前回はブッシュ減税失効の遺産税に対する影響に関して触れたが今回のポスティングでは個人所得税への影響を考えてみたい。
*個人所得税率アップ
前回までのポスティングで触れているように、このまま議会が何もしないと2011年1月1日から、累進の最高税率が35%から39.6%にあがる。またほとんどのキャピタルゲインに対する税率が15%から20%に戻り、15%で課税されている配当は通常所得として最高39.6%で課税されることとなる。
オバマ政権としては2001年および2003年のブッシュ減税のうち、年収20万ドル(夫婦合算の場合は25万ドル)までの納税者に対しては減税を延長するという方針を打ち出している。しかし、ブッシュ減税の最大の受益者は富裕層であったと見られることから、富裕層に対する減税延長がない場合には共和党サイドから強い反発を食らう可能性が高い。
タダでさえ景気が不安定で消費が滞っている中で、増税を決行すると景気が更に悪化するという見方もある。この点に関してはいろんな経済学者が諸説唱えているので実際のところはよく分からないが、短期的な景気のことを考えると増税はマイナスだろう。
また、増税反対の話しが出る際に必ず言及されるのが「Small Business」だ。「富裕層が損するから」という理由は政治的に受けが悪いのは明らかなので、代わりに「Small Business」のオーナーが打撃を被るという理由がよく引き合いに出される。ビジネスはスモールでも(上場企業みたいに規模は大きくなくても)、個人レベルでは相当儲けている人たちは多いだろうから、確かに税率アップはSmall Businessへの悪影響もあるだろう。この点に関しても異論があり、そもそも夫婦合算で25万ドルまでであれば増税はないのだから、オーナーレベルではそれ以上儲けている「Small」ビジネスだけに影響があることになる。すなわち、潤っているSmall Businessのみに影響するのだから仕方がないではないか、という意見だ。しかし、儲かっているビジネスこそ雇用を生み出す原動力となるのだから、そこに増税はないだろう、という声もある。
また、米国で事業を展開する日本企業にとって、個人所得税率のアップは米国派遣員のグロスアップ後の人件費を押し上げることとなり頭が痛い。特に現時点では円高が著しいことから、日本円建支給の報酬(留守宅とかボーナス)のドル換算額が膨らむ傾向にあり、円高が来年まで続くとダブルパンチでグロスアップ後の人件費が嵩む。
*用意周到な納税者達
納税者側も「減税を何とか延長して欲しい・・・」と法律改正を願ってはいるものの、単に議会頼みの状態で手をこまねいている訳ではない。特に富裕層には2011年の増税の後に2013年のMedicareタックス増税が控えているだけにかなり真剣にプラニングモードとなっている。
2011年の税率が高いのであれば、2010年に所得を認識してしまおうという動きが加速している。例えば、ウォール街の金融機関では通常1月に支給される業績連動の期末ボーナスを今年に限っては12月に支給しようと検討しているところが多いと聞く。金融業界というかファンド業界では更に「Carried Interest」が通常所得として課税される影響も検討する必要もある。
また、配当を2010年に支払うという企業も多いだろう。何と言っても配当は12月31日に受け取れば15%の課税で済むものが、2011年1月1日からは最高で39.6%となる可能性があるからだ。配当政策の見直しは単なる配当の増額、前倒しに限らず、自社株の買い戻し、スピンオフその他の検討も視野に入る可能性がある。
また含む益を持つキャピタル資産の売却にも拍車が掛かる。現に裕福な投資家が保有するS法人を今年中に急に売却したいと提案され、買収のデューデリに入っている案件もある。年内のクロージングがMustということでその理由を尋ねたら、ブッシュ減税の失効にあった。
個人レベルで考えると、タイミングに関してコントロールの効く「個別控除(=Itemized Deduction)」、例えば慈善団体への寄付金を2010年ではなく2011年に繰り延べるというのも一つの策だと言われている。個別控除の税額に与えるインパクトは個人の限界税率で算定できるからだ。ただし、個別控除に対しては高所得者に対する控除額のフェイズ・アウトが2011年に高くなる点、またAMTが今後どのように推移していくか、等、税率アップ以外のデメリットを加味して検討していく必要がある。
*久しぶりに逆転する法人税率と個人所得税率
2011年の増税が現実のものとなる場合にもうひとつ興味深い現象として、法人税率(=35%)を個人所得税率(=39.6%)が久しぶりに上回るという点がある。一概には言えないが、場合によってはS法人とかLLC等パススルーで事業展開していた個人が事業主体のC法人への変更を希望するようなケースが出てくるかもしれない。
2010年も残すところ僅か4ヶ月、しかも11月には中間選挙があり、ブッシュ減税失効の行方は今後、注目度が高い。
*個人所得税率アップ
前回までのポスティングで触れているように、このまま議会が何もしないと2011年1月1日から、累進の最高税率が35%から39.6%にあがる。またほとんどのキャピタルゲインに対する税率が15%から20%に戻り、15%で課税されている配当は通常所得として最高39.6%で課税されることとなる。
オバマ政権としては2001年および2003年のブッシュ減税のうち、年収20万ドル(夫婦合算の場合は25万ドル)までの納税者に対しては減税を延長するという方針を打ち出している。しかし、ブッシュ減税の最大の受益者は富裕層であったと見られることから、富裕層に対する減税延長がない場合には共和党サイドから強い反発を食らう可能性が高い。
タダでさえ景気が不安定で消費が滞っている中で、増税を決行すると景気が更に悪化するという見方もある。この点に関してはいろんな経済学者が諸説唱えているので実際のところはよく分からないが、短期的な景気のことを考えると増税はマイナスだろう。
また、増税反対の話しが出る際に必ず言及されるのが「Small Business」だ。「富裕層が損するから」という理由は政治的に受けが悪いのは明らかなので、代わりに「Small Business」のオーナーが打撃を被るという理由がよく引き合いに出される。ビジネスはスモールでも(上場企業みたいに規模は大きくなくても)、個人レベルでは相当儲けている人たちは多いだろうから、確かに税率アップはSmall Businessへの悪影響もあるだろう。この点に関しても異論があり、そもそも夫婦合算で25万ドルまでであれば増税はないのだから、オーナーレベルではそれ以上儲けている「Small」ビジネスだけに影響があることになる。すなわち、潤っているSmall Businessのみに影響するのだから仕方がないではないか、という意見だ。しかし、儲かっているビジネスこそ雇用を生み出す原動力となるのだから、そこに増税はないだろう、という声もある。
また、米国で事業を展開する日本企業にとって、個人所得税率のアップは米国派遣員のグロスアップ後の人件費を押し上げることとなり頭が痛い。特に現時点では円高が著しいことから、日本円建支給の報酬(留守宅とかボーナス)のドル換算額が膨らむ傾向にあり、円高が来年まで続くとダブルパンチでグロスアップ後の人件費が嵩む。
*用意周到な納税者達
納税者側も「減税を何とか延長して欲しい・・・」と法律改正を願ってはいるものの、単に議会頼みの状態で手をこまねいている訳ではない。特に富裕層には2011年の増税の後に2013年のMedicareタックス増税が控えているだけにかなり真剣にプラニングモードとなっている。
2011年の税率が高いのであれば、2010年に所得を認識してしまおうという動きが加速している。例えば、ウォール街の金融機関では通常1月に支給される業績連動の期末ボーナスを今年に限っては12月に支給しようと検討しているところが多いと聞く。金融業界というかファンド業界では更に「Carried Interest」が通常所得として課税される影響も検討する必要もある。
また、配当を2010年に支払うという企業も多いだろう。何と言っても配当は12月31日に受け取れば15%の課税で済むものが、2011年1月1日からは最高で39.6%となる可能性があるからだ。配当政策の見直しは単なる配当の増額、前倒しに限らず、自社株の買い戻し、スピンオフその他の検討も視野に入る可能性がある。
また含む益を持つキャピタル資産の売却にも拍車が掛かる。現に裕福な投資家が保有するS法人を今年中に急に売却したいと提案され、買収のデューデリに入っている案件もある。年内のクロージングがMustということでその理由を尋ねたら、ブッシュ減税の失効にあった。
個人レベルで考えると、タイミングに関してコントロールの効く「個別控除(=Itemized Deduction)」、例えば慈善団体への寄付金を2010年ではなく2011年に繰り延べるというのも一つの策だと言われている。個別控除の税額に与えるインパクトは個人の限界税率で算定できるからだ。ただし、個別控除に対しては高所得者に対する控除額のフェイズ・アウトが2011年に高くなる点、またAMTが今後どのように推移していくか、等、税率アップ以外のデメリットを加味して検討していく必要がある。
*久しぶりに逆転する法人税率と個人所得税率
2011年の増税が現実のものとなる場合にもうひとつ興味深い現象として、法人税率(=35%)を個人所得税率(=39.6%)が久しぶりに上回るという点がある。一概には言えないが、場合によってはS法人とかLLC等パススルーで事業展開していた個人が事業主体のC法人への変更を希望するようなケースが出てくるかもしれない。
2010年も残すところ僅か4ヶ月、しかも11月には中間選挙があり、ブッシュ減税失効の行方は今後、注目度が高い。
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