前回のポスティングでは2011年後半の大きなニュースとして米国版テリトリアル課税の法案に関して触れ始めた。テリトリアル課税の基本的な考え方、世界のトレンド等の背景を中心にカバーしたが、今回は規定の内容そのものに移りたい。
*法人税率は25%に
今回の米国テリトリアル課税法案は単に米国の国際課税システムを根本的に変えてしまうばかりでなく、複雑かつ高税率で評判の悪い米国法人税システムの抜本的な改正を目指している。その目玉となるのが法人税率の35%から25%への低減だ。ご存知の通り、米国の35%という税率は世界でも突出して高い。日本の更に高い税率がなければ世界一だ。多くの国の法人税率を見渡してみると平均は25%くらいというのがザックリとしたイメージだろう。
にも係らず米国企業の実効税率が低く、20%前半が珍しくない点は過去のポスティングで散々触れている。でもこの実効税率はグローバルの連結ベースなので米国での税コストだけではない。実際に米国企業の実効税率が低い理由の多くは低税率国のかなりソフィスティケートされた利用にある。
米国内の所得だけを対象に実効税率を見るとおそらくもう少し高いはずだ。というのも、会計上の実効税率は税効果会計に基づく繰延税金を加味することから、タイミング差異でIRSに支払う税額を圧縮していても実効税率は下がらない。したがって永久差異が必要となるが、連邦の法人税を下げることができる永久差異はR&Dクレジットとか、製造者控除とかかなり限定的だ。それでもそれらを駆使して、実際に35%の税率でIRSに納税している米国企業は少ない。実際には米国だけをみても27~28%くらいになっているのではないか、と推測される。35%なんかで法人税を支払った日にはタックス・ディレクターの首が飛ぶという嘘のような本当のような話がある。
したがって、35%の税率を下げても、クレジット等の恩典を撤廃すれば、長期的には法人税収の減額は思ったより少ないものと予想される。むしろ、R&Dクレジットとかに関して詳細な文書化を用意して税務調査で戦うような作業が必要なくなる分、税法は簡素化され企業の生産性は上がるだろう。
それでも35%から一気に10%下げるというのはなかなか大胆な減税のような気がする。実際には35%支払っている企業は少ないので、正味では5%位の減税というのが実態かもしれない。さらにもう一つこんな減税が可能な背景には、そもそも法人税を支払っている事業主体が少なく、法人税自体の歳入における重要性が低いという事実もあるだろう。米国内で事業を展開する際には株主レベルで配当が課されるという二重課税を嫌って、また事業体の損失をオーナー側で取り込むことを狙って、パススルーという形態が選択されることが多い。パススルー主体は法人税の対象ではないので、結果として多くの事業所得が個人所得税の対象に生まれ変わっていることになる。
ただし、この点に関しては実は一律にパススルーが有利という訳でもなく、現に今でも株式会社(C Corporation)という形で事業を営んでいる個人経営者がゼロという訳ではない。実は思ったよりも多いようで、その理由は法人税の15%の低税率区分が充実していること、配当まで個人レベルで課税されないこと(内部留保に事業目的が認められる場合)、配当が課税されるとは言え15%と優遇税率になっていること、またMedical Reimbursement Planを利用できるなど従業員ベネフィットに対する優遇税制が充実してること、などだろう。もし法人税を支払っていても15%の区分に収まるようなケースで株式会社形態を敢えて選択しているようなパターンが多いとすると、最高税率が35%だろうが25%だろうが全然関係ないことになる。
また、多くの米国多国籍企業にとって米国の法人税率が高いことは、低税率国に貯めた巨額のキャッシュを米国に持ち返ることができないという意味で一番頭が痛い。ということはテリトリアル課税下で外国子会社からの配当がそもそも非課税となるのであれば、大袈裟に言えば法人税率などどうでもいいかもしれない。どうせアーニングス・ストリッピングを駆使して米国の課税ベースなど浸食されまくっているということを考えると尚更だ。
余談となるが、税率が下がると繰延税金資産も目減りすることになる。例えば連邦法人税に関して$35Mの繰延税金資産を持っていたとすると、税率が25%になると当然資産は$25Mとなり、減税が可決した課税年度に$10Mの追加税コストが会計上発生する。繰延税金資産は早く使ってしまう作戦を考えるのが得策だ。また本末転倒っぽい話ではあるがこれが理由で減税に反対している輩もいるとのこと。世の中みんなをハッピーにすることは不可能のようだ。
*テリトリアル課税
そしていよいよテリトリアル課税の規定だが、基本的なところは日本同様に特定の外国子会社から受け取る配当の95%を非課税にしようというものだ。どのような条件を満たすと95%非課税となるか、に関しては次回のポスティングで触れる。
*法人税率は25%に
今回の米国テリトリアル課税法案は単に米国の国際課税システムを根本的に変えてしまうばかりでなく、複雑かつ高税率で評判の悪い米国法人税システムの抜本的な改正を目指している。その目玉となるのが法人税率の35%から25%への低減だ。ご存知の通り、米国の35%という税率は世界でも突出して高い。日本の更に高い税率がなければ世界一だ。多くの国の法人税率を見渡してみると平均は25%くらいというのがザックリとしたイメージだろう。
にも係らず米国企業の実効税率が低く、20%前半が珍しくない点は過去のポスティングで散々触れている。でもこの実効税率はグローバルの連結ベースなので米国での税コストだけではない。実際に米国企業の実効税率が低い理由の多くは低税率国のかなりソフィスティケートされた利用にある。
米国内の所得だけを対象に実効税率を見るとおそらくもう少し高いはずだ。というのも、会計上の実効税率は税効果会計に基づく繰延税金を加味することから、タイミング差異でIRSに支払う税額を圧縮していても実効税率は下がらない。したがって永久差異が必要となるが、連邦の法人税を下げることができる永久差異はR&Dクレジットとか、製造者控除とかかなり限定的だ。それでもそれらを駆使して、実際に35%の税率でIRSに納税している米国企業は少ない。実際には米国だけをみても27~28%くらいになっているのではないか、と推測される。35%なんかで法人税を支払った日にはタックス・ディレクターの首が飛ぶという嘘のような本当のような話がある。
したがって、35%の税率を下げても、クレジット等の恩典を撤廃すれば、長期的には法人税収の減額は思ったより少ないものと予想される。むしろ、R&Dクレジットとかに関して詳細な文書化を用意して税務調査で戦うような作業が必要なくなる分、税法は簡素化され企業の生産性は上がるだろう。
それでも35%から一気に10%下げるというのはなかなか大胆な減税のような気がする。実際には35%支払っている企業は少ないので、正味では5%位の減税というのが実態かもしれない。さらにもう一つこんな減税が可能な背景には、そもそも法人税を支払っている事業主体が少なく、法人税自体の歳入における重要性が低いという事実もあるだろう。米国内で事業を展開する際には株主レベルで配当が課されるという二重課税を嫌って、また事業体の損失をオーナー側で取り込むことを狙って、パススルーという形態が選択されることが多い。パススルー主体は法人税の対象ではないので、結果として多くの事業所得が個人所得税の対象に生まれ変わっていることになる。
ただし、この点に関しては実は一律にパススルーが有利という訳でもなく、現に今でも株式会社(C Corporation)という形で事業を営んでいる個人経営者がゼロという訳ではない。実は思ったよりも多いようで、その理由は法人税の15%の低税率区分が充実していること、配当まで個人レベルで課税されないこと(内部留保に事業目的が認められる場合)、配当が課税されるとは言え15%と優遇税率になっていること、またMedical Reimbursement Planを利用できるなど従業員ベネフィットに対する優遇税制が充実してること、などだろう。もし法人税を支払っていても15%の区分に収まるようなケースで株式会社形態を敢えて選択しているようなパターンが多いとすると、最高税率が35%だろうが25%だろうが全然関係ないことになる。
また、多くの米国多国籍企業にとって米国の法人税率が高いことは、低税率国に貯めた巨額のキャッシュを米国に持ち返ることができないという意味で一番頭が痛い。ということはテリトリアル課税下で外国子会社からの配当がそもそも非課税となるのであれば、大袈裟に言えば法人税率などどうでもいいかもしれない。どうせアーニングス・ストリッピングを駆使して米国の課税ベースなど浸食されまくっているということを考えると尚更だ。
余談となるが、税率が下がると繰延税金資産も目減りすることになる。例えば連邦法人税に関して$35Mの繰延税金資産を持っていたとすると、税率が25%になると当然資産は$25Mとなり、減税が可決した課税年度に$10Mの追加税コストが会計上発生する。繰延税金資産は早く使ってしまう作戦を考えるのが得策だ。また本末転倒っぽい話ではあるがこれが理由で減税に反対している輩もいるとのこと。世の中みんなをハッピーにすることは不可能のようだ。
*テリトリアル課税
そしていよいよテリトリアル課税の規定だが、基本的なところは日本同様に特定の外国子会社から受け取る配当の95%を非課税にしようというものだ。どのような条件を満たすと95%非課税となるか、に関しては次回のポスティングで触れる。
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