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Inversion(21)「Inversion規則とアーニングス・ストリッピング対策」

4月4日に財務省は気合いが入りまくったInversion規則を発表したが、それから数週間経った現在、もっぱらの関心はInversionそのものを難しくした暫定規則の部分よりも、アーニングス・ストリッピングに網を掛ける目的で併設された過少資本税制にかかわる規則案に集まっている。

それもそのはずで、Inversion規則の一環で発表しておきながら、アーニングス・ストリッピング規則案の適用はInversionした事業主体に限定されず、日本企業の米国事業を含む「全納税者」に適用となっているからだ。しかも、規則案の内容が従来の過少資本税制のあり方を大きく逸脱しているというか、手段を選ばずというか、かなり乱暴で、かつ借入が資本とみなされる際の二次的な影響についてDeepに検証した上で公表しているのかどうか疑問もあり、財務の基本であるCash Poolingが実質不可能になる懸念があるなど、適用に実務上の困難が多過ぎ、話題に事欠かないからだ。当然、大きな反響(反発?)を巻き起こしている。

余りの反響に、当初「Inversion関係の一連の規則は早々に、夏にも最終化する」と宣言して勢い付いていた財務省も、ここに来て若干トーンダウンの観は否めない。そんな現実を受けて、先日財務省はSection 7874と385の規則を各々別に最終化することも辞さないと発言し、せめて「Section 7874部分の暫定規則のみ早期に最終化」という流れが現実的なところとなりつつある。Section 385のアーニングス・ストリッピング部分は今年中に最終化できるかどうかも不明な状況だと言えるだろう。多くコメントがLaw Firm、Accounting Firm、Business Communities、Academic界から寄せられるだろうし、最終化するにしてもそれ相当の手直しまたは適用範囲、定義の明確化が必要に見える(というか手直ししてもらわないと困る?)。でも今年は大統領選挙。ということは規則を早く最終化しないと大統領、そしてそれと付随的に財務省幹部も新チームに変わってしまうことから、規則自体の運命が不明となる。この夏、目が離せない話題の一つだ。

そんな不透明な環境の中、Inversionを済ませているMNC、または最初から外国に所有されているMNCは今から規則最終化までのこの貴重な期間を「もしかしたらEarnings Stripping最後のチャンス」と位置づけ、早速想定されるシナリオに基づきプラニングを開始している。もちろん日本企業以外の話しだ。2004年に日米租税条約が改定され配当に対する源泉税がゼロとなり、さらに2009年には日本で海外子会社からの配当が実質非課税になった時点で規則案がターゲットとしている「Leveraged Dividend」等の実行の機は熟していたが、実行された形跡は余り無く、現時点で駆け込み的に実行する気配もない。規則がこのまま最終化されると1956年のKraftケース以降、外国MNCが米国投資の際に当然のように再三利用されてきたLeveraged Dividendが米国から消滅してしまうかもしれず、またしても何もする前に一つの時代が終ってしまうかも。他国のMNCを見ていると、例えば、今、大きな関連会社ローンを米国が借りておけば、Funding規定の36ヶ月の縛りが解ける日が早く来る、というロジカルだが中々思いつかない発想があったりして、相変わらず法律事務所、大手会計事務所、ウォール街等のアドバイザーたちの復活力の早さには舌を巻く。

Leveraged Dividendは外国の親会社に所有されているMNCの米国法人が利用するケースが一般的と思われがちだが、実は米国MNCにも有用だ。例えば、米国親会社がCFC1を持ち、その下に更にCFC2を持っているとする。CFC2にはE&Pがあるが、CFC1にE&PがないタイミングでLeveraged Dividendを実行する(米国親会社のCFC1に対する税務簿価の範囲内で)。E&Pがないので米国では配当課税がない。その後、CFC2がCFC1に分配するとCFC1にE&Pが発生するが、CFC1はそれを原資に米国親会社からの「借入」を返済する形を取ることができる。すなわち、米国側ではCFC1のE&Pに基づく配当所得を認識することなく、現金を米国に還流することが可能となる。

アーニングス・ストリッピング規則案内容に関しては前回まで複数回触れているので、重複する部分は避けるが、日本企業的には「文書化」の部分は早速対応策の検討が必要だろう。ここの部分は規則案の前文にも書いてある通り、従来からも用意しておくべきものなので、「Reminder」的な意味もあるが、文書化が強制されるためにより真面目な対応が必要となる。規則案が最終化される際に変更が加えられるとしても文書化のところはそのまま残ると考えられ、そもそも財務省としては現時点でも用意されているべきものとの認識であることを考えると、規則の施行日以前でも対応は早い方がいい。規則案で勢い付いたIRS調査官がフライング気味に関連者間ローンにかかわる文書化を要求してくるような状況も現行法下でも十分に想定可能だ。

この文書化、余り役に立たない小額免除的な例外が規定されており、一定規模、条件のグループにのみ適用とされる。すなわち文書化の対象となるのは、Expanded Groupの中の最低一社(日本親会社を含む)でも上場されている場合、財務諸表に報告される総資産額が$100 millionを超える場合、または総収入が$50 millionを超える場合、となる。

以前にも触れたが、従来の過少資本税制の考え方は、個々のケースで多くの判断材料を総合的に検討して、債券・金融持分が税務上、株式と位置づける方が適切なのかどうかを決定するというものだった。判断材料としては、当事者によるレッテル、満期日の有無、返済原資、債権者に付与される法的な権利、他の債権者との返済優先順位、借入資本比率、第三者からの調達能力、等いろいろとあるが、何一つをもって決定打になるという性格の分析ではなく、個々のケースに照らし合わせる典型的なFacts and Circumstancesテストというものだった。この中でも鍵となるのは、借り入れ時点での返済能力有無の判断で、ここの部分の文書化は今後ますます徹底が必要となる。規則案でもこの部分は基本的に従来通りだが、この観点からローンであると認められても、その使途次第では株式になってしまう。規則案の凄いところはこの文書化を関連者間ローンが借入と認められる必要条件(十分条件ではない)と位置づけている点だ。すなわち、実際にローンの性格を十分に備えていても(例えばDebt/Equity Raitoが9/10のようなケース)でも文書化がないと株式になってしまう。文書化がされている場合には、最初のハードルは超えられるが、その内容が正当かどうかはIRSが調査時に検討するので、移転価格同様、文書化されていても必ず認められるというものではない。

返済能力の有無に基づく過少資本の判断(およびそれをサポートするための文書化)そのものは、判例を含む既存の法律の考え方から乖離はない。今回の規則案では、それだけでは飽き足らず、経済的な実態として借入と認められても、更に以前のポスティング「Inversion (20)」で触れた邪な用途の(または前後6年間の反証不可能な推定規定に基づき用途が事実認定される)場合には、借入が株式になってしまうという凄い結果が待っている。当初はローンだと考えていた債券・金融持分がある日、株式と取り扱われるようなケースがあり得るが、その場合には、ローンは株式とその時点の簿価で交換されたと扱われる。

この規定は過少資本ではなく、どちらかと言うと租税回避行為に対抗する「Anti-Avoidance」となり、Section 385でそこまでの権限を財務省に与えているかどうかという点はかなり際どい。特に前後6年間の反証不可の推定規定は厳しいし、多くの貸し借りが存在する局面での実務的な適用は負荷が重い。この推定規定の例外として、たな卸し資産の取得にかかわる買掛金、通常の経費支払いにかかわる未払金、が設けられているが、例外としては範囲が狭い。

上述の例外は6年間の反証にかかわる部分だが、借入を使途に基づき株式とする規定そのものにもいくつか重要な例外が規定されている。まず、当期の配当原資(Current E&P)からの配当はLeveraged Dividendでも問題ないとされる。ということは毎年Current E&Pの範囲でLeveraged Dividendを行なえば「地道(?)」にEarnings Strippingが可能となる。また、Expanded Groupからの関連者ローンの総額が$50 millionを超えない場合も、使途に基づいてローンが株式となることはない(文書化は、文書化の例外に当てはまらない限り別途必要)。この$50 millionの例外規定適用時の注意事項としては、一旦総額が$50 millionを超えると、その$50 millionを含む全額が使途に基づく株式認定の対象となるという点だ。また関連会社の株式取得に関しては、実際に出資を行い、その後3年間一定の持分を継続している場合には、邪な使途とはならないとされる。それはそうだろう。でないと本当にグループ子会社等に出資する毎に、グループ間ローンが株式に変わってしまうというとんでもない結果となってしまうからだ。

このように発行数週間で、問題続出のSection 385規則案。税法全体、実務的な適用、影響を熟考して発行された感じがしない。もしかしたら財務省も全ての影響を考えるのは不可能なので、取りあえず規則案を出し、業界からの反応を見て「こういう予期せぬ問題もあったか・・」みたいな対応を考えていたのだろうか。その意味ではベータバージョンだったのかも。会社法その他の目的ではローンであり続けるものを税務上全ての目的で株式とする、という扱いは例外的なケースでは仕方がないかもしれないけど、規則案に基づいてメカニカルに適用されると債権者なのか株主なのか混乱が生じる。配当がDRDの対象となるかどうかとか(RR 94-28 の世界)。

という訳で余りにインパクトの大きなInversion規則ではないInversion規則案の話しでした。Section 385は今後も進展がある都度触れていきたい。次回は本道のInversionに戻り、そろそろInversionはWrap-Upかな、という感じ。今日のNYCはMaroon 5じゃないけど「Sunday Morning Rain is Falling」で、しっとり紅茶でも飲めるいい感じの春の一日の始まりでした。