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Boomerang

ポピー

以前F Friesさんが紹介された The Big Short を読んで以来、私はすっかりこの著者マイケル・ルイスの書き物にはまっています。今度は彼の新刊のご紹介。

Boomerang: Travels in the New Third World

ルイス氏は『経済危機観光』と称してアイスランド、ギリシャ、アイルランド、ドイツ、カリフォルニアを巡り、その時の経験記事を雑誌Vanity Fairに載せたいた。この本Boomerangは、それらの記事を集めて最近本にしたもの。ひとつの国で過ごす時間が10日を越えなかったらしく、記事の切込みが浅薄であまり深い本ではないけれど、著者らしいアイロニーがワサビのようにぴりりと利いていて、軽い読み物としては十分面白い。

例えば、アイスランドの漁師の話。アイスランド人のAlfssonさんは16歳から海に出て何年も厳しく危険な修行を重ねて優秀な漁師になった。しかし、アイスランドの金融バブルの真っ最中、ある日突然彼はFXトレーダーに転職して銀行で働き始める。為替トレーダーになるには、何日かのトレーニングしか必要なかったらしい。「金融業界の誰かに漁の仕方を教えるより、漁師にFXトレードを教えるほうが簡単だと思うよ」という彼の言葉が非常に印象的だった。その3年後にアイスランドのバブルが崩壊し、Alfssonさんは銀行からレイオフされてしまう。彼は今は漁師に戻って鱈を収穫しているのだろうか。

バブルに人生を翻弄された話は日本でも色々あったが、アイスランドのバブル過熱度は日本のそれを越えていたかもしれない。

本の主題は各国のバブル崩壊とその後始末なのだが、ドイツはまた別の視点。世界中がバブルで盛り上がっていた頃、ドイツは再統一後からの長い不況からようやく抜け出したばかりだった。他の欧州諸国がバブルに踊って巨額の借金を積み重ねていく間、ドイツ国民も政府も倹約・貯金に励み、その挙句に他国の不良債権の尻拭いをすることになる。これがいかに難しい政治問題なのかは毎日の新聞・ニュースで見ているが、ドイツの納税者や政治家にとってこのアイロニーがいかに苦いものであるかは、この本を読んで初めて察することができた。自国の銀行を救済するのは仕方が無いにしても、この尻拭いは同じユーロ圏といっても他国の救済ですもんね。腹も立つはず。

他にも、アイルランド人の政府への信頼を一気に崩壊させたテレビ・インタビュー(ここで見れる)、不動産帝国を築き上げたギリシャの僧院、等々アイロニーの濃い逸話が次々と出てくる。シュワルツネガー元知事も特別出演。

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