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Form 5472と申告書の時効

米国企業の法人税申告書(Form 1120)は本体の申告書に加えて沢山のサポーティングFormとかStatementが添付されており、厚さが3センチくらいになることも珍しくない。そんな分厚い申告書を隅々まで理解するのは人間業ではないので、IRSがe-File(電子タックス)を奨励しているのは当然だ。

そんな日本企業の米国現地法人の法人税申告書に必ずと言っていいくらい添付されている様式にForm 5472というものがある。これは基本的に移転価格を取り締まる目的でデザインされた様式で、米国外の株主に所有される米国法人が関連会社との取引内容、特に米国外の事業主体との取引内容、を詳細に開示するためのものだ。お金の流れ、有形資産の流れ、はもとより、保証行為等をも開示する必要がある。日本企業で関連会社間取引の全くない米国現地法人というのは珍しく結果としてほぼ全ての申告書に添付されている様式となる。

Form 5472の姉妹様式とでも言えるForm 5471は米国法人が海外に子会社を持つ場合に、その海外子会社の財務状況、E&P、法人税支払い、等の状況を毎年報告するためのもので、様式の番号は一つ違いだがその内容はかなり異なる。一般にForm 5471の方が作成に時間が掛かり面倒な様式だ。海外法人の収益を米国のE&P基準に置き換えたりと本当に正確に毎年計算できているところがどれ位あるのかチョッと疑問が残ったりもする。日本企業の米国現地法人でも、その下に外国子会社を持っている場合にはこちらのForm 5471も添付が必要となる。ちなみに日本企業が米国の下に外国子会社を持っているという形態は一般的には税務上効率が悪い形態となりつつあるので、早めに分離策を検討するべきケースが多い。

*Form 5472報告漏れ

Form 5472で開示するべき取引を開示していない場合には項目ごとに$10,000のペナルティーが課せられることになっている。日本企業の米国現地法人に係る税務調査では必ずチェックが入る項目と言える。実際に$10,000のペナルティーの対象とされたケースは個人的には思ったより少ないというのが実感だが、未開示を指摘されてペナルティーが課されることはある。

IRSの内部資料によるとForm 5472で金額を「過大」に報告していたケース(Over-Reporting)でIRSがペナルティーを課そうとしたというケースもあるようなのでやたらめったら報告すればいいというのでないことも分かる。

Form 5472での開示し忘れでもうひとつ厄介なのが、時効の未成立という問題だ。通常、連邦法人税追徴の時効は申告書を出してから3年となるが、Form 5472で報告するべき取引が開示されていないと時効が成立しないと規定されている。また、Form 5472を後から提出しているようなケースでは、例え本体のForm 1120を期限内に提出していたとしても、Form 5472の提出タイミングから3年経たないと時効が成立しない。

*何に対する時効か

Form 5472で開示漏れがあった場合に時効の成立がないと規定されているが、どの追徴に係る時効が対象となるのかに関して若干の不確実性があった。一般的な見方はForm 5472に記載されるべき取引に関してのみ時効の成立がない、または遅れるというもので、Form 1120そのものを期限内に提出している限り、申告書全体の時効が成立しない訳ではないというものだ。

例えば、後からIRSが減価償却の過大計上を見つけたとする。しかし、Form 1120提出から3年以上が経過しており一般的には時効が成立しているとする。もし同時にForm 5472の不備が発見され、親会社との取引が開示されていなかったとするとどうなるか?

減価償却がForm 5472で開示されるべき取引(例えば仕入れ)と関係のない項目である限り、IRSは減価償却の修正を基とする追徴は行えない(「Barred」すなわち時効が成立しているので)というのが一般的な解釈だった。このポジションは2000年に作成されているIRSのChief Counsel Advice「200024051」等でIRSにより内部確認されている。

この問題に関しては法律の文言そのものが拡大解釈可能で申告書全体の時効が成立しないとも取れたため、またIRSが過去には実際にそう主張した事例もあったため、実際には若干の不透明感が残っていた。

*HIRE法で時効の不成立拡大

2010年3月18日に成立した雇用対策法である「Hiring Incentive to Restore Employment Act」、俗に言う「HIRE法」(米国の法律は相変わらずネーミングがうまい)で、この時効の考え方が拡大された。HIRE法下ではForm 5472を含む多くのクロスボーダー系の報告がきちんと行われていないと、未報告の取引ばかりでなく、その年の申告書そのものの時効が成立しない。

この新しい規定は2010年3月18日以降に提出される申告書、または3月18日時点で(従来の考え方で)時効が成立していない申告書に適用される。

多くの関連会社間取引を持つことが多い日本企業の米国現地法人にとってはこれはかなり頭の痛い問題となる。実際にIRSが古い年度の税務調査を実行するかどうかという問題もさることながら、FIN 48(ASC 740-10-25と言うべきか・・・)の一番のディフェンスが「時効が成立しているので・・・」というものであることを考えると、本当に時効が成立しているかどうかの判断が今後難しくなるという動きはタダでさえ負担の多いTax Provision作業に更なる負担を強いることとなりかねない。