先程、2018年分の確定申告(Tax Return)の書類をe-fileした。筆者は、申告ソフトの分野では定番といわれる某Turb○Taxのひどいアコギぶりに嫌気がさして2010年からTaxActに乗り換えて以降ずっと愛用してきたのだが、今回ついにTaxActとも決別し、FreeTaxUSAに乗り換えることにした。結論から言えば、(少なくとも初期のTaxActをよかったと思う人になら)FreeTaxUSAは超お勧めである。筆者の観点でのFreeTaxUSAの特徴は以下の通り:
- コストパフォーマンスが極めて高い。Federalについてはかなり多くのフォームを無料版でサポートしており、stateを付けても$12.95
- 他社製品からの乗り換えは前年の申告書のアップロードである程度アシストされる
- 機能的に最大の欠点はW-2や1099類の自動インポートやCSVアップロードの機能がないこと。逆にいえばそれらが不要であれば機能的にも大手版とそれほど遜色ない
- 無料版でもカスタマーサポートはまずまずのレベル
- 手取り足取り世話を焼いてくれる大手製品と比べるとおそらく多少の税制の知識は必要
全体として、基本的な税制に関する理解があることを前提として、税金を納めるために$100近い出費を強いられるのは耐えられないという向きには強く推奨できる製品だと思う。以下は上記の内容に対するもう少し細かい説明である。
筆者は、TaxActには某TurboTa☓ほどのアコギさは感じていなかったので、3年前に実質有料化した後も「他に有力な代替ツールが登場するまでは、筆者は今後もTaxActを使い続けるだろう」(当時のblogより)と書いていたとおりTaxActを使い続けていた。しかし、その後も年々値段が釣り上がり、去年あたりにはもう他のメジャー製品との価格差がほぼないところまで行き着いてしまった(レビューサイトによっては、コストパフォーマンスではもはやH&R Blockにも劣ると位置づけられているようだ)。そんなわけでとうとう「代替ツール」に移行することとなった。
FreeTaxUSAの最大の強みはコストパフォーマンスであろう。FreeTaxUSAは古き良き時代のTaxActを思い出させる料金体系を採用しており、federalは無料でe-fileまで可能、state版を購入しても定価で$12.95で済む(ぐぐると10%引きくらいになるクーポンが落ちているのでそれを使うとさらに少し安くなる)。無料版でも対応フォームなどの点での差別はなく、筆者にとって必要かつ他社だとしばしば高価格版を要求されるcapital gain/loss (Schedule D)、HSA (Form 8889)、foreign tax credit (Form 1116)、non deductible IRA (Form 8606)などの状況にも無料版で対応している。今回は無事にacceptされる申告書を作成できたので、今後監査に遭うなどのトラブルがあって評価が変わらない限り来年以降もFreeTaxUSAを使うことになりそうだ。
FreeTaxUSAのfederal用には有料版(Deluxe)もあるのだが、無料版との差はサポートの内容だけで、申告の機能においては差別はない(はずである)。その有料版も$6.99なので他社の高価格版のようなボッタクリ感はない。申告機能面で差がないこともあって、”there are no surprises or extra fees to finish your tax return”との謳い文句(“about”ページより)通りである。また、他社製品(とくにアコギで有名な某Turb○Taxが酷い)を使っていると何かあるごとに上位機能版にアップグレードさせようと誘導されて非常に鬱陶しいのだが、FreeTaxUSAにはそういう嫌らしさもほとんどない。
TaxActがそうであったように、無料版の高機能さに釣られて使い始めたら数年後にどんどん値上げされるというリスクがあるのは否定できない。ただ、設立(2001年)から20年近く経ってもこのコストパフォーマンスを維持していることや、もともとはFree File Allianceのメンバーであった(らしい、aboutページより)という出自などから考えて、無料で申告できる価値の提供にこだわり続けてくれるのではないかと期待したい。
新規に乗り換える場合、前年の情報を引き継げないと何かと不便であるが、その点のサポートにも多少の努力が払われており、TaxActからの場合前年の申告書(PDF)をアップロードすると名前等の基本情報とか前年の所得元などを自動で復元してくれる。
FreeTaxUSAに乗り換えた人がおそらく最も不便に感じるのは、W-2や1099類の情報をすべて手入力しないといけないことだろう。ADPや各金融機関からの自動インポート機能もないし、capital gain/loss情報をCSVなどの形でアップロードする機能もない。ただ、筆者個人としてはこの不便さは価格差を考えれば十分許容できる。W-2は通常一人一部だから手入力も我慢できる(ただし手間に加えて誤入力のリスクも伴うが)。1099類についてはTaxActの自動インポート機能も貧弱だった(少なくとも去年まではメジャーどころにあまり対応していなかった)し、筆者はそもそも金融機関のパスワードを申告ソフトに入れるのが嫌で自動インポートは使うつもりもなかった。Capital gain/loss情報については、筆者は普段はほとんど売買をしないので項目数も多くないし、IRSが金融機関にcost basisの報告を義務付けるようになったせいか最近は複数取引のサマリだけで済む場合も多いようであり、その条件にあてはまれば1099-Bから一行分手入力するだけでよい。
操作面でやや不便に感じる点は2つある。1つ目は、基本情報→所得→控除などのように、FreeTaxUSAのUIが許す順に従って進むしかないという点。たとえばマイナーな所得情報は後回しにして大きめの控除の情報を先に入れたい、と思ってもそれは許されない(某review記事の”Interface and Ease of Use”の項参照)。一通りQ&Aを通らせることで見落とし事故を防ぐということなのかもしれないが、手取り足取りの丁寧なガイドが必要な人はこういうマイナー系ではなく某ボッタクリ製品などを使うのではないかと思うし、想定ユーザがDo It Yourself系なのだとするといまひとつその層の期待に合致してないような気がする。
操作面で不便に感じた2つ目の点は、stateの情報入力に進むまでstateのrefund/oweの見込額が表示されないこと。Federal分については所得や控除の情報を入れるごとに随時更新されるのだが、TaxActを含めて筆者が過去に使った他社製品と違ってFreeTaxUSAでは最初はstate分の見込額が表示されず、かなり不便に感じていた。ただ、当初はstate版にお金を払うまで見せてくれないのかと思って不満だったのだが、その後stateの情報入力に進んだ段階で表示されるようになることがわかり(下の画像参照)、いまとなってはそれほど大きな問題でもなかったという気もしている。
逆に操作面で好感を持ったのは、Form 1040をはじめとするform類を作業中に随時参照できるようになっている点。上記画像中の”View Form 1040″をクリックすると、その作業時点における1040本体を含むfederal returnの全フォームをPDFの形で閲覧できる。また、たとえば下記イメージのように、所得や控除などそれぞれの項目のサマリごとに対応するフォーム(たとえばinterest/dividend incomeならSchedule B)だけを閲覧することも1クリックでできる。このあたりは無料版で完全なreturnを作成できるツールならではであろう。TaxActでも有料版を買う前の段階でフォーム類を見ることはできた(去年の場合。今年は未使用のため不明)のだが、メニューのかなり奥の方まで進まないと確認できずにかなり不便だった記憶がある。
フォーム類のサポートについては、無料版でかなりの範囲をカバーしている(少なくとも筆者の申告には十分)であり、Q&Aについても制度についてある程度の理解があれば十分という程度にはわかりやすく、価格を考えれば十分に満足がいくレベルである。
筆者にとってこの点でのほぼ唯一の不満は、Foreign Tax CreditのためのForm 1116で指定できる国名が一つだけであること。筆者の場合、VTIAX他の世界株式系ファンド内で徴収されている外国税と、日本に残してある金融資産からの所得について日本で課税された分との2種類があるのだが、FreeTaxUSAでオンラインで済まそうとする限り、この2つを合算した上でファンドの類であることを意味する”RIC”を国名として指定するしかない。結果として請求できるcreditの額には変化がない(この類の外国税であれば、租税条約等の制限もあって普通は変化しないはず)ので、やや乱暴ながら合算方式で申告することにした。もしこの点でIRSから照会を受ければ、その時点で2種類を分けたForm 1116を作り直して修正申告で対応する算段である。
Form 1116の問題を確認するために、FreeTaxUSAのカスタマーサポート窓口も利用することになった。筆者は無料版レベルのサポートしか受けられないのだが、それを考えればまずまず納得のいくサポート品質であった。無料版ユーザであっても、「営業日時内なら通常30分以内、長くても24時間以内に返答」ということになっているのだが、概ねその謳い文句通りであり、返答の内容も、最初のものはアメリカのカスタマーサービスにありがちな「斜め上」な返事だったが、質問を(自分なりに)より明確にして聞いた答えは適切であった(結局「サポートしていない」という回答だったので、満足とは言わないが、それはサポートの品質とは別問題である)。
FreeTaxUSAが定番製品と比べてどの程度税制の知識を要求するのかの判定は、Turb○Taxをはじめとする「定番中の定番」な製品を使わなくなって久しい筆者には難しい。ただ、個人的な印象としては、ほとんど何の助けも要らないくらい簡単な申告で済む人(その場合は他社製品の「インチキ」無料版で済むことも多いだろう)でない限りある程度の税制の理解は必要になる(それすらも避けたいならもっとお金を払って人間の専門家に頼むしかない)と思うし、逆にその知識を付けた後でなら、高価な定番製品を買わなくてもFreeTaxUSA程度のUIとサポートでも十分なことが多いのではないかと思う。大手製品の高価なモデルでは芸術的な控除項目を見つけてくれる機能があったりするのかもしれないが、課税対象所得が給与と一般的な金融機関からのもの程度の人の場合は結局その恩恵にもおそらくほとんど預かれないのではないだろうか。
全体として、コストパフォーマンスを重視するDo It Yourself型納税者にはFreeTaxUSAは非常に有力な選択肢だと筆者は考える。少なくとも筆者は今後しばらくFreeTaxUSAを使っていくことになるだろう。
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