ブログ

IRSに自爆テロ(2)

前回に続きIRSへの自爆テロに関してポスティングする。

*「従業員」対「フリーランサー」

そして文書は80年代のソフトウェア・エンジニア時代に突入する。先ほどの税金グループではフォーカスが非課税主体であったのに対し、この頃になるとフォーカスは「従業員」と「独立契約者(フリーランサーというと分かり易いかも)」の区分に移る。

ちなみに米国税務上、他人に役務提供する者は「従業員」と「フリーランサー」に区分され、従業員となると「給与」から所得税と社会保障税(日本の厚生年金保険料のようなもの)が源泉徴収され、源泉徴収票にあたるW-2が発行される。一方、フリーランサーに対するサービス報酬は通常、源泉徴収の対象にはならず、満額支払いが行われ、支払いはW-2 ではなくForm 1099で報告される。もちろんフリーランサーが非課税ということではなく、自分で所得税、および国民年金保険に当たるSEタックス(従業員の社会保障税と同額でプラス雇用者負担分を自ら負担)を算定し自ら納税する必要がある。一旦は満額もらえて、その後、いろんな「必要」経費を差し引くことができるフリーランサーとしての取り扱いが一般的に好まれる。

このことからIRSの税務調査ではフリーランサーと取り扱っているいる者を実は従業員ではないか、と突っ込まれることが多い。この区分問題はこれからIRSがますます力を入れる分野らしいのでForm 1099を乱発している事業主は注意が必要だ。

ジョセフ・スタックの文書に戻る。この辺りに来ると内容がますます飛びまくっていて分かり難いが、かなり意訳でまとめると次のような感じだと思う。まず、従業員とフリーランサーの区分に関してはグレーなケースも多い。納税者側から見た予見可能性を高めるため、議会はIRSに対して「過去に遡って追徴しないように」、とか「通達を出して勝手な解釈を公表しないように」等の制限を課した。

この制限が俗に言う「Sec.530救済措置」だ。しかし、一定の条件を満たすソフトウェア・エンジニアに関してはこの救済措置の適用がない、という例外が規定されていた。これがジョセフ・スタックが文書にフルにコピーして引用している「Sec.1706」だ。ちなみにこのSec.1706は税法のCodifyされたセクション番号ではなく、P.L.99-514として立法された際のセクション番号だ。

なぜこの例外規定にジョセフ・スタックが「切れた」かは推測の域を出ないが、自分の会社で雇うソフトウェア・プログラマーを、他の職種の者と比べてフリーランサーとして取り扱い難い点が問題であった点は想像に難くない。こんな馬鹿げた例外は許せないとして、ジョセフ・スタックはロサンゼルスで抗議活動を展開したようだが効果はなく、IRSはSec.1706 を利用して通達を発表し、フリーランサーの区分をしている雇用者に過去のタックスの請求したりしたようだ。

上述の推測の続きとなるが、ジョセフ・スタックは自ら経営するカリフォルニアのソフトウェア会社でフリーランサーを雇っていたが、後からIRSにより従業員に区分し直すように指摘を受け、過去の税金を支払うような更正を受けたのではないか。このIRSの指摘はSec.530救済措置があればできなかったものであり、その意味でSec.1706の例外規定が命取りになった、というような展開のように見える。

*財形取り崩し

離婚、ハイテクバブル崩壊、9・11同時テロ、と悪夢は続く。9・11以降の厳しい空港セキュリティーでクライアントとの接点が少なくなり(?)カリフォルニアでの事業は暗礁に乗り上げる。そこで新天地目指してテキサス州オースティンに移住するも、低賃金で苦戦。一文無しになったジョセフ・スタックには更なる税務問題が発生する。

資金難からIRA(企業年金がない個人が退職金を貯めるための財形口座)資金を取り崩すことになる。他に所得がなかったので申告書を提出しなかったということだが、退職の歳になる前にIRAからお金を引き出せば所得税に加えて10%のペナルティーまで掛かるのは結構知られた法律であり、IRAを管理している金融機関は引き出しの事実を1099でIRSに報告するので、申告書を提出していないのはチョッと不注意のような気もする。

いずれにしてもIRSからは追徴Noticeが来るが、それがタイムリーに届かなかったので不服審査請求する機会を逸したとされる。しかもジョセフ・スタックが言及している不服審査請求は通常の「Appeal」(IRS内部の不服審査機関に対して行い、日本企業もよく利用する)ではなく、裁判所に訴えようとしたが時効が成立していてダメだったというものだ。裁判に行くにはそれなりの費用が掛かるし、内容的に勝ち目があったのか疑問が残る。

*税務調査

その後、再婚しいろいろな支出がかさんでいく。ビジネスに必要な支出に加えて、ピアノ(?)の購入費用、W-2とか1099で報告されていない収入があったり、と混乱している状況が分かる。公認会計士は「信用できないので二度と利用しない」と決めていたが、そんなことも言ってられない状況になり、気を取り直してテキサスの公認会計士に申告書作成サービスを依頼する。しかし、奥さんに未報告の所得があることが税務調査で明らかになりまたしても万事休す。このテキサスの公認会計士は奥さんに所得があることを知っていながら申告書に載せなかったと、会計士にも不満たらたらだ。ちなみにこの会計士はビル・ロスという本名で言及されていたため、慌てて「昨年10月にサービス契約を打ち切っていて最近は話していない」とプレスリリースを出していた。

*最悪のシナリオに

そして自由のために自らの命を捧げて抗議したい、というような最悪なシナリオとなる。これ以上がまんできない、という文言もある。そして「Well, Mr. Big Brother IRS man, let’s try something different; take my pound of flesh and sleep well」と締められている。この締めくくりの部分は日本語にはなり難いが「Pound of flesh」というのはシェークスピアのベニスの商人で使われている用語で「取り立てが死ぬほど厳しい借金」という意味。「Flesh」は文字通り、ジョセフ・スタック自身の肉体を言及することにもなるので「掛け言葉」的になかなかうまい。「さて、お上IRSの親方さん、今日はいつもと違いアプローチでいこう。俺の肉体で返せない借金を返済してやる。これでゆっくり寝れるだろう?」とでもなるか?

言うまでもないが、事件当日IRSのビルで勤務していた方はジョセフ・スタックのケースには全然関与していないだろう。被害者の子供の一人が「うちの父が税法を作っている訳ではない」と言っていたが本当にその通りで、筋違いにも程がある。

もちろん僕達もIRSの対応にはヘキヘキとすることはある。テキサス州オースティンのIRSというと納税者番号(ITIN)の取得に関してとてつもなくトンチンカンな対応をしてくれたりしてガックリくることも多い。しかし、まさか飛行機で突っ込むとは。

*バンドマン

蛇足だが、ジョセフ・スタックは数年前までバンド活動をしていたそうで、バンドメンバーがCNNに出演していた。小型機の激突ではなく、ビートルズの「Taxman」(今シリーズはハリスン作が多いね)のようなプロテストソングではだめだったのだろうか?