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かなり強力「Closing Tax Loopholes Act」(6)

Max Hata
ここ何回か続けているClosing Tax Loopholes Actの規定内容は基本的に米国企業(日本企業の米国子会社を当然含む)が米国外に投資しているという局面(米国からみた「Outbound」)に影響が大きいものが多い。そんな中でいくつか外国から米国に投資しているという局面(米国からみた「Inbound」)に関連するものがあるので簡単に紹介しておきたい。

*80・20ルール

米国法人が非居住者、外国法人に支払う配当、利息は30%の源泉税の対象となる(もちろん、源泉税は租税条約の利用で多くのケースで税率が低減されたり源泉税がまるまる免除される)。

この源泉税の対象とならないケースに、配当、利息の支払主が米国法人とは言えほとんどの所得を米国外で得ているというものがある。これはそんな状態であれば、そもそも配当とか利息の源泉地が米国であるとは言い難く米国での課税権行使には適切な状況ではない、という考え方に基づく政策だ。

これが一般に80・20ルールと言われるもので、米国法人の総所得の少なくとも80%が米国外の事業活動に基づく外国源泉所得の場合に源泉税の免除がある。その算定には3年間ルールとかいろいろとあるが、このルールを撤廃してしまおうという規定が改定案に盛り込まれている。実際に日本企業で80・20ルールを利用しているところはとても少ないと思われることから改定の影響はないに等しいだろう。

*米国外法人を利用したSec.304

関連会社間で株式の売買をする際に必ず適用有無を検討することになる規定にSec.304がある。このSec.304、前回のポスティングで触れたSec.956と同時に以前は見過ごされがちであったが、今ではすっかり定着してみな真っ先に考えるような規定に「成長(?)」した感がある。

Sec.304取引には様々なパターンがあるが、典型的で分かり易いのは親会社Pが二つの子会社の一つAを他の子会社Bに現金で売却するようなケースだろう。これは会社法上は関連会社間の株式売却だがSec.304でみなし配当となる。正確には、PはAの株式をBに現物出資し(Sec.351)、その対価でB株式を受け取り、Bが即座にB株式をPから現金で買い戻したかのように取り扱われる。Bによる償還はPがBの100%親会社であることからSec.301の分配(=Distribution)扱いとなる。

分配は米国税務上はE&Pの範囲でのみ配当となる。このSec. 304下でのE&P使用順序の決定がまたややこしく、まず株式を買った買収法人(上の例でいくとB)のE&Pを使ったものとし、分配額がそれを上回る場合には次にターゲット(上の例でいくとA)のE&Pを使ってものとされる。ただし、Bが外国法人の場合にはこの目的で使用されたと取り扱われるE&PはBが米国法人の子会社(CFC)だった期間の金額に限定される。
別のSec. 304取引に次のようなものがある。日本親会社(J)が米国に100%子会社(US Co)を持っているとする。更にUS Coが米国外に100%子会社(CFC)を持っているとする。典型的なサンドイッチ構成だ。そんなパターンで、もしJがUS Co株式をCFCに売却するとこれはSec.304取引となる。会社法上はCFCは株式取得のための現金をJに支払い、US Coを100%子会社化することになり、US CoはCFCの子会社となる。

しかし米国税務上はSec.304に基づき、CFCからJへの配当となる。その際に使用されるE&Pだが、上述のE&P使用順序規定に基づきまずは株式を取得したCFCのE&Pが使用されたかのように取り扱われる。ここで問題となるのは前回のポスティングのHopscotchにも似ているが、E&Pが使用されたと取り扱われるにも係らず、みなし配当はCFCからJに行なわれることとなり米国をバイパスしてしまっているので、外国法人であるCFCのE&Pを米国で課税するチャンスがないままに無くしてしまう点である。米国としてはCFCのE&Pを課税しないままに外国に逃がしてしまうのは許せない。Sec.367(b)とかSec.1248とか全てそれらを取り締まるためのものだ。

CFCがUS Coを持っているという再編後の状況はまさしく前回のポスティングで触れた「Sec.956取引」の形態であり、米国でその理論で課税ができるように見える。しかし、肝心のE&PがCFCから流出してしまっているのでSec.956を持ってしてもその部分は課税ができない。

そこで今回の改正案では上の例のようにCFCが株式の買い手、外国企業が売り手という局面でSec.304が適用される場合、E&Pの使用を決定する際にはCFCのE&Pは無視して、いきなりUS CoのE&Pを見ることとされる。

何となく改正案を読んで「そんな手があったか・・・」と漸くプラニングに目覚めるようなテクニックだ。日本企業以外の米国Inboundではこんなことをみんな当然のように利用して最適な税務ポジションを構築していたのだろう。日本企業も負けてられない(?)。

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