食料危機:何百万人ものアメリカ人が、生まれてはじめてフードバンクに — 中流家庭家計大ピンチ、頼りはフードバンク
日本の新聞記事風にタイトルを訳すと、こんな具合だろうか。このタイトルから受ける印象はどうだろう?「アメリカ生活ってやっぱり大変だな。ちゃんと働いてても簡単にレイオフされるし、仕事がなければ明日の食事にさえ事欠くありさま。ほんとうにとんでもない国だ。」
ツイッターを流れてきた中から拾った記事なのだが、わたしにはこの記事は、タイトルから受ける第一印象とは全く違ったアメリカ社会の病巣を浮き彫りにしているように思えた。
内容は、タイトルの通り、最近のフードバンクの利用者は中流階級が増えているというもの。ニュージャージー州のとあるフードバンクで利用者にインタビューした、という構成になっている。
いくつか例を拾ってみる。
デボラさん(以下、すべて仮名)、二十代、四人の子供を抱えるシングルマザー。8ヶ月前に失業し、現在は倉庫で最低賃金で働いている。
– う〜ん、ステレオタイプで悪いけど、二十代、子供四人のシングルマザーは中流じゃないよ。
ジョーンさん、夫と子供四人の六人家族。もとはオハイオ州トレド郊外(デトロイトの南に位置する。中西部ラストベルト都市のひとつ。)在住で、夫は26年の経験を持つパイプライン技師。トレドでは夫の年収は8万ドル以上、彼女も自宅でデイケアを開いて収入を得ていた。しかし14ヶ月前に夫が失職。ニュージャージーに仕事を見つけて一家そろって引っ越して来たものの、今では年収4万ドル、家賃$1125のトレーラーパークという生活だ。
– トレドで夫婦合わせて10万ドル近い年収があれば、かなり余裕のある生活ができてたはず。経験26年といえば、この夫婦は40代か?貯金はないの、貯金は?奥さんの仕事を増やすとか、旦那さんも何か事業を始めるとかしてトレドで暮らすことはできなかったの?ラストベルトに見切りをつけて引っ越すにしても、わざわざ生活費の高い東海岸じゃなくて、シカゴとかサウスみたいにもう少し安いところに行くとか、他に選択はなかったの?
郵便局職員ポールさん。年収5万2千ドル、奥さんはパートでハウスクリーニングをしており、子供は6人。ニューヨーク、クイーンズに住んでいたが、年々値上がりする家賃に嫌気がさして、ニュージャージーに引っ越してきた。しかし希望していたニュージャージーの郵便局への転勤が叶わず、2時間かけてニューヨークへ通勤する毎日。おまけに子供二人には学習障害があるので、よい学校のある校区に住みたい。
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多くのケースに共通しているのは、失業しても、収入が増えなくても、いったん手に入れた中流ライフスタイルは捨てない、という点。限られた収入から優先して払うのは、車の維持費であり、子供の学校の費用である。携帯電話、インターネットのない生活はもう考えられない。かくして皺寄せは食費に来る。
車やインターネットを優先する理由のひとつは、「職探し」である。交通手段がなければ、ジョブインタビューに行くことができない。求人広告を見るためにはインターネットが欠かせない。インタビュー用の服だって必需品。
しかし、食費が犠牲になるのには、もう一つ大きな理由がある。
「周囲の目」だ。
この間まで家の前に停まっていた新車がなくなって急に中古のボロ車になったら、突然子供の習い事を止めさせたら、近所で「あの家はお金に困っているらしい」と噂がたつ。しかし、家の中でフードバンクで貰った豆の缶詰を食べてたって、誰にもわかりやしない。
バブルの頃は、お隣さんに負けないように (keeping up with the Joneses) 、クレジットカードとホームイクィティローンを目一杯使って新車を買い、新しい家電製品を買い、子供の教育費を調達した。バブルが弾けて簡単にクレジットが使えなくなっても、どっぷり染み付いた消費メンタリティは容易には抜けない。かくして人は、食費を削ってまで、お隣さんに負けない生活を守ろうとするのである。
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