先週水曜日にFacebookがIPOに向けてS1フォームをファイルした。S1は比較的読者フレンドリーな文章だが、200ページと長いので、そんなの読むの面倒という人向けにNew York Timesがハイライト版記事を出している。
IPO(Initial Public Ofering-新規公開)は会社の市場デビューであり、起業家・初期投資家・従業員の夢やSweat Equityが上場株の市場価値として具現化する瞬間だ。SECへのS1ファイリングはIPOに向けての第一歩で、会社の業績・資産を表す数字に加えて、会社のリスク要素や投資家が知っておるべき他の事実がDisclosureされている。ゴシップネタを集めるだけでなく、その会社の自己イメージを知ることもできる。
先日創業100年を越えるある会社のAnnual Reportを読んだ時は、それが重いPension Liabilityに背負うお爺さんをイメージさせたのに比べると、FacebookのS1は明るい未来に無制限と夢と少しの恐れをもって立ち向かう将来有望なピチピチの若者のイメージを与える。何であれ若さに溢れる書類を読むのは心が若蘇る気分になって良いものだ(私も書く事が年寄り臭くなってきた)。
FacebookのIPOはよくGoogleのそれと比較される。どちらも、新しいプラットフォームのパイオニアで、新メディアを利用しAdvertisingでマネタイズしている所、皆から高い期待を集めている所などが似ている。確かにFacebookのS1にも企業利益追求を超えた社会改革・社会貢献を目指すような文章が見られ、”Don't be Evil”のモットーに打ち出したGoogleのS1と似た部分がある。
Googleの創業者がIPOのためのロードショーで巡回した時は、創立者のカジュアルで型破りのアプローチと収益の大きさに度肝を抜かれた人も多かったらしい。Googleは新規公開株の分配にもウォール街のアンダーライターに頼らず、Dutch Auctionを使ったことでも話題になった。
企業がIPOする際にはウォール街の投資銀行・証券会社がアンダー・ライター(引受業務)として雇われ、IPOがスムースに行くよう面倒を見る代わりに増資額の5~8%をコミッションをチャージし、得意客に新規株を振り当てる権利を持つの従来の手順だ。しかし、シリコンバレーから見ると、アンダーライターは「IPO前に突如高級スーツを着て現れ(何もしないで)5~8%のコミッションをチャージする変なおじさん達」というイメージがあるらしい(アンダーライターさん達からすると、「自分達こそが新規企業に正当性を与えているのだ」という反論になるのだろうが)。また、これらのアンダーライターが新規公開株を握るお得意さんを儲けさせる為、公募価格を必要以上に低めに設定しているのでは・・といった懸念を持つ向きもある(もちろんこれも色々反論はある)。
しかし、Facebookはあまりアンファン・テリブル的なイメージは与えたくようで、従来の型通りにウォール街のアンダーライター数社を使っている。ただ、ネゴしてコミッションを1~1.5%に落とした模様。
Facebookのようなホットな会社のIPOのアンダー・ライターになるのは、投資銀行や証券会社にとってはBig Dealだ。多額のコミッションが入る良い商売であると同時に、色んな側面で自社の宣伝機会でもあり、お金持ちになった創業者・重役たちにWealth Management Serviceを売り込む機会を得、また後々の増資機会のアンダーライターになるための足がかりにもなる。「おじいちゃんがFacebookをIPOさせた時にはなぁ・・・」と孫に自慢できるのもあるだろう。Facebookのリード・アンダー・ライター指名を獲得するため、水面下の投資銀行・証券会社の競争は壮烈だったらしいが、今回の勝組はモルガン・スタンレー。
アンダーライターの利用の件も含め、「フェースブックはIPO後はブルーチップの会社として見られたいのだ」という話がここそこで呟かれている。(Wall Street Journalと、Businessweekと、Bloomberg)。リテール投資家が皆買いたがるホットな株になれば、株価は上がるが、高い期待に見合う成長を提供し続けるべく経営者側へのプレッシャーも高くなる。一方、ブルーチップ企業の安定株として機関投資家に長期保持してもらえば、経営者側も長期的視野を持った経営戦略や思い切った作戦を打ち立てやすいといったことなのだろうか。Respectabilityのためなのかどうか知らないが、創業者Zuckerberg氏のトレードマークであるFlip-flops(あれは、ビーサン?つっかけ?健康サンダル(笑)?) もこの頃はスニーカーにアップグレードされたという。
Facebookの株は2種類構造で、Class Bの1株はClass A1株の10倍の議決権を持つ。創業者Mark Zuckerberg氏はClass B株の28%を所持し、他のClass B株の所持者とのProxy同意契約に基づき58%の議決権を持っている。 初期投資者らがClass B株を売る際は、Class A株にコンバートされて議決権が希釈される。創業者が会社のコントロールをぎっちりに握り続けたいということなのだろう。これは、Google株の2種類構造に似ていて、 Googleでも創業者二人が今でも50%程の議決権を維持している。
シリコンバレーでは、地元経済にも「Facebook効果」がでるのではという期待が高いようだ。多数のミリオネアやビリオネアが産まれ、こぞってミリオンダラーハウスを買うだろうと、特に不動産屋さんたちがエキサイトしている様子。もうすでに「Facebookの社員の一人があなたの家を買いたがってます」と言う不動産屋の訪問を受けた人がいるという噂も聞いたが、本当の話かどうかは知らない。
この何年かはFacebook含むスタートアップ企業の未公開株の一部を取引するPrivate Exchangeが存在している(Secondary Marketとも呼ばれる)。色々制限があるものの、これらの私設Exhcangeは初期投資家・創業者・従業員がIPO以前に未公開株一部をキャッシュアウトする機会(また一定条件を満たした外部投資家が未公開株買う機会)を与えている。2011年のソーシャル・ネットワーク系IPOの株価がイマイチ持続力をもたなかったのは(現在は公募価格を下回っているのもかなりある)、これらSecondary Marketでの取引が一因ではないかと言われている。でも、今のFacebookの人気からすると、そんな懸念を吹き飛ばしてしまう勢いがありそうな気もするが、どうなるのだろうか。
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