Two-Buck Chuck (TBC)はTrader Joe'sで売られている Charles Shaw というブランドのワインのあだ名。このワインは、文字通り1瓶2ドルで買えるというのが呼び物で(CAだと$1.99、他州だと$2.99、所により$3.99)、大人気でよく売れている。
私も飲んだことがあるけど、明らかな欠点(例:イースト臭い、お酢みたい、やたら甘ったるい等)があるわけでもなく、くせのないさっぱりした(悪く言うとあまり個性の無い)ワイン。1瓶$2にしてはお買い得感が十分ある。決してワイン評論家をうならせるといったレベルではないけれど、飛行機のエコノミークラスや場末のピッツァ屋のハウス・ワインに出てきたら、私だったら充分納得して飲んじゃうレベル(ワイン通の方、ごめんなさい)。
今読んでいる「Wine Wars」 (Mike Veseth著)という本にも、「Two-Buck Chuckの奇跡」という章があって、このブランドを取り上げている。
意外なことに、「Two-Buck Chuckの奇跡」は、いかにしてそんなに安いワインを作れるのかといった生産面の奇跡ではなく、マーケティングの奇跡なのだそうだ。
一定レベルの質を持つワインを安コストで大量生産する技術というのは、かなり前から完成されていた。例えば、ドイツでは、テトラパックに入ったリッター1ユーロのワインが以前から大量に消費されているという(Pabst Blue Ribbonやソフトドリンクより安い!?)。加えて、米国西海岸では2000年以来ワイン用葡萄の過剰生産(Grape Glut)が続いている。
しかし、ワインを安く作って安く売っても、「これは飲む価値がある」とアメリカ人消費者を説得するのは、もっと難しい。
一部のワイン通を別にすると、アメリカ人の大半は、ことワインに関しては、どれをどう選んだらよいか分からない。結局、「質は価格に比例するんだろうな」といった前提で、「これ位が無難かな」と思える価格帯の中から選んでいる。大抵は、スーパーのワイン棚で目線位置にあるワインの価格帯。
スーパーでそういう消費者に1本$2のワインを売ろうとしても、「安かろう悪かろう」の思い込みで手を出さない。ワイン棚の底の方に置いてある安いワインを取るには、ヨイショとしゃがむ必要があるけど、それがアメリカ人は大の苦手。ましてや、ワインにはスノッブの雰囲気があって、薀蓄のある知り合いに「そんなのよく飲めるね」と思われたらしゃくだし(汗)。
だからこそ、このワインをTrader Joe'sで売ることがポイントなる。
Trader Joe'sに来る人は、リーズナブルな価格帯の品物から美味しいものを発見してやろう、次は何をトライしてやろう、そんな冒険心を持ってやってくる。そこで山と詰まれた$2のワインを見て、「へえ、どんなんだろ。話の種に買ってみよう。」という気分になり、試してみて意外においしかったら、その発見を誇らしく人に語ったりする。ここでは安いことは勲章なのだ。
私の読んだ本では、この$2ワイン+Trader Joe'sの組み合わせが、そういったマーケティングのツボを上手く押さえたからこそ、Two-Buck Chuckは大ヒットして、年間6千万本を売る大手ブランドになったと説明している。スノッブを恐れずに自信(?)を持って$2ワインを飲む人達が大勢出てきたこと自体、米国ワイン業界では革命的な出来事だった。
もちろん、ワイン通には「地域の土壌・伝統や葡萄の特徴を最大限に生かした個性のある高質のワインを作り味わっていこう」という高い志を持つ人も多く、この手の大衆ブランド(最大公約数の味覚に受けるMcWine)がワイン文化全体の質を下げることを懸念する向きもある。
フランス人が国民一人当たり47リットルのワインを消費するのに比べて、アメリカ人の消費量は7リットル。(日本は10リットル)アメリカはまだまだビールの国なのだ。Two-Buck Chuckがきっかけで、アメリカのワイン愛好家のベースが広まるとしたら、それはそれでこの国のワイン文化の成長によい刺激になるかもしれない。フランス人だって、皆が毎日Grand Cruみたいな高級ワインを飲んでいるわけじゃないだろうしね。
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