米国でLLCという事業主体が一般的になってから20年弱の歳月が経つ。その間、LLCを日本では法人と取り扱うのか、それともパススルーと取り扱うのか、というかなり基本的な問題が長期間不明確であったりと、新たな事業主体形態の利用が発達していく過程ではつきものと言える不確実性が存在していた。
LLC本国となる米国では全州でLLCが認知されてから相当な時間が経過し、多くの事業がLLC形態で営まれていることから、連邦税法上の取り扱いも十分に確立されているのだろう、と思うのが普通である。ところが現実には税法のかなりの部分で未だにパススルーと言えばGPかLPという従来からの原始的な区分に基づく規定が残っているためにLLCへの適用が不明確なことがある。
*Sub KとLLC
例えば、LLC、GP、LPその他のパススルー事業主体(S法人を除く)に適用される税法のSub K自体も元々はGPとLPを想定して策定されていることから、LLCへの適用に関しては何となくしっくりとこない部分もある。例えばLLCの一つのメリットは全メンバーが有限責任となる点にあることから、Sec.704(b)上、損失の配賦をサポートする一手法である「Deficit Restoration条項」の利用は矛盾がある。Deficit Restoration条項とは、パートナーシップ解散の際に704(b)の規定(Sub Kでいうところの「Book」)に基づいて記録されたキャピタル勘定がマイナスとなっているパートナーは、そのマイナス分を追加出資する義務があるというものだ。この規定をLLC合意書に盛り込んでしまうとせっかくの有限責任が潜在的に無限責任に変わってしまう可能性がある。有限責任のLLCメンバーのつもりで投資していたら知らない間にGP同様になってしまっていた、というようなことがあれば冗談では済まされない。
また、Sub Kでいうところの「ノンリコース負債」はどのメンバーも個人的に弁済の義務を負わないものと規定されていることから、事業主体レベルではリコースと考えられる負債もLLCのメンバーにとっては全てノンリコースとなる(個人的な保証を差し入れているケース、またはメンバー自身がレンダーのケースは除く)。ノンリコース負債でサポートされる損失の配賦にはノンリコース控除(Nonrecourse Deduction)だの、ミニマム・ゲイン・チャージバックだのの面倒な計算をする必要があるが、事業主体の全ての負債がノンリコースとなるとこの計算もとても複雑になるように思う。
*Passive Loss規定とLLCメンバー
そんな法律の未整備ぶりを露呈したのがここ数ヶ月の間にIRSが立て続けに裁判所で負けたケースだ。
総合課税を基本とする米国税法下では一年間の間に発生する所得・費用・ゲイン・損失を相殺してネットの課税所得を算定する。ところが一定の損失、費用は所得との相殺に制限が設けられている。そのような制限のひとつに「Passive Activity Loss(PAL)」規定がある。PALというと何となく友好的な響きだが、実はかなりの牙を持つ規定で油断できない。特に不動産投資をしている個人にとってはせっかくの(?)損失がPAL規定により他の所得と相殺ができずに悔しい思いをすることが多い嫌な存在だ。
PAL規定下では、納税者(主に個人または同属会社に適用)が自らがかなりの関与をしない活動(Passive Activity)から発生する損失は、他のPassive Activityから発生する所得とのみ相殺が認められる。使えない損失は無期限に繰り越しの対象となるが、将来においてネットでPassive Activityから所得が発生するか、またはPassive Activity自体を課税取引で売却するまで使用できないことになる。
PAL規定の適用に際しては、どのような活動内容が「自らがかなりの関与をしている」と取り扱われるかどうかが鍵となる。パートナーシップに投資をするパートナーにとってみると、その投資がPassiveとなるのかどうかでパートナーシップから配賦される損失の取り扱いが異なる。歴史的にパートナーシップの経営参加が限定されているリミテッド・パートナーに対しては、ジェネラル・パートナーと比べて、パートナーシップの活動に関して「かなりの関与」が認められ難く、その判断にはジェネラル・パートナーに対するものとは異なる、より厳しいテストが適用される。
ここで問題となるのはLLCのメンバーがLLCの活動に関して「かなりの関与」をしているかどうかの判断を行う際に、ジェネラル・パートナーに対するテストを適用するのか、ミリテッド・パートナーに対するものを適用するのか、という点だ。納税者としては「かなりの関与」をより認めてもらい易い(すなわちPAL規定に抵触しない可能性が高い)ジェネラル・パートナーに対するテストを適用して欲しいと願うだろうし、IRSとしてはPAL規定に抵触し易いリミテッド・パートナーに対するテストの適用を押すことになる。
この点を争点とした判例が最近相次いでいるが、IRSがことごとく負けている。連敗という厳しい結果を受けて新しいルール作りに着手するという発表が行われた。チョッと遅い気もするが、LLC、LLP、LLLPと派生していくパススルー事業主体の発達に税法が完全に追いつくころにはまた新たな別のパススルー形態が生まれているかもしれない。
LLC本国となる米国では全州でLLCが認知されてから相当な時間が経過し、多くの事業がLLC形態で営まれていることから、連邦税法上の取り扱いも十分に確立されているのだろう、と思うのが普通である。ところが現実には税法のかなりの部分で未だにパススルーと言えばGPかLPという従来からの原始的な区分に基づく規定が残っているためにLLCへの適用が不明確なことがある。
*Sub KとLLC
例えば、LLC、GP、LPその他のパススルー事業主体(S法人を除く)に適用される税法のSub K自体も元々はGPとLPを想定して策定されていることから、LLCへの適用に関しては何となくしっくりとこない部分もある。例えばLLCの一つのメリットは全メンバーが有限責任となる点にあることから、Sec.704(b)上、損失の配賦をサポートする一手法である「Deficit Restoration条項」の利用は矛盾がある。Deficit Restoration条項とは、パートナーシップ解散の際に704(b)の規定(Sub Kでいうところの「Book」)に基づいて記録されたキャピタル勘定がマイナスとなっているパートナーは、そのマイナス分を追加出資する義務があるというものだ。この規定をLLC合意書に盛り込んでしまうとせっかくの有限責任が潜在的に無限責任に変わってしまう可能性がある。有限責任のLLCメンバーのつもりで投資していたら知らない間にGP同様になってしまっていた、というようなことがあれば冗談では済まされない。
また、Sub Kでいうところの「ノンリコース負債」はどのメンバーも個人的に弁済の義務を負わないものと規定されていることから、事業主体レベルではリコースと考えられる負債もLLCのメンバーにとっては全てノンリコースとなる(個人的な保証を差し入れているケース、またはメンバー自身がレンダーのケースは除く)。ノンリコース負債でサポートされる損失の配賦にはノンリコース控除(Nonrecourse Deduction)だの、ミニマム・ゲイン・チャージバックだのの面倒な計算をする必要があるが、事業主体の全ての負債がノンリコースとなるとこの計算もとても複雑になるように思う。
*Passive Loss規定とLLCメンバー
そんな法律の未整備ぶりを露呈したのがここ数ヶ月の間にIRSが立て続けに裁判所で負けたケースだ。
総合課税を基本とする米国税法下では一年間の間に発生する所得・費用・ゲイン・損失を相殺してネットの課税所得を算定する。ところが一定の損失、費用は所得との相殺に制限が設けられている。そのような制限のひとつに「Passive Activity Loss(PAL)」規定がある。PALというと何となく友好的な響きだが、実はかなりの牙を持つ規定で油断できない。特に不動産投資をしている個人にとってはせっかくの(?)損失がPAL規定により他の所得と相殺ができずに悔しい思いをすることが多い嫌な存在だ。
PAL規定下では、納税者(主に個人または同属会社に適用)が自らがかなりの関与をしない活動(Passive Activity)から発生する損失は、他のPassive Activityから発生する所得とのみ相殺が認められる。使えない損失は無期限に繰り越しの対象となるが、将来においてネットでPassive Activityから所得が発生するか、またはPassive Activity自体を課税取引で売却するまで使用できないことになる。
PAL規定の適用に際しては、どのような活動内容が「自らがかなりの関与をしている」と取り扱われるかどうかが鍵となる。パートナーシップに投資をするパートナーにとってみると、その投資がPassiveとなるのかどうかでパートナーシップから配賦される損失の取り扱いが異なる。歴史的にパートナーシップの経営参加が限定されているリミテッド・パートナーに対しては、ジェネラル・パートナーと比べて、パートナーシップの活動に関して「かなりの関与」が認められ難く、その判断にはジェネラル・パートナーに対するものとは異なる、より厳しいテストが適用される。
ここで問題となるのはLLCのメンバーがLLCの活動に関して「かなりの関与」をしているかどうかの判断を行う際に、ジェネラル・パートナーに対するテストを適用するのか、ミリテッド・パートナーに対するものを適用するのか、という点だ。納税者としては「かなりの関与」をより認めてもらい易い(すなわちPAL規定に抵触しない可能性が高い)ジェネラル・パートナーに対するテストを適用して欲しいと願うだろうし、IRSとしてはPAL規定に抵触し易いリミテッド・パートナーに対するテストの適用を押すことになる。
この点を争点とした判例が最近相次いでいるが、IRSがことごとく負けている。連敗という厳しい結果を受けて新しいルール作りに着手するという発表が行われた。チョッと遅い気もするが、LLC、LLP、LLLPと派生していくパススルー事業主体の発達に税法が完全に追いつくころにはまた新たな別のパススルー形態が生まれているかもしれない。
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