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FTBとの長い戦いに勝利

jinmei

2013年分の確定申告でCalifornia FTB(Franchise Tax Board, IRSのカリフォルニア版)に税金を過剰搾取されるという事件が発生した。その後細々と抵抗の戦いを続けてきたのだが、1年半ほど経ってようやく還付小切手の受け取りに成功したので、ここでその顛末をまとめてみる。

過剰に取られていたのはState Disability Insurance (SDI) taxと呼ばれる税金である。これは労働者の障害保険金のようなものらしい。SDI taxは給与から一定税率を天引きする形で徴収される。この税率は年によって変わり、2013年度の場合は1%。また、この税率を適用する天引き対象となる給与の額にも年によって変わる上限があり、2013年度の場合は$100880。したがって徴収されるSDI taxの上限は$1008.80になる。なお、今年を含む過去数年分の税率と上限はEmployment Development Departmentの資料(PDF)に掲載されている。(ちなみに今年は0.9%と、過去数年よりも安くなった。カリフォルニアの財政事情の良化を反映しているのだろうか?)

SDI taxの対象となる給与は、名目の額から一部の控除を適用したものとなる。控除可能な項目は概ね州所得税に対するものと同じなのだが、大きなところでは401(k)への拠出額がSDI tax対象所得では控除できないというところが異なる。正確な控除項目のリストはDE 231TP(PDF)という文書に掲載されている(401(k)への拠出額については”Retirement and Pension Plans”のB参照)。また、州所得税とSDI taxに共通して控除可能でない項目として、HSAへの拠出額がある(DE 231TPのHSAの項B参照)。ここで、HSAへの拠出が控除できないという点がここでの話題において重要となる。

筆者が経験した過剰徴収は、以下のような条件が揃った場合に発生し得る:

  • 転職などにより、2ヶ所以上から給与を受け取っていた
  • SDI tax対象給与所得の合計が上限を超えていた
  • HSAに拠出していた

この条件をすべて満たすような例は比較的稀かもしれないが、シリコンバレーのITエンジニアなどのように、比較的給与水準が高くて転職も珍しくないというような場合ではそれほど例外的ではないかもしれない。筆者の場合、2013年に転職してその後半からHSA拠出をはじめたので、上記の条件をしっかり満たしてしまった。

以下、説明のために、2個所からそれぞれ6万ドル、合計12万ドルのSDI tax対象給与を受け取り、HSAに$3000拠出したというケースを考えてみる(HSA拠出は控除対象外なので、12万ドルには$3000のHSA拠出分も含まれていることに注意)。この場合、tax対象所得の合計が上限を超えているので、本来払う必要があるのは$1008.80である。一方、2個所の支払者間で何も調整がなかったとすると、それぞれの所得額は上限内であり、その1%ずつが源泉徴収されるため、徴収額の合計は$1200となる。その差額の$191.20は確定申告の時点でクレジットとして還付請求可能である(当然である)。

ところが、このような内容の確定申告をすると、FTBがとんでもない計算間違いをすることが珍しくないようだ(intuitの掲示板に、これとまったく同じ状況に遭った人の話題がある)。具体的にどういう計算が適用されているのか、正確なところはわからないのだが、結果として出てくる数字から考えるとどうも以下のような論理が適用されていると思われる:

  • $3000のHSA拠出分が控除可能であるかのように扱う
  • すると実際のtax対象給与額は$117000ということになり、天引きできるはずの上限は$1170となる
  • FTBが還付に応じるのは、これと実際の上限である$1008.80の差額、$161.20まで。残りの$30は雇用者に請求しないといけない

この理屈が適用された場合、tax returnに対して”notice of tax change”という書類が送り返されてくる。そこには上のように減額された還付額が記載され、その根拠としてError code SSというのが示される。

この(誤った)根拠になっているのは、CA Form 540 instruction(PDF)のLine 74に関する説明らしい:

If SDI (or VPDI) was withheld from your wages by a single employer, at more than 1% of your social security wages, you may not claim excess SDI (or VPDI) on your Form 540. Contact the employer for a refund.

ここで、突然social security wage(SS wage)が出てくるが、筆者の想像では、HSA拠出の控除可能性を別にすると、SDI tax対象所得とSS wageは多くの場合に一致し(どちらも401(k)への拠出が控除されずに含まれるので)、SS wageはW-2にも記載される(SDI tax対象所得は一般的には計算しないと求まらない)ため、後者を前者の概算値として使っているということなのではないかと思われる。しかし、HSA拠出がある場合は両者は大きく異なり得るのでこの説明は明らかにおかしい(そもそもSS wageを天引きの対象にすると天引き不足になる可能性がある)し、その場合に雇用者に連絡せよというのはとんでもない間違いかつ無責任な記述であろう。大体、HSA拠出もfederalに合わせて素直に各種州税の控除対象にしてくれていればこんな面倒もないはずなのに、勝手にCalifornia(だけではないが)独自に控除の例外としておいて、実務上でもこういう齟齬を生んで納税者に迷惑をかけるとは言語道断である。

筆者の実際の経験では、まずerror code SS入りの書類が届き、その内容を検討した結果上述のようにFTBの間違いだと確信したので反論レターを送ったのだが、その後半年くらいして電話がかかってきて、CA 540の上記部分を元に会社に請求しろと言われてしまった。念のため会社にも聞いてみたが、半ば予想していたように「FTBから還付してもらうしかない」とたらい回しにされ、金額も高々数十ドルだったので、それ以上時間を費やすコストの方がバカバカしくなってほぼ諦め状態で放置していた(なお、上の話からわかるように、取り戻せない分はHSA拠出額×税率なので、誰の場合でもせいぜい数十ドルになる)。が、別件のために結局大元のtax returnを修正することになり、California分も修正申告書を出すことになったので、そのついでにもう一度だけと思ってこの件も修正してみた。その際にexplanation(CA Form 540X Part IIのline 5)に書いたのは以下のような内容である:

I changed excess SDI from $161.20 to $191.20. The latter was my originally reported amount, but FTB reduced it to the former. I got a call from the FTB and was told that I should get refund from my employer, but it is not correct; neither of my 2 employers in 2013 withdrew more than 1% of my gross wage, but in total it was $1200 (see schedule W2) and exceeded the limit by $191.20. I in fact contacted my employer to confirm that.

(注: 具体的な金額は上の説明例のものに合わせて変更してある)

いま改めて読み直してみると、SDI tax対象額はgross wageそのもではないし、W-2のどこかに明示されているわけでもない(たとえばstate wageに401(k)拠出額を足すなどして自分で計算しないといけない)など、これまでの経緯が示すFTBのレベルの低さを考えるとこれで説得できたのが不思議なくらいだが、結果としてはこの修正申告で請求した還付額全額(+利子と思われるわずかな追加)の小切手が送られてきた。今回のまとめにあたって調べた結果も活かしていま改めて書くなら、DE 231TPを参照しつつ、SDI tax対象所得はSS wageとは一致しない(のでCA Form 540 instructionを字面通り適用するのはナンセンスである)こと、どちらの会社もSDI tax対象所得に対してきっちり1%を源泉徴収していること、などを説明した上で、FTBから取り戻す権利があるのだというような主張になるだろう。

ちなみに、ついてきた利子は、元の申告締め切りの2014年4月15日からと考えて計算すると年利約3%。いまどきノーリスクでこの利率はあり得ないくらい高いので、資産運用の一環だったと思えばあながち悪くない結果だが、金額が高々数十ドルでは、かかった手間の時間コストだけで相殺されているような気がする。

最後に、すべて終わった後の後知恵としては、転職後すぐに前の職場の最後の給与明細を提示して、SDI taxのそもそもの過剰天引きを防ぐのがベストだったと思う。仮にFTBがここまでボンクラでなく、はじめから正確な金額が還付されたとしても、過剰に天引きされている期間自体が損失であるし、まして今回経験したようにFTBが過剰徴収を認めないせいで戦うはめになったりするとその手間もばかにならない。もっとも、転職後の職場に必要な情報を提供したとして、それをきちんと処理してくれるかはまた別問題で、筆者が言うところの”US quality”からすると、この辺りもかなり望み薄だったりするのだが…。

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