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グーグルのモトローラ買収

Max Hata
グーグルのモトローラ・モビリティー買収のニュースは月曜日の朝いきなり前触れもなくやってきた。ビジネス関係のニュースは朝からこの話題で持ちきりなのでSch. UTPの最中だがチョッと脱線させてもらう。買収価格はナンと63%プレミアムで一株$40で買収総額は125億ドル。しかも全額現金買収となる(さすがリッチ)。

この買収、ビジネス戦略としては一瞬実に変に思えた。アンドロイドは世界中の人が知っている通り、オープン・プラットフォームであり、モトローラ以外の携帯機器メーカーも沢山利用している。アンドロイドが世界一のシェアに輝くことができたのも、そんな携帯機器メーカー(「パートナー」?)の存在があったからこそだし、そんなことは当のグーグルが一番良く知っているはずだ。にも係らず、ここでモトローラ・モビリティーという携帯機器メーカーを買収してしまうと、せっかくアンドロイドを搭載してくれているサムソンとかHTCとかの他の携帯機器メーカーとの関係はどうなってしまうのか、という疑問が出てくるからだ。まさかモトローラ・モービリティー1社のOEMになってしまうのか?

今日の東時間朝の8時半に開催された「Google to Acquire Motorola Call」と題された今回の買収に係るアナリスト向けのカンファレンス・コールでは、買収をドライブしているのは携帯機器ビジネスではなく、実に15,000(Pendingのものも加えると25,000とも)に上ると言われるモトローラの携帯関係のパテントだということが明らかにされた。すなわち、モトローラ・モビリティーが所有する素晴らしいパテント・コレクションの全てを一気に手に入れることができるチャンスだと。携帯機器ビジネスは「ついでに付いてきてしまった」に近い感じで、モトローラ・モビリティーは別事業として、ひとつのアンドロイドユーザーとしてこのままの状態で残るそうだ。「セグメント・レポートも提供する別事業」と強調されていた。

このコールではパテントの価値がかなり強調されていたように思う。僕は業界の専門家ではないので、これらのパテント所有がグーグルにとってどのような重要な意味があるか完全に理解した訳ではないが、グーグルのような会社はアンドロイドとかのテクノロジーに対して日常的にパテント侵害の訴えを起こされているようで、多くのパテントを持ってしまうことで、アップルとかマイクロソフトとかからのそのような訴えを最小限化できるという側面があるようだ。したがって今回のディールはオフェンスよりもディフェンスの側面が強いようだ。それにしても125億ドル(面倒なので100円換算で1兆25百万円!-そろそろ100年換算も現実的ではないが計算が簡単なので・・50円になったら変えます)でディフェンスというのも凄い。グーグルの手持現金を考えると、こんなディールは複数簡単にできるだろうし、現にコールでも「まだまだいろんなことができる弾力性は残る」と力強い発言がなされていた。

パテント取得が主たる目的であることは間違いないとしても、市場には若干警戒的な見方もある。「実際に携帯機器ビジネスを買収したとなると、他のメーカーは梯子を外されるかのように、ある日アンドロイドの最新バージョンはモトローラ・モビリティー製の「G-Phone」にしか搭載できなくなったり、またはそこまでは酷いことはしないにしても、最新の機能はG-Phoneにしか特別に供与されなくなってしまうのでは」という見方だ。しかし、カンファレンス・コールを聞いた感じではグーグルはオープン・プラットフォームに100%コミットしているように聞こえた(もしかして騙されやすい?)。ラリーページは「アンドロイドのエコシステムを守るために素晴らしいディールだ」と繰り返し訴えていた。アンドロイドのビジネスモデルを考えるとこれは当然のことのように思える。

個人的にはI-Phoneのようにハードからソフトの全ての側面をグーグルが管理するG-Phoneが誕生するのであればもちろん使ってみたい気がする。I-Phoneの初代モデルを並んで買ったあの「ワクワク感」がまた味わえるかも、という期待はみんなどこかに持っているのでは?

ちなみにアンドロイド搭載の携帯機器メーカーは、パテントを守ってくれるという条件で買収には賛成だそうだ。前日(日曜日)にアンドロイドの5大ユーザーに説明をしたということであった。

*買収に関するタックスの話し

さて、今回のディールに係るタックス関係に若干触れる。冒頭に触れた通り、今回の買収はキャッシュ・ディールだ。ということは「課税」取引となる。株式買収なので(上場企業の買収となるため、形式的にはReverse Subsidiary Mergerと思われる)株主は株式のキャピタルゲインに課税されるが、モトローラ・モビリティーという法人レベルでの課税はない。買収に係る課税関係の考える上で、法人レベルと株主レベルの双方を考えるのが基本中の基本だ。法人レベルでも課税される資産買収は最終的に法人・株主で二重課税となるので、通常は不利な形態となる。

グーグルが数年前にYoutubeを買収した際は、買収対価は現金ではなくグーグルの株式だった。今回のディールと対象的だが、カンファレンス・コールで「なぜ今回はストック・ディールではなかったのか」という質問が出た。「よくぞ聞いてくれた」と重いどのような回答がされるのかと固唾を呑んで待っていたが、3つの質問の最後であったため、(おそらく忘れて)回答はされなかった(残念・・・)。Youtubeは個人オーナーが巨額のキャピタルゲイン課税を嫌ってストックディールとなったのかもしれない。当時のカンファレンス・コールで「株式対価としたのは非課税再編とするため」という回答があったのを記憶している。

また、今朝のアナリスト向けのカンファレンスコールでは「モトローラの持っている繰延税金資産をグーグルが使えるか」という質問があった。Google側の回答は短く「確かにモトローラ・モビリティーにはNOL(税務上の繰越欠損金)があり、その利用は企業価値の評価に加味している。では次の質問に・・・」というものであった。グーグルがモトローラ・モビリティーを現金買収して子会社化する場合、株式買収なのでモトローラ・モビリティの持つNOL等のTax Attributeはそのまま残る。もちろん、法人の持分変更がある際には、NOLの使用はいろいろと制限される。いわゆる「Loss Trafficking」を規制するものだが、代表的なものとして、50%超の持分変動があった後のNOL年間使用額を制限するSec.382 、連結納税グループに後から入る際にNOLの使用対象を制限するSRLY規定、節税を主たる動機とした買収の場合にNOL使用を否認するSec. 269がある。

Sec. 382とSRLYが同時に適用される場合(正確には6ヶ月以内のOverlap)には、SRLYの適用がなくSec.382のみを考える。また、今回のようなディールには十分なNon-Tax目的があるので(パテント!)、Sec.269の適用はあり得ない。となると、他人のNOLでありながらGoogleはSec.382に規定内で自分たちの所得とモトローラのNOLを自由に相殺することができる。Sec.382の規定では、買収価格が高いと買収後に毎年使用できるNOLの金額も自ずと高くなる。BIGとかBILとか難しいことを考えなければ、125億ドルの買収価格にAFRのTax Exempt Rateをザックリ4%として乗じて、年間制限額は5億ドルとなる。かなりの使用が可能なのが分かる。

大型ディールはいろいろと面白い。果たしてG-Phoneは登場するか?
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