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米国タックス行く年・来る年(2)過少資本最終規則はそのうち廃案(?)

Max Hata
前回から2016年後半の米国税務的な展開のまとめと2017年に注目すべき動向に関して書き始めたけど、最初に触れておきたいのが過少資本最終規則の今後の末路。わずか2ヶ月チョッと前に鳴り物入りで発行された規則がそんなに簡単に廃案になってしまうことは現実的にあり得るだろうか?前回も書いたけど個人的には十分にあり得ると思っている。

文書化要件は2018年の新規借入から要求されるだけに、2017年にもし最終規則が廃案になってしまうと、日の目を見る前に消滅してしまうことになる。ただ、仮に廃案になったとしても、規則の爪痕は若干残るのも間違いない。すなわち、関連者間の借入にかかわる文書化に関しては従来は指針が何もなかっただけに、1.385-2に規定される詳細な規則は、仮に最終規則が廃案になってもCommon Lawを補足するような位置付けとして、文書化のベンチマークを設定した形で生き続けていくだろう。規則案時代から強調されている通り、文書化要件は決して新たなものではなく、従来から守られるべき模範的なプラクティスというのが財務省のスタンスだ。ここは確かにその通りで、従来から関連者間では規律に欠ける借入が横行していた点は否めない。ただ、規則の一部としてではなくCommon Lawの補足のような形で生き残る場合には、最終規則の文書化要件のように買掛金とか未払金とかの流動負債を含む全ての借入に関して文書化が必要だったり、実態にかかわらず文書化がないとEquityになったり、とかいう極端な適用は実質無くなることが期待される。

文書化要件はもしかしたらそのまま規則として生き残るかもしれないが、真っ先に廃案のターゲットとなるのは挑発的な内容の使途・Funding規定だろう。こちらは2016年4月4日以降の借入およびFunding規定を誘発する分配等の3つの取引に対して既に適用が開始されている。ただし、移行措置期間が設けられており、4月4日以降の取引で規則に基づきEquityとなってしまう借入が存在する場合も、実質2017年1月20日からEquity扱いが開始される。その扱いが嫌ならそれまでにRecap等で是正措置を取りなさい、ということなんだけど、この1月20日というのはナント奇しくもトランプ大統領の就任式がDCで行われる日だ。最終規則の移行措置期間は、連邦政府の規則等が記載される連邦官報(Federal Register)に最終規則が公表されてから90日と規定されている。もしかして選挙結果が分からなかった10月当時、最悪トランプが勝利しても、何とか就任式までにはFunding規定位は法的な効果を持たせたいと願い、90日を逆算して規則の発表を急いだと思うのは考え過ぎだろうか?深遠な世界で、そんなのは財務省の先を読む力を買いかぶり過ぎだと言われてしまえばそれまでだけど、余りに偶然だ。

さて、規則の廃案だけど、具体的なメカニズムは大別すると2つ。まずは議会が「Congressional Review Act(5 U.S.C. § 801-808)」(CRA)という法律に基き行政機関である財務省が策定した規則を取り消す手法がある。このCRA、近年余り登場しなかったが最近またメディアとかで見かけるようになったNewt Gingrichの「Contract with America」(懐かしい響き・・)の一環で1996年に制定された法律だ。

このCRAで規則を廃案とするには下院・上院双方の決議が必要となる。最高裁が下した憲法上の要件で、CRAも他の連邦法と同様に大統領に拒否権を持たせる必要があり、そのためねじれ現象下でCRAを利用するのは難しく滅多に成功しない。行政機関の制定する規則はほぼ常に現行の政権は指示するからだ。2001年にブッシュ政権(息子の方)が大統領になって直ぐに、労働省の職業安全衛生局が制定した規則を議会がCRAで廃案としが、その際も大統領がクリントンから変わって直後の動きだった。

CRAで規則を廃案とするには、規則が最終化してから議会開会日ベースで60日以内の決議が必要となる。このタイミング的な意味で、オバマ政権はできるだで現政権下で議会の開会が60日に足るよう、したがって議会がCRAで廃案を決議してもオバマ大統領が拒否権を発動できるよう、規則を通したかっただろうが、10月以降の開会日は上下院で異なるけどザックリと月10日前後のペースなので、過少資本の最終規則はとても間に合わっていない。そこで、ブッシュ政権誕生時と同様にいくつかターゲットとされる規則のひとつとなっている。

そもそも議会は過少資本規則の最終化に最後まで反対していたので、この流れは十分に現実味がある。議会は財務省に再三に亘り規則を現状の形で最終化しないように文書で抗議しており、それらの忠告を無視する形で一方的にしかも短期間に規則が最終化されたことでかなり怒っている。下院歳入委員会長自らがトランプ政権に最終規則の撤回を求める信書を送っているくらいの勢いだ。米国議会って納税者の味方で結構頼もしい。

CRAで廃案となる規則は、対象となる規則そのものが無効となるばかりでなく、将来的に財務省は同様の規則を策定することができなくなる。ただ、議会はいつでもSection 385自体を修正できるので、条文そのものを変えて別のスコープで財務省に規則策定の権利を付与することはいつでもできる。

2つ目の方法に、議会による法律ではなく、行政機関そのものに規則を撤回される方法もある。ビジネスに重荷となる規則はオバマ政権下で多く制定されているが、それら数百の規則を一気に撤回する方向が模索されている。その中には過少資本の最終規則に加え、FATCAの規則も含まれている。財務省自らによる撤回は、規則を策定する手続きと同様の手続きで進める必要がある。すなわち、規則策定案とかその理由を公表するところから始まる。撤回の理由は最終化前に財務省に送られている数多くの経済界のコメントを参照すればそこに既に大量の理由を見出すことが可能だろうから、理由には事欠かないはず。実際にこの手の手続きを進めるのは財務省次官補レベルとなることから、そのポジションに実際に選任された役人が登場する3月以前の撤回は難しいかもしれない。

議会または財務省が速攻で廃案としない場合にも、今後の税法改正の流れで、過少資本税制おのものに自然と意味がなくなる可能性も大だ。下院のBlue Print(改正案)によると現金ベースの課税に移行する一環で支払利息の損金算入そのものが撤廃される可能性もあり、そうなれば現状の「何が借入で何がEquityか」という面倒な問題は存在しなくなる。この点は従来の税法に対する批判のひとつで、そもそも税法が借入を有利に扱うから(MMセオリーにも繋がる)みんなが借入を好むのだ、という至極最もな分かりやすい議論だ。

さらに元々、過少資本の最終規則はInversionを念頭に策定されていたはずだが、米国法人税がもし15%~20%になれば、そして更にテリトリアル課税となれば、誰も慌ててInversionなどしなくなるだろう。Inversionしていない最初からの外国企業も米国の課税所得を圧縮する必要は無くなり、誰もDebt Pushdownとか考えなくなるはず。むしろ、逆にどうやって海外から米国に所得を持ってくるかというのがプラニングの焦点となる。前から共和党が言っている通り、これがInversionを無意味にする唯一の方法だ。いくら網を掛けても、北風が強く吹いても誰もコートを脱がないのと一緒でInversionはなくならない。そもそもInversionをする企業は別に財務省を困らせようと思って実行している訳ではなく、世界の競争相手と競合するのに米国企業を頂点とする企業形態では税法的に余りに不利だから実行する訳で、その意味でもMNCに対して使い勝手のいい税法とすることがInversionを絶つ唯一の合理的な解決策となる。

このように過少資本の規則を取り巻く環境は公表時点の10月13日とは余りにかけ離れていて、その廃案は、特に文書化要件以外の規定に関して、時間の問題のような気がする。

次回はトランプ政権誕生と今後の米国税法の動向に関して。
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