これも一年以上前に出た本なので既に読んだ方も多いと思うが、面白かったのでご紹介。
前に紹介した The Big Short が Bear Sterns の破綻で終わるのにまるでタイミングを合わせたかのように、この本は(著者は違うのだが)ちょうど Bear の崩壊から話が始まる。 Bear の次は Lehman か、とジワジワと真綿で首を締めるように Lehman へのプレッシャーが上がってくる。いったん Lehman が危ないという懸念が広がりはじめると、好決算を発表しても市場のセンチメントは変わらない。なんとか会社を立て直そうと、投資家からの資金援助、他行との合併など様々な方策を探るが、最終的には Chapter 11 という、まさかの結果を迎えることになる。
日本語では「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」という題で訳が出ているらしい。確かに Lehman の動きに多くのページが割かれているが、 AIG にもかなりの焦点が当てられている。ここで扱われているのは Bear Sterns 崩壊から TARP (いわゆる bailout 法案)発動までの約半年の経済界全体の混乱ぶりであり、大恐慌の再来をなんとかして防ごうとするエリート金融機関の重役、政府高官の必死の努力の軌跡である。(ついでに、英語ではあまりリーマン・ショックという言い方は聞かないように思うのだが、これはわたしが無知なだけ?)
以下、思ったことをいくつかランダムに。
この本は、ニューヨークタイムスの経済記者の書いたノンフィクション。ストーリーの中心は人の動きであって、2008年の financial crisis の原因は何か、とか、見た目は好決算を出していた Lehman が半年もしないうちに倒産の憂き目にあったのはなぜか、という点に関して、テクニカルな面からの分析は主眼ではない。登場人物が多いので、せめて各金融機関の CEO の名前くらい知らないと取っ付きにくいかもしれないが、経済記事にあまり興味のない人にもおすすめ。
ウォールストリートの戦士たちというのは、よく働くんだねえ。こっちで Bank of America との合併のための diligence session をやり、あっちで平行して Barclays との session をやり、何時間以内に Paulson に進行状況を報告しないといけないとか、週末も夜中も関係ない。まあ、あの狂気のような給料、ボーナスを考えれば、これだけ働いてもまだまだ給料分働いてるとは言えないかもしれないけど。Paulson が Goldman の CEO から役人になったときに、部下のことを「この給料ではあんまりこき使うわけにいかんだろう」と思った、とあるのにはちょっと笑ってしまった。知人にも、投資銀行で荒稼ぎして40代でリタイア、などという人がいるが、あんな働き方を長く続けるのは常人には無理だろう。三菱UFJ が Morgan Stanley に出資するのしないという話の際、日本側が「もう夜更けなので上司を起こすのは無理だ」と言ったら、アメリカ側は「君、ここは一生に二度とないような重大な局面だ。ここで朝まで放っておいたら、あとで後悔するはめになるぞ」とプッシュするのも妙にリアル。
みんな、言葉遣い、柄が悪いね〜。F word や S word なしに一文を完結することができない模様。
このバックドロップの上で自分の家が2008年8月に売れたのは、今から考えると奇跡のよう。
ブッシュって、 Harvard Business School を出た MBA じゃなかったっけ?この本の中で Paulson から事態の説明を受ける彼は、ま〜ったく何もわかってないように描かれているけど。
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