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渡りに船の米国社会保障税免除の「3年延長」(1)

米国で従業員として報酬を得る場合には所得税に加えて社会保障税(FICA)が源泉徴収される。日本企業から米国に派遣されてくる従業員も本来は例外ではないのだが、2005年10月に発効した「日米社会保障協定」には「派遣期間が5年以内の見込み」の場合には派遣元となる日本で厚生年金保険に加入し続け、米国FICAからは免除されるという「短期滞在規定」が規定されており、基本的に日本人派遣員はこの規定を適用して米国ではFICAを支払っていないというのが現状だ(この辺りの詳細は2007年5月にポスティングした「日米社会保障協定」シリーズを参照)。

*協定発効時の取り扱い

協定が発効された2005年10月時点では、過去に何年米国に滞在していたとしても、2005年10月から5年以内に帰任する見込みであれば 短期滞在規定が適用できたため、各企業とも基本的に派遣員は全員「5年以内には帰る見込み」であるという主張で適用証明書を取得した。実際には5年以内で帰るかどうか定かではないような派遣員も含まれていたのが実態であると思われるが、取りあえず「5年後のことは5年後に考えよう」という雰囲気であった。

*そしてアッという間に5年が経ち・・

5年後なんていうのはとても先の話であり、その頃には担当も変わっているし、と思っていたらアッと言う間に2010年になってしまった。時は経ってみると早い(「Y2K」問題覚えてますか?もう10年前です!)。2010年に入った当たりから日本企業的にはチョッと落ち着かなくなり、2010年9月末で適用証明書が失効するにも係らず米国に残る派遣員の対応をそろそろ検討しなくてはいけなくなった。

適用証明書が失効するということは短期滞在規定の適用がなくなるということなので、その後も米国で勤務し続けるのであれば当然米国でFICAの支払いが必要となる。この部分は雇用者側の派遣員に対するコストが増えるだけと割り切ればそれで済む話しではある。FICAは公的年金部分が6.2%(課税所得の上限が2010年ベースで$106,800だが物価スライド調整あり)プラス老齢医療保険の1.45%(課税所得上限なし)の計7.65%だが、派遣員のほとんどはグロスアップであること、また本人負担と同額を雇用者が負担(FICA Match)するため、企業側の追加コストは一人当たり$15,000くらいというのがザックリとした数字だろう。

しかし、短期滞在規定の適用がなくなることに対する日本企業の一番の懸念はこの追加コストではなく、そのまま米国に滞在する場合には日本の厚生年金保険システムから脱会しなくてはいけなくなる点にある。「資格喪失」という用語が正式なようで恐ろしい響きだ。これは協定では社会保障税の二重負担を避けるという趣旨で「どちらかの国でしか加入が認められない」ためだ。短期滞在規定の適用がないと基本的なルールである「居住地のみで社会保障システムに加入」という考え方がそのまま適用となる。となると米国のみで加入だ。

個人的には、日本の財政状況(特にそこから発生する日本国債の信用度の問題)、デモグラフィーの推移、とかの理由で日本の公的年金の行方がかなり怪しいことから、将来の公的年金の一部を米国から受け取るようになるのは必ずしも悪いことではないような気がするが、やはり雇用者側の感覚としては会社都合の派遣で日本の厚生年金制度から脱会させる(すなわち将来の給付金が下がる)のはまずいというのが一般的だ。

*5年経ったらどうする?

どうしても5年を超えて滞在する必要がある場合には、いくつかオプションがある。あきらめて米国の社会保障に切り替える(帰任したら日本のシステムに戻る)、延長申請する、協定上は認められないが無理やり両国で支払う、帰任させる(一定期間経ったら再度赴任は可)、等だ。

これらのオプションで一番手っ取り早いのが「延長申請」である。

*派遣期間の見込み違いとFICA免除

短期滞在規定は「派遣時に5年以内で帰任する見込み」の場合に適用される。期せずして米国派遣期間が長くなる場合、協定によると「最長で4年」の延長が可能と規定されている。

協定締結当時は「1年の延長は比較的弾力的に対応」でそれ以上の延長、すなわち「2年~4年の延長はそれなりの理由が必要」というのが日本の社会保険庁の見解(および米国が他国と締結している協定上の通常の取り扱い)だった。

ところがここにきて日本の社会保険庁がより柔軟な姿勢を示しており、先日東京で行われた企業向けの説明会では3年(お役所らしく2~3年という曖昧な表現)までは柔軟に対応するという「重大発表」があった。更に、本来延長は米国社会保障局が最終的に承認する事項となるが、3年までであれば日本側の裁量で決定してもよいという日米間での合意もなされたようだ。

したがって、従来は1年までの延長は認められる可能性が高い、という理解であったものが、3年までは柔軟に認められるということになる。ただし、延長申請は以前同様に「予見できなかった理由」による必要がある。