メインコンテンツに移動

DRIPについて

jinmei

以前のblog記事で、通常の投資信託((traditional) mutual fund, TMF)とETFを比べた場合に、後者では「分配金を自分で再投資する必要があって面倒」と書いたが、実はETFでも銘柄と預け先によっては(無料での)自動再投資が可能な場合がある。これは一般にDividend Reinvestment Program/Plan (DRIP)と呼ばれていて、たとえばVanguardの証券口座にVanguardのETFを預けている場合はほぼDRIPを選択可能である(ちなみにFidelityはETFのDRIPを提供していない)。

恥ずかしながら、筆者は割と最近までVanguardの一般課税口座でもDRIPが選択可能なのを認識していなかった。IRA口座で買ったETFには何も指定しなくてもDRIPが適用されていたので、課税口座でそうなっていないことからIRA特有のサービスなのかと誤解していたのである(筆者のサイトナビゲーション能力が低いだけかもしれないが、Vanguardの証券口座のサイトはこのあたりがわかりにくような気がする。ETF名をクリックするとごちゃごちゃいろんな情報が現れるのだが、そこの”Holding options”というところで”Dividends and capital gains”の”Edit”をクリックして指定する必要があり、かなりの操作が必要である)。以前のblog記事以降、おもに再投資の利便性の点から、何とかコストやリスクをかけずにETFをTMFに転換できないかなどと考えていたのだが、DRIPが適用できるとなるとETFのままでもとくに問題ないということになりそうである…と思いつつ改めてよく調べてみると、(いつものことながら)実はそう単純な話でもないということが判明してしまった。

筆者がおもに気にしていたETFであるVWO(新興国の株式ETF)の場合で具体的に検討してみた結果、結局それほど心配せずにDRIPを適用してもよさそうということがわかったが、せっかくいろいろ調べたので、自分の理解の確認も兼ねてここにまとめておくことにする。なお、以下の内容はおもにetf.comというサイトに掲載されていたblog記事の内容を自分自身の理解で書きなおしたものである。

DRIPの欠点を理解するためには、まず配当や分配金の受け取りに関する用語を知る必要がある。何らかの株式や投資信託の保有者が、その株式や投資信託のある回の配当・分配金を受け取るための条件に関係する日付としては以下のものがある(SECの説明参照):

  • Record Date: 該当する配当・分配金を受け取るためには、この日に株主・保有者として登録されていないといけない
  • Ex-dividend Date: 該当する配当・分配金を受け取るためには、この日よりも前に購入していないといけない。株価や投資信託の基準価額はこの日に分配の分だけ下がる

また、配当・分配金の支払い日のことをPayable Dateと呼ぶ。ここでの話でとくに重要なのは、Ex-dividend DateとPayable Dateである。ちなみに、Ex-dividend Dateは税金支払い時にqualified dividend扱いになるかどうかを決める条件にも使われる。IRS Pub 17に記載のように、受け取った配当や分配金がqualified dividend扱いとなるためには、Ex-dividend Dateの前後60日ずつを含む121日間のうち60日超の期間保有している必要がある。

TMFで分配金の再投資を選択している場合は、Ex-dividend Dateの基準価額(net asset value, NAV)で再投資される。Ex-dividend Dateの定義上、これが再投資までの価格変化による影響を最小限にする再投資方法となる。

一方、DRIPによってETFを再投資する場合、再投資のタイミングは証券会社によって異なる(らしい)。Vanguardの場合はPayable Dateで、市場が開き次第マーケット価格(成り行き)で購入しているらしい(Vanguard自身の解説の”How does the reinvestment program work?”参照)。

TMFにおける再投資と比べると、DRIPによる(Vanguard方式の)ETF再投資は以下のような点で劣っている:

  • Payable dateまでの価格変化リスクを伴う。しかも、一般的にEx-dividend DateからPayable Dateまでの期間はETFの方が長い(分配金を受け取る資格の確認などに時間がより長くかかるためらしい)ので、このリスクは一層大きくなる
  • 成り行き買いのため、注文時点のスプレッド分のリスクを伴う。また、etf.comの記事によれば、市場が開いた直後のスプレッドは大きくなることがときどきあるらしく、その場合はそのリスクも相応に大きくなる

そこで、筆者がとくに気になっているVWOについて、過去の分配のEx-dividend DateとPayable Dateの価格を調べてみた。Vanguard自身が過去3年分(12回)の分配関連日付けを公開しているので、それをもとにPayable Dateの始値に対するEx-dividend Dateの終値からの変化を求めた結果が以下の表である。

Ex-dividend Date Payable Date 価格変化
2015/09/25 2015/10/01 1.99%
2015/06/26 2015/07/02 -0.32%
2015/03/25 2015/03/31 1.22%
2014/12/22 2014/12/29 0.30%
2014/09/24 2014/09/30 -3.46%
2014/06/24 2014/06/30 0.82%
2014/03/25 2014/03/31 2.76%
2013/12/20 2013/12/27 1.28%
2013/09/23 2013/09/27 -2.22%
2013/06/24 2013/06/28 4.82%
2013/03/22 2013/03/28 1.06%
2012/12/20 2012/12/27 -0.48%

ただし、Ex-dividend Dateの終値はその日のNAVとは普通異なるし(上記日付のNAVは検索しても見つけられなかった)、Payable Dateの始値と実際のmarket orderでの購入価格も多少はずれていることが多いだろうから、これらの値はあくまで概算である。

以上によれば、payable dateまでの間に平均して0.65%価格が上昇していることになる(なお、表からわかるように、Ex-dividend DateからPayable Dateまでは4営業日の開きがある)。高々過去12回程度では統計上も大した意味はないだろうし、そもそも過去のこうした価格変動の傾向が将来も継続するという保証もないのだが、一応、この結果の範囲では、Payable Dateに再投資する際の価格の方が高いことが多いということになり、TMFの再投資に比べるとやや損だということなる。もう少し精密には、VWOの過去12ヶ月のyieldが3.09%(yahoo financeより、執筆時点の値)とのことなので、年間のリターンとして平均0.02%ほど下振れするということになる。まったく無視できないというほどではない値だろうが、一応悪くても年5%程度の平均リターンを期待していいはずのクラスの資産である(ここ数年はまったく冴えないが…)から、この程度であれば利便性および機会コスト削減の効果でもとが取れると言えそうである。

ということで、結論としては、ETF(ものにもよるだろうが、VWOを含むVanguardの主要ETFなら概ねあてはまりそう)でDRIPが使えるなら使った方がよさそう、ということがわかり、一つ懸案が解決された。

このブログ記事の配信元:

コメントを追加

認証
半角の数字で画像に表示された番号を入力してください。