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Inversion(18)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

いくらルールを厳しくしても止むところを知らないInversionに対し、議会および財務省、特に近年は財務省がムキになって次々と規制を厳しくしてきた。1990年代から続く「イタチゴッコ」のような歴史は前回までのポスティングを読んでもらえればよく分かると思う。軽い気持ちで書き始めたInversion。当初は5~6回書けば終わるかな、と考えていたが、ナンと18回目に至り、まだ全然終わっていない。塩野七生のローマ人の物語には及ばないが(引き合いに出すこと自体が僭越)、あきっぽい僕としては珍しく長い。Inversionは一義的には税法の問題ではあるけど、今日の米国が直面する広範な問題を具現しているようなところがあるし、テクニカルにも超ディープなものがあるのでもう少し続ける。塩野先生と言えば、ローマ帝国もルビコン川を渡ったシーザーからアウグストス、そしてその後の歴代の皇帝と姿を変えて行き、もちろん最後は崩壊してしまったけど、その歴史から個人的には政府は小さい方がいいな、といつも感じてしまう。米国も賢者が過去の歴史、失敗から学び、素晴らしい憲法を制定してここまで来たけど、「Founding Fathers」が見たら嘆かわしく思うであろう今日の政局・・。

と話しが長くなる前にInversionに戻ろう。Inversionにかかわる財務省と米国MNCの関係を見ていると、ひとつ思い出す寓話がある。「北風と太陽」だ。知らない人はいないと思うけど、北風と太陽が旅人のコートを脱がせるという力比べをするアレだ。北風という財務省が規制を思いっきり厳しく吹きつけると米国MNCという旅人はInversionというコートをしっかりと押さえ続ける。一方、もし太陽という米国税法の抜本的改正が実現すれば、旅人は自らInversionを止めて脱ぎ捨てる。太陽が出るのは早くても選挙後に新政権となってからだからしばらくは北風の冬が続く。

Earnings StrippingはBEPSのBase Erosionと同義語であり、MNCが高税率国で稼いだ所得を利息、ロイヤリティー、サービスチャージ、その他の手法で合法的に低税率国にシフトすることを意味する。米国MNCは徹底的にEarnings Strippingしているが、実は米国を頂点とするMNCは国外関連会社から借入をするとみなし配当となるため、グループファイナンスを利用したEarnings Strippingができないという致命的な(?)欠点がある。そこでInversionして、外国オペレーションからの所得を米国税法から切り離すと同時に、米国オペレーションの課税所得までもストリップしてしまおうと考える。このことからストラクチャー的なInversion(すなわち組織再編を通じて米国を頂点とするMNCが外国を頂点とするMNCに転換させること)とInversionした後のEarnings Strippingは切っても切れない縁にあり、そのことからSection 7874とセットアップでEarnings Strippingに網を掛けるというのは当然の流れとなる。

日本MNCは生まれながらにInversionされているストラクチャーを持つ。1980年代から90年代に掛けて日本製品が米国市場を席巻したころ、日本企業はマーケットシェアが高いにもかかわらず課税所得は低いことに財務省は目を付けた。移転価格、Earnings Strippingを駆使して高税率国の米国から低税率国にある関連会社に所得を巧みに移転しているのだろう、と推測した訳だ。それは当然過ぎる発想で、米国企業(というか日本以外の国のMNC)であれば間違いなくそうするからだ。そこで1989年にはSection 163(Earnings Stripping規定)、1993年には1968年以降改定されていなかった移転価格税制のSection 482の最終規則が公表された。実態としては日本MNCの課税所得が低めに推移していたのはマーケットシャア重視の戦略から薄利多売的な側面があり、システマティックに米国の課税所得を移転していた実態はないし、実際にその事実は2008年の財務省のスタディーで明らかにされた。米国企業とか他の国のInbound企業は日本企業がもっと真剣に合法的な範囲でEarnings Strippingを検討しないのが不思議でしょうがない。米国MNCがここまで苦労して実行したり断念したりしているInversionストラクチャーを生まれながらに備えているわけだし、日本は税率は高く予見可能性が低いとは言え2009年からテリトリアル課税になっている。

というバックグランドで、今回のInversion規則には「Proposed」という形でEarnings Stripping規定が追加された。Earnings Strippingを直接規定している条文はSection 163だけど、163に基づいた財務省規則はProposedのまま20年以上も最終化されていないし、最終化される気配もない。したがって法的にはSection 163には財務省規則がないのと同じ状態だ。Section 163のProposed規則に規定される連結納税グループ外の主体を合算して計算させる部分は条文のスコープを逸脱していると考えられること(すなわち三権分立に違反)、またそのOperativeなルール(みなし持分を加味する部分)を文字通り解釈するとグループの構成が非現実的なものになることがあること、からグループ算定の部分は特に踏襲する必要なしと考える向きも多い。

一方、今回のEarnings Stripping規則はSection 163ではなく、過少資本税制を規制している条文Section 385の下で発表されている。このSection 385は過去にも財務省規則が発表されたことがあるが、散々酷評されたあげく白紙撤回されてしまったという過去を持つ。前回のポスティングでも触れたが、今回のSection 385の規則はInversion規則の一環に盛り込まれたにもかかわらず、適用対象はInversion企業に限定されていない。この点はかなりの驚きをもって迎えられている。Inversion規定そのものは日本MNCには直接関係ない部分も多いが、このEarnings Stripping規定は直接関係があることになる。

ということで、次回はこの規定の具体的な内容に関して見てみよう。