グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(2)
前回のポスティングでは長期保有グリーンカード放棄時の米国税務取り扱いの詳細を記したNotice 2009-85がIRSにより発表されたことを受けて、グリーンカード放棄の意味する米国税務上のインパクト等の関して触れた。今回はNotice 2009-85の具体的な規定に関して触れてみたい。
2008年6月17日のポスティングで触れた通り、2008年6月17日を境にグリーンカード放棄に適用される米国税務上の規定は大きく異なる。この日以前にグリーンカードを放棄した者に対しては以前の法律が継続して適用される。
*規定の対象者
今回のポスティングシリーズでは基本的に2008年6月17日またはそれ以降にグリーンカードを放棄した者に対する取り扱いにフォーカスする。この取り扱いの対象となるのは「長期グリーンカード保有者」のみであり、長期保有者に当たらない場合には税務上、特別な処理は必要ない。すなわち、長期保有ではない場合には、移民法上の放棄と同時に自動的に米国非居住者となり、その時点までは居住者として取り扱い、それ以降は普通の非居住者の取り扱いとなる。
また長期グリーンカード保有者でも、過去5年間の連邦所得税金額が$145K(金額は物価スライド対象)を超えない、所有資産のネット時価が$2,000K未満である、連邦所得税の申告を過去5年間きちんと行っている、という条件を全て満たす場合には課税関係はない。ただし、長期グリーンカード保有者ということで放棄時にForm 8854という様式を提出する義務が残る点注意が必要だ。
なお、長期グリーンカード保有者の定義は従来からの規定のままなので、その辺りの解説に関しては前回のポスティングでリンクを表示してある過去ポスティングを参照して欲しい。
*グリーンカード放棄とは?
自らグリーンカードを米国に返上したケースには当然、グリーンカード放棄に係る税務上の取り扱いが適用されるが、「没収」されてしまったケースでも同様の規定が適用される。更に米国の所得税申告を行う際に、租税条約の「Tie-Breaker規定」を利用して米国非居住者としての納税をしたり、または租税条約上、相手国の居住者に与えられている恩典を利用して米国の所得税を低減する場合も、税務上はグリーンカード放棄同様の取り扱いを受ける。
*グリーンカード放棄時の新しい規定
2008年6月17日の法改正の結果、長期グリーンカードを放棄した者はその時点(正確には放棄の前日)で所有している資産の全てを時価で売却したと取り扱われ(つまり「Mark-to-Market」)、課税関係もそれに準じて決定されるということになった。これは出国時に課せられる「Exit Charge」だ。その意味では法人が資産を外国に移転させる際に適用されるSec.367(a)の考え方に類似している。
トラストの利用とか、同じ資産にも時間的に差異のある所有形態(例えばRemainder財産権)の利用がさかんな米国では、資産の所有形態が多岐わたる。どのような資産をグリーンカード放棄時に所有していたかという決定は「もしグリーンカード保有者が放棄の前日死亡したとしたら遺産税目的で所有していたと取り扱われる資産を所有していたと取り扱う」という考え方で行われる。
それにしてもNoticeのナント複雑なことか。添付資料も含めるとレターサイズ(日本で言うところのA4に近い)で65ページにも及んでいる。今回はIRSによる「Notice」という形で規定が発表されているが、近々に正式な財務省規則が作成される予定だ。財務省規則の内容は当Noticeのものを基とするということである。
*Mark-to-Marketのみなしゲインとみなし損失
税法というのは税金を取るために規定されており、したがって「いいとこ取り」であるのはいつものことだが、今回の規定もまさしくその一例だ。すなわち、Mark-to-Marketで認識されるゲインに関しては税法の他の規定に係らず認識される(通常であれば非課税となる所得でも課税されるということ)一方で、損失が出る場合には税法の他の制限規定に抵触しない範囲(Wash Sale規定は適用されない)でのみ認識できる、とされている。
ゲインに関して他の規定で非課税となっていてもこの目的では課税対象となるとすると、おかしな結果となる。例えば、過去5年のうち少なくとも2年間主たる住居として所有・使用していた不動産からの売却益は$250K(夫婦合算申告のケースでは$500K)まで非課税となるはずだ。実際に不動産を売却するとこの規定が利用できるのに、みなしゲインだと適用できないということだとすると、グリーンカード放棄前日に本当に売ってしまった方が得となる。
また、損失の認識はWash-Sale規定を除く税法の制限条項が適用されることから、キャピタルロスは年間$3,000を超えては利用できないことになる。
特別な取り扱いが規定されている資産もある。例えば退職金制度その他のDeferred Compensation、一定の条件を満たすトラストの受益人となるようなケースのトラスト資産などだ。
次回のポスティングではこれらの規定の更なる詳細に触れる。
前回のポスティングでは長期保有グリーンカード放棄時の米国税務取り扱いの詳細を記したNotice 2009-85がIRSにより発表されたことを受けて、グリーンカード放棄の意味する米国税務上のインパクト等の関して触れた。今回はNotice 2009-85の具体的な規定に関して触れてみたい。
2008年6月17日のポスティングで触れた通り、2008年6月17日を境にグリーンカード放棄に適用される米国税務上の規定は大きく異なる。この日以前にグリーンカードを放棄した者に対しては以前の法律が継続して適用される。
*規定の対象者
今回のポスティングシリーズでは基本的に2008年6月17日またはそれ以降にグリーンカードを放棄した者に対する取り扱いにフォーカスする。この取り扱いの対象となるのは「長期グリーンカード保有者」のみであり、長期保有者に当たらない場合には税務上、特別な処理は必要ない。すなわち、長期保有ではない場合には、移民法上の放棄と同時に自動的に米国非居住者となり、その時点までは居住者として取り扱い、それ以降は普通の非居住者の取り扱いとなる。
また長期グリーンカード保有者でも、過去5年間の連邦所得税金額が$145K(金額は物価スライド対象)を超えない、所有資産のネット時価が$2,000K未満である、連邦所得税の申告を過去5年間きちんと行っている、という条件を全て満たす場合には課税関係はない。ただし、長期グリーンカード保有者ということで放棄時にForm 8854という様式を提出する義務が残る点注意が必要だ。
なお、長期グリーンカード保有者の定義は従来からの規定のままなので、その辺りの解説に関しては前回のポスティングでリンクを表示してある過去ポスティングを参照して欲しい。
*グリーンカード放棄とは?
自らグリーンカードを米国に返上したケースには当然、グリーンカード放棄に係る税務上の取り扱いが適用されるが、「没収」されてしまったケースでも同様の規定が適用される。更に米国の所得税申告を行う際に、租税条約の「Tie-Breaker規定」を利用して米国非居住者としての納税をしたり、または租税条約上、相手国の居住者に与えられている恩典を利用して米国の所得税を低減する場合も、税務上はグリーンカード放棄同様の取り扱いを受ける。
*グリーンカード放棄時の新しい規定
2008年6月17日の法改正の結果、長期グリーンカードを放棄した者はその時点(正確には放棄の前日)で所有している資産の全てを時価で売却したと取り扱われ(つまり「Mark-to-Market」)、課税関係もそれに準じて決定されるということになった。これは出国時に課せられる「Exit Charge」だ。その意味では法人が資産を外国に移転させる際に適用されるSec.367(a)の考え方に類似している。
トラストの利用とか、同じ資産にも時間的に差異のある所有形態(例えばRemainder財産権)の利用がさかんな米国では、資産の所有形態が多岐わたる。どのような資産をグリーンカード放棄時に所有していたかという決定は「もしグリーンカード保有者が放棄の前日死亡したとしたら遺産税目的で所有していたと取り扱われる資産を所有していたと取り扱う」という考え方で行われる。
それにしてもNoticeのナント複雑なことか。添付資料も含めるとレターサイズ(日本で言うところのA4に近い)で65ページにも及んでいる。今回はIRSによる「Notice」という形で規定が発表されているが、近々に正式な財務省規則が作成される予定だ。財務省規則の内容は当Noticeのものを基とするということである。
*Mark-to-Marketのみなしゲインとみなし損失
税法というのは税金を取るために規定されており、したがって「いいとこ取り」であるのはいつものことだが、今回の規定もまさしくその一例だ。すなわち、Mark-to-Marketで認識されるゲインに関しては税法の他の規定に係らず認識される(通常であれば非課税となる所得でも課税されるということ)一方で、損失が出る場合には税法の他の制限規定に抵触しない範囲(Wash Sale規定は適用されない)でのみ認識できる、とされている。
ゲインに関して他の規定で非課税となっていてもこの目的では課税対象となるとすると、おかしな結果となる。例えば、過去5年のうち少なくとも2年間主たる住居として所有・使用していた不動産からの売却益は$250K(夫婦合算申告のケースでは$500K)まで非課税となるはずだ。実際に不動産を売却するとこの規定が利用できるのに、みなしゲインだと適用できないということだとすると、グリーンカード放棄前日に本当に売ってしまった方が得となる。
また、損失の認識はWash-Sale規定を除く税法の制限条項が適用されることから、キャピタルロスは年間$3,000を超えては利用できないことになる。
特別な取り扱いが規定されている資産もある。例えば退職金制度その他のDeferred Compensation、一定の条件を満たすトラストの受益人となるようなケースのトラスト資産などだ。
次回のポスティングではこれらの規定の更なる詳細に触れる。
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