていて、その口座でのお金の出し入れがあるとその都度このCFRに規定された方法でbasisを調整する必要がある(そして、最終的にドル転のような”disposition”が発生すると、計算してあるbasisを元にしたexchange gain/lossへの課税が生じる)というように読める。この規定を字面通りに解釈するなら、たとえばアメリカ在住の日本人が日本に置いてある銀行口座の日本円残高に対応する米ドルのbasisを管理していないといけないことになるが、ビジネスの都合で日本に銀行口座を持っている法人のような場合はともかく、一般の個人が全員こんなことをしているのかはかなり疑問である。また、仮にこれを律儀に守ろうとしたとしても、もともと日本居住者だった頃からあった分の残高に対応するbasisをどう決めるのかも謎である(当然といえば当然ながら、section 988関係の文書類は全般的に最初の取引が米ドルの現地通貨への変換であることを前提にしていて、筆者の見る限りでは途中から米国居住者になった人のような例はカバーしてない)。

一方、株式の売却によって得た日本円をドル転するような場合は、こうした銀行等の口座を利用することが一般的だろう。すると、もともとbasisが曖昧な口座残高にさらに新たな入金があり、さらにその一部をドル転した場合のexchangeがどういう扱いになるのかという、非常にモヤモヤした疑問に直面することになる。

筆者は、このモヤモヤを解消する決定的な答えは持っていない。上記四半期レート適用の場合のように、個人の場合の実務上の簡便な処理というのが存在しそうに思うのだが、そこまでくるともはや経験を積んだ専門家にしか答えられない領域だろう(一般的な考え方が存在するなら筆者も知りたいものである)。

なお、nonfunctional通貨のdispositionがあっても、それが”personal transaction”であり、生じるexchange gainが$200を超えない場合はsection 988 transactionとはみなされない(IRC 988(e)による)。”personal transaction”の定義はIRC 988(e)(2)で与えられているもののかなり抽象的で素人にはわかりにくいのだが、要するにビジネスとか投資用途でない取引ということのようだ。具体的にこれにあてはまるのはたとえば外国旅行においてドルを現地通貨に替えて滞在費として使い、またドルに戻すような場合らしい。実際、こんなのにいちいち課税されていたらほとんどの人は違反になってしまうだろう。同様に(ここは筆者の素人解釈だが)、非ドル通貨の銀行口座からおろしたお金で現地アマゾンで買い物をする(disposition)というような場合もおそらくpersonal transactionとなるのだろう。しかし、section 988まわりの文献を字面通り読む限りでは、その口座を使ったお金のやり取り自体は一般的には「投資目的」だとしてsection 988 transactionとみなさられるように思われる。

とりあえずこのモヤモヤはおいておくとして、仮にドル転に伴うexchange gain/lossの米ドルでの値が計算できたとする。次の疑問は、それをどのようにtax returnで報告するのかということである。IRC 988(a)(1)(A)にある通り、一般的に通貨のsection 988 transactionに伴うgain/lossはordinary income(またはloss)として報告することまではわかる。しかし、筆者の調べた限りでは、IRSの文書でこれを具体的にどのように報告するのかを規定しているものは存在しない。ただし、種々の非公式資料(たとえばTurboTaxのQ&A)に書かれていることを総合すると、この値はForm 1040 line 21の”Other income”で報告するものらしい。ちなみに、この”Other Income”にどのような所得が含まれるかについての公式の資料はIRS Pub 17だが、ここにはexchange gainのことは何も書かれていない。

TaxAct Plusでは、”Federal Income”のexaminerの最後にある”Other income”のreviewをクリックし、”Federal Other Income Worksheet”をadd、長い質問に”No”と答えながら最後の”Other Income – Miscellaneous”まで進めて”Yes”をチェックすると現れるフォームに金額を書き込むとその値がForm 1040 line 21に反映される(lossのときはマイナスの値を入力する)。

なお、上記の専門家によると、このようにexchange gain/lossを報告すると(というか一般にline 21が埋まっているとということかもしれない)、とくにlossの場合にIRSの監査(audit)を受ける確率が高まるそうだ。せっかくモヤモヤする部分を乗り越えてまじめに報告しても(していない人、あるいはその必要性を認識していない人も多そうである)そのあげくにauditを食らうのでは泣きっ面に蜂である。とりあえず、basisとなるはずの売却時の取引報告書と、ドル転した時の銀行の取引の記録、およびこれらの日(前者は受渡日)に適用した変換レートの証明になるもの(web pageのコピーなど)を用意しておけば一応の説明はできそうだが、銀行経由だった場合に仮に上記のモヤモヤ部分についてさらに説明が必要になったらどうすればいいのかは筆者にはよくわからない。売却からドル転までが短期間だったとして、4半期レート適用でいいということにして結果的に報告しないで済ますというのが結局もっとも誠実かつ安全な対応なのかもしれない(ただしその解釈でいいかどうかには筆者は責任は持てない)。

ちなみに、CFR 1.988-2には他にも直感に反するような規定が含まれている。この(b)(5)に、debt instrument(要するに債権類)の元本が満期などにより償還された場合の扱いが規定されているが、それによると、

The holder of a debt instrument … shall realize exchange gain or loss with respect to the principal amount of such instrument on the date principal … is received from the obligor or the instrument is disposed of.

とあり、元本の償還の時点でexchange gain/lossが実現することになっている。割引債のような場合でなければ現地通貨では償還による損益はないのだし、信用リスクの低い債権(国債等)を満期まで持つ場合の金融商品としては実質似たようなものである定期預金(CFR 1.988-2では”time deposits”と呼ばれている)では満期の段階でexchange gain/lossが実現するという規定はないので、なおさら腑に落ちないものがあるのだが、こういうものらしい。さらに、某専門家によれば、このgain/loss(とくにlossの場合)をまじめに報告すると、これまたauditの確率が高まるのだそうである。正直者がauditを受けるこの枠組みはなんとかしてほしいものである…