資産分配の考え方
資産分配(Asset Allocation)の目的は、リスクを抑えつつ、高い利回りを得る事にあります。株と債券を考えた場合、株だけでは歴史的な利回りは高いものの、リスクも高く、時に大きく値下がりしてしまいます。債券はリスクを低く抑えられますが、利回りは株よりも低くなってしまいます。そこでこの2つを組み合わせて、リスクを高くすることなく、利回りを確保するのが資産分配の考え方です。この2つの資産クラスだけで考えれば、利回りを高くしたいのであれば、株に多く配分し、逆にリスクを減らしたければ債券に多く配分します。投資期間とリスク
どのくらいのリスクを許容できるかと言うのは、投資期間によって違ってきます。現在30歳でリタイアメント資金を運用しているのなら、投資期間は30年以上になります。このような場合、リスクがあっても利回りが高い投資をすることになります。リタイアするまでその資金は必要ありませんし、数年間、価値が下がっても最終的に30年後に上がっていれば構わないからリスクをとる事ができるのです。また、リタイアメントの時期を自分で決める事ができるのなら、資産が下がってしまったときはもう少し働いて十分な資産が出来てから、ということもできます。 子供の大学教育資金の場合はどうでしょうか。例えば、子供が現在12歳で、18歳で大学に進学するとします。投資期間は6年間になりますから、大学に行くときに資産が目減りしては困ります。資産が目減りしたからといって大学に行くのを数年待ってもらうということは、なかなかできないでしょう。大学資金の場合、確実にある年に決まった額が必要になるのです。 このように、リスクを受け入れられるかどうかはその投資/運用の目的によって変わってきます。一般に投資期間が長ければ長いほど、大きなリスクを受け入れられます。また、リタイアメントでも大学資金でも、その資金が必要な時期が近づくにしたがってリスクを減らす必要があります。大学入学の直前になって市場が低迷したから急に資金が足りなくなった、ということがないように、次第に安全な投資の割合を多くしていきます。年齢に基づく資産分配
リタイアメント資金は長期に渡って運用し、リタイアメントが近づくにつれてリスクを減らす必要があります。アメリカでは65歳がリタイアメントの目安ですから*1、自分の年齢が大きな要素になってきます。 現金資産は別として、株(ファンド)と債券(ファンド)の合計が100%になるポートフォリオを考えてみましょう。この場合、年齢とともにリスクを減らす=年齢とともに株を減らし、債券を増やす事になります。計算方法としてよく使われるのが以下の式です。 株の割合(%)= 110 - (自分の年齢) 例えば、現在40歳の人は70%を株式に、残り=30%を債券に投資します。110の部分はアドバイザーや本などによって違い、100~120と幅がありますが、年齢とともに株の割合が減っていくのは同じです。 この式でもう一つ注目したいのは、65歳のリタイアメントの時期になっても株式の割合が0%にならないことです。その人の家計や健康状態でも変わりますが、85歳まで生きるとしたらリタイアメント期間は20年にも及びます。この期間の間、利回りの低い債券だけではなく、株式も(特に最初のうちは)組み入れて、大きな利回りを得ておく必要があるからです。債券だけに100%してしまうと、利回りが低くなるだけでなく、1つの資産クラスだけに頼ってしまうというリスクも増えます。再分配
株式も債券も価格が上下し、1年も経つと元のポートフォリオの分配から大きく離れてしまう場合があります。また、継続的に投資資金を積みたてている場合も資産の割合が変ってきてしまう場合があります。このような時、元々決めていた分配の割合に戻す事を再分配(RebalanceもしくはReallocation)と言います。再分配はポートフォリオの利回りのために重要な作業で、1年に1度など、定期的に行うか、あるいは元の割合より10%ずれたら再分配をするなど、自分なりのルールを決めるといいでしょう。 再分配の仕組みは、勝ち組みを売って負け組みを買うことにあります。例えば株を70%、債券を30%保有すると決めたとします。株価が大きく伸びればポートフォリオ全体に対するバランスは株に比重が傾き、例えば株80%、債券20%になります*2。再分配のときに10%に相当する株を売り、債券を買えば元の70:30の比率に戻ります。 ただし、再分配を課税対象になる口座で頻繁に行うと税金が掛かり、逆効果になりかねません。リタイアメントプラン内であれば売買による課税がありませんから、再分配を行うのに理想的です。また、課税対象であっても、新たに運用に回す資金で株/債券のどちらを買うかで全体のバランスをとる事もできます。さまざまな分配例
株と債券の2つの資産クラスによる資産分配は簡単でわかりやすくなっています。もし、資産運用を始めたばかりであれば、Mutual Fund などでこの2つの資産クラスを保有するところから始めるのが良いでしょう。この2つの資産クラスは一般に流通量が多く、取引経費が低いのでポートフォリオの中核として運用します。 ポートフォリオのサイズがある程度の大きさになれば、より広範囲な運用先を組み入れるのもいいでしょう。資産クラスで紹介した外国株や、不動産をポートフォリオに組み入れる事で、例えば株も債券も低迷している時期でも不動産が好調になるなど、ポートフォリオのバランスを取る事ができます。例1:The Truth About Momey
こちらで紹介しているThe Truth About Momeyでは、1つの例として現金、債券、米国株、外国株、不動産に20%ずつ投資した場合を挙げています。 1972年~1992年までの例ですが、この期間の利回りは13%で、同期間の株式の利回りとほぼ同じです。しかし、注目するべき点はそのリスクにあります。このポートフォリオの標準偏差(リスクの尺度)は約8%。同じ期間の株式の標準偏差約17%を大きく下回ります。しかも、同期間の債券の標準偏差(約12%)よりも大幅に低くなっています。つまり、それぞれの資産クラスだけでは高いリスクになっていますが、それを組み合わせる事で全体としての利回りを確保しつつ、リスクを劇的に減らしている事が分かります。例2:The Informed Investor
情報ライブラリで紹介している書籍からもう一つ例を挙げます。The Informed Investorでは、1975年から2000年までの統計を使い、さまざまな資産クラスに投資することで利回りを確保しつつ、リスクを下げるポートフォリオを紹介しています。 最初のポートフォリオとしてS&P 500 に60%、長期国債(Long-Term Treasury Bond)に40%を分配しています。 この場合、25年間の平均利回りは14.43%、リスク(標準偏差)は11.42(%)になります。しかし、さまざまな資産クラスに幅広く投資した場合、平均利回りを損なうことなく、リスクを下げることができます。そこで、S&P 500 を分け、さまざまなクラスの株式に分割します。この本ではバリュー型株がリスクを上げることなく高い利回りが得られるという考えに基づき、バリュー型に重心を置いた、下記のようなポートフォリオにしています。 このポートフォリオでは平均利回りが14.71%と基本ポートフォリオと同じ水準ですが、リスクは11.42から9.09に下がっています。 この例の特徴は、株と債券だけのポートフォリオで資産分配を行っている点です。株をS&P 500だけから、国債株(EAFE)と小型株を加え、さらにバリュー型に分割しています。この分配方法はリスクを下げるのに効果的ですが、この割合でそのままファンドを買うと保有株の重複などで無駄が多くなるのが難点です。 著者はEmerging Market(発展途上国)はリスクも高いが利回りも高く、先進国の株との関連性が低いので、ポートフォリオの利回りを上げるであろうと言っています。また、REITを追加しても、REITは金利に敏感な公共事業株や小型株に似ているので、ポートフォリオに組み入れても分散の助けにはならないと言っています。しかし、どちらも具体的な数字を挙げていませんので、この主張が本当かは疑問が残るところです。例3:カウチポテト・ポートフォリオ
The Dallas Morning Newsが紹介しているカウチポテト・ポートフォリオは単純に株と債券の割合を1:1もしくは3:1にしているポートフォリオです。株はVanguard 500 Index Fund あるいは Vanguard Total Market Indexを使い、債権はVanguard Total Bond Market Index を使っています。標準は1:1(50%ずつ)株と債券に投資し、アグレッシブポートフォリオは3:1で株(75%)と債券(25%)に投資します。
この簡単なポートフォリオでも、2003年12月時点で投資期間が10年なら10%前後の利回りになります。しかも、リスクが少なくなっているのが特徴で10年以上の投資期間なら利回りは8.8%~14.1%の範囲になります*3。
Traditional (S&P 500) | Total Market | |||
標準(50/50) | アグレッシブ(75/25) | 標準(50/50) | アグレッシブ(75/25) | |
5年 | 3.6% | 1.6% | 4.8% | 3.4% |
10年 | 9.4% | 10.4% | 9.5% | 10.5% |
このポートフォリオに必要なのはたった2つのファンドだけです。しかも難しい計算は必要なく、標準的なポートフォリオなら半分ずつ投資するだけという簡単さです。投資の難しさはどういった投資先を選ぶかよりも、長い間ずっと続ける事、分配を常に守りつづける事にあるといえます。このカウチポテト・ポートフォリオは細かい分配をせずに簡単で分かりやすいポートフォリオを組む事で誰でも実現できるようにしているのが特徴です。しかも、そのために利回りを犠牲にすることなく、リスクも抑えています。