メインコンテンツに移動

PFIC税制: 相続編

jinmei

前のエントリでは、もともと日本に住んでいた人がアメリカに渡った場合にPFIC税制の影響を受けてしまいそうなもっとも一般的なケースとして、日本で購入した投資信託を保有したままアメリカ居住者になったような場合を主に考えてきた。これ以外にもう一つ、気がつかないうちにPFIC税制の対象になりそうな例がある。日本の親族が日本で保有する投資信託を相続や譲与で受け取った場合である。

この場合にまず問題になるのは、basisの”step-up”が適用されるかどうかということである。筆者の結論は「適用される」なのだが、その結論には一筋縄では到達できない(上に、間違っている可能性もある)。

一般的に、(キャピタルゲインが発生する類の)資産を相続すると、それを受け取った相続人にとってのその資産のbasisは、被相続人の死亡時の時価に設定される。資産価値が概ね時間とともに増大するとすれば、通常は相続人のbasisは引き上げられることになり、のちの売却時のキャピタルゲインを減少させて税金上有利に働く。この規定が俗にstep-upと呼ばれるもので、IRC Section 1014で定められている。

このstep-up規定は、被相続人がアメリカにとってのnonresident alienがアメリカ国外に持つ資産(たとえばずっと日本で暮らしていた親族の持ち家)についても適用されるらしい。不動産の場合についてはIRSがRevenue Ruling 1984-38という通達で明言している。この内容は筆者にはやや理解しにくい部分もあるのだが、誤解をおそれずに筆者の解釈を書くと、以下のような理屈だと思われる。

  • IRC Section 1014(b)(1)で、相続の場合はstep-upの対象になると限定なしで書かれている
  • 被相続人が1953年以降に死亡した場合はその資産が遺産税の対象となることをstep-upの条件としたIRC Section 1014(b)(9)は、すでに(b)(1)があるため適用されない(nonresident alienがアメリカ国外に持つ資産は遺産税の対象にならないことに注意)。またCFR Section 1.1014-2(b)(2)でも、(b)(9)の制限はnonresident alienがアメリカ国外に持つ資産には適用されないとしている

この論理はとくに不動産に限定せずにあてはまるので、たとえば株式などの有価証券にも適用できるということのようだ。

ちなみに、死亡による相続ではない、単なる贈与の場合はstep-up規定は適用されない。したがって、basisの概念を持つような資産を受け取る場合は、贈与ではなく相続の方が一般的には有利だということになる。

ここまではいいとして、問題はこの資産がPFIC stock(より現実的にはアメリカ外の投資信託)の場合である。例によって、対象がPFICになるとイジメとも思われる例外が規定されており、IRC Section 1291(e)本文に、basisの増加分を打ち消すという記述がある。しかし、同じ項のIRC Section 1291(e)(2)によれば、被相続人がその保有期間中ずっとnonresident alienであった場合にはこの例外規定が適用されないので、結局、日本の親族から相続したPFIC stockのような場合もstep-upは適用できると考えてよさそうである。

step-upは適用されるとして、相続した瞬間にPFIC税制の対象になってしまうという問題からは逃れられない。前のエントリでも書いたとおり、問題が難しくなる前に売却してしまうというのがおそらく正解であろう。ただ、この場合のtax returnのやり方、とくにForm 8621の記入方法は筆者にはいまひとつよくわからない。もし、相続した日に普通に購入したのと同じ扱いでよければ、Section 1291 fundのままで売却してもMTM electionをして売却してもとくに作業の手間としては変わらないし、step-up適用後すぐに売却すれば譲渡益もほぼゼロだろうから、高い税率もそれほど問題にはならないだろう。ただ、そういうやり方でいいのかどうかは筆者にはよくわからないので、該当する状況に陥ってしまった人はやはり専門家に相談すべきだろう。

このブログ記事の配信元:

コメントを追加

認証
半角の数字で画像に表示された番号を入力してください。