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グリーンカード放棄と米国の税金「追加Update」(6)

Max Hata
今回も長期グリーンカード放棄時に適用されるMark-to-Market課税の詳細を続けたい。前回のオタク分野に続き、今回も「退職金等の繰延報酬の取り扱い」というかなり複雑怪奇な分野に触れる。ただ、今回の取り扱いは、前回のLike-Kind ExchangeとかGRAの取り扱いに比べると日本人の長期グリーンカード放棄に適用される局面が存在する可能性は高い。

退職金、繰延報酬のクロスボーダー取引に係る取り扱いはグリーンカード放棄に至る以前の段階で既に「超」複雑であり、その全容を触れるとそれだけで一冊の本が書けるだろう。したがって、ここで触れている内容はかなり簡素化された一部の情報であり、実際の取り扱いは「必ず」専門家に(費用を払って?)相談する必要がある。これは全ての税務検討事項に当てはまることであるが、退職金とクロスボーダーの組み合わせはかなり難易度が高いので特に強調しておく。

*退職金と繰延報酬

退職金制度は日本でも一般的であるため分かりやすいと思うが、繰延報酬(Deferred Compensation)というのは米国に比べると日本では浸透度が低く、チョッと分かり難いかもしれない。

繰延報酬とはその名の通り、従業員(通常はオフィサーとかの高給取り)が役務を提供して月給とかの通常のサイクルで給与をもらう代わりに(というか通常の給与に加えてという方が正確かも)、報酬の一部を将来の何らかの時点で受け取るアレンジを意味する。目的はもちろん、課税を繰り延べるためだが、ここが難しい。

従業員としては単に「今年の報酬は3年後に支払います」という雇用者の口約束だけでは「本当にもらえるかな」という点で不安が残る。会社が倒産して原資がなくなってしまえば、いくらバランスシートに負債が認識されていてもタダの債権者になってしまう可能性があるからだ。

それではということで、原資を確保した形での繰延が好ましいことになるが、将来の支給が原資に裏づけされた形で確約されてしまうと、報酬を今受け取ることができないにも係らず、口約束以上の「財産」を受け取ったとして約束時点で現金も受け取っていないのに課税されてしまうこともある。報酬の受け取り自体が繰り延べられているのに、課税が繰り延べされないとしたら最低だ(従業員にとっては)。

したがって、繰延報酬プランを策定する際には、可能な限り「原資を確保」しながら、リスクは残して、実際に受け取るまでは課税されないようにするというのが基本的な考え方となる。

401(k)を含む米国税務上の適格プランであれば、原資を他の債権者の手の及ばないトラストに拠出する等の方法で確実に確保した形で、従業員への課税は実際の受け取りまで課税を繰り述べることができる。さらに原資を拠出する段階で雇用者としては損金算入が認められる。適格プランはこの点でとても優れている。しかし、適格とするにはいろんな条件を満たさなければならないし、報酬の受け取りを退職まで待たない場合にはそもそも退職金プランとはならない。

このように通常の米国内の取り扱いだけでも複雑な繰延報酬なだけに、長期グリーンカード放棄の際の規定は輪をかけて分かり難い。その部分を次のポスティングで触れたい。
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