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Inversion(17)「PfizerついにInversion断念」

Max Hata
一昨日ポスティングした財務省による2014年・15年のNoticeを規則化すると同時に、新たな制限を加えたInversionの財務省規則。Pfizer等の最近のInversionで頻繁に見られるInversionした「外国法人」が他の米国法人を次々と飲み込んでいく「Serial Inverter」の取引を研究し尽くし、それらのInversionが機能しないように形振り構わず分母の算定法を改定した結果(詳しくは前回のポスティング参照)、財務省はついにPfizerのAllergenとのInversionを阻止することに成功した。

Pfizerは、財務省規則が新Inversion規則を公表してたった2日後に当たる米国時間4月6日に財務省規則に盛り込まれた新規則は先のNoticeのScopeを逸脱しており予想外のもので、Break-up Feeを支払ってAllergenとの統合を断念すると正式発表した。これで$160Bと言う史上最大の大型Inversionは当面無くなった。と同時に統合で予想されたいろいろな事業目的も達成できずに終わったこととなる。全ての合併合意書にはClosing前に予期せぬAdverse Conditionが発生したら解約できるというMAC条項が入っているが、今回はそれに当たるのだろう。MAC条項をトリガーさせるのを「Calling a MAC」とかって表現するけど、まさしくその状態だ。それだけ予想していない規則だったということになる。

前回までのPostingで散々触れた二つのNoticeが発表された後にサインされた統合だっただけに、Noticeに規定される制限は満たしていたはずだ。にもかかわらずそれ以上に強力な形で規則として最終化されるとは予見可能性が低い。現にPfizerの内部事情に詳しい者が「Noticeが強化されて規則化されるリスクは想定内だったが、ここまで露骨な強化は全くの想定外」とコメントしたとも伝えられている。PfizerとAllergenは税法が変わりDealがCloseしない可能性は極めて低いと判断していたものの、いかなるContingencyにも対応できるようプランしていたため、各々残念ではあるが個々の事業主体として事業戦略はバックアップとして存在しており、プランBで進むということだ。Pfizer側はConsumer Healthcare事業部のスピンオフ、Divestitureを軸に今後の戦略を練る。

PfizerのInversionは2015年11月に合意され、2つのNoticeが出た直後だっただけに世間をアッと言わせたものだ。Closingは2016年第2四半期と予定されていたので、財務省は意地でもその前に規則を強化してPfizerの事実関係が機能しない形で最終化したかったのだろう。4月4日は第2四半期の4日目だ。数多いInversionの中でもそのサイズ、会社の知名度、大胆さ、等あらゆる面でInversionの金字塔となるはずだった。Pfizerは2014年にもAstraZeneca を相手にInversionを試み頓挫した過去を持つ。今度こそと気合が入っていたPfizer Dealに一矢を報いて財務省はハッピーだろう。

でもこれで本当に米国にとってハッピーエンディングなんだろうか?MNCにとって世界一使い勝手が悪く、税率の高い法人税を無理やりPfizerのような法人に課し続けることで、グローバル市場で競争力を失わさせるような事態を延々と続けて。最終的には米国法人税を変えないとInversionはなくならない。米国法人税を時代に沿った形に変えることができない状況で、Inversionのテクニック対策を小手先的にタイトにして、究極的には米国MNCの競争力が弱まり、そのうちStuffingとか過去のInversionナシでも本当に相対的な価値が低くなり、外国企業に買収されSection 7874なんか問題とならないTermでM&Aされ、自然にInversionされてしまう日が来るかも。

また、Inversionで米国の雇用まで危うくなるような論調がメディアに登場することがあるけど、本当にそうだろうか?InversionしてもPfizerのオフィスはNYCの42nd Streetから無くなる訳でもないだろうし。変な例えかもしれないけど、別にNY法人でなくてもNYに拠点があれば雇用はそこにある訳なのと似てる。米国上場企業の多くがデラウェア法人だけど、実際にはデラウェアを本店所在地としていないのと同じだ。

Pfizerの現時点での実効税率は20%代前半で、決して悪くない。それでもInversionしたら17%程度に下がると言われていたので、会社の規模を考えると5%低減のメリットは大きい。しかも外国子会社に眠る埋蔵金が$80B(100円換算でも8兆円)と言われているので、その資金を還流できない米国税法のデメリットは大きい。

他のDealへの影響も気になるところ。BaxaltaのShireとのInversionはそのまま続行の見通し。また先日のポスティングで、Third Country規定の話しの際に触れたHISとMarkitのInversionもセーフだったようだ。

今回の財務省規則、Inversionそのものに対する手法への対抗策の極端さと並び、前回のポスティングで触れたInversion後のEarnings Strippingを規制するための過少資本税制の規則も動揺というか、驚きをもって迎えられている。この点は日本企業に関係する部分もあるので、また次回。

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