アメリカでは都市間の移動の主たる手段がジェット機となる。国土が広大なので多くの都市間で他に実効性のある交通手段があり得ないのに加えて、新幹線のような高速鉄道が少ないことからチョットした距離の移動も直ぐにジェットでということになる。普通はコマーシャルジェット、すなわち航空会社が飛ばしている飛行機を予約して移動ということになるが、空港でのセキュリティーライン、遅れ、いまいちのサービス、狭い席とかいろいろと不便が付きまとう。そこで富裕層はプライベージェットを利用することも多い。
プライベートジェットと言っても会社が保有している(または契約している)ものをオフィサーのような従業員が社用で使うものと、本当に個人で所有しているのを好きに使うもの、でチョット意味合いが違う。会社が保有しているものを使用する場合には、個人使用部分があるとみなし給与となってしまう。また、Private Equity Fundに買収されるような局面では無駄な費用として会社所有のジェットがなくなってしまうようなケースもある。PE Fundのパートナー自身がプライベートジェットで飛び回っているのに、買収対象となるPortfolio Companyにはそのようなパークを認めないという話しに矛盾がないか、という問いに対してPE Fundパートナーは会社のジェットを使用しているのと、自分で個人的に買ったジェットに乗っているのでは本質的に性格が異なる、という回答をしているのを聞いたことがある。確かに、税引後のネット所得で自家用ジェットを購入している人たちは本当にリッチな方たちだ。
*NetJets(ネットジェット)
米国にネットジェットという会社がある。この会社はプライベートジェットの「部分的所有(Fractional Ownership)」という仕組みを確立させた先駆者的な会社で、現在ではあのWarren Buffet氏のBerkshire Hathawayの子会社である。Warren Buffetが、ネットジェットを数年利用してとても気に入ったので会社を買収してしまった、という豪快ないきさつは良く知られている。自分で価値の分かるものに投資するというWarren Buffet投資コンセプトのいい例だろう。
このネットジェット、自分で一機プライベートジェットを買ってしまうよりもコストメリットがあるのと、メンテナンスその他煩雑な手続き一切をネットジェット側で面倒を見てくれるのでとても人気があるようだ。利用する側はジェット機の全体を100としてその何%を所有するかにより相当のコストを支払う。最低%は全体の1/16で、購入した%に準じて年間に利用することができる飛行時間が設定されている。ちなみに16%だと年間飛行時間50時間だそうだ。ロサンゼルスとニューヨークの往復に換算すると約5往復だ。最低%の購入には約$400,000(3千万強)必要とされる(プラス月極めの費用が発生)。またネットジェットで部分持分を買ったオーナーが飛行時間を「ばら売り」することもあり、25時間の飛行時間が約$130,000と言われている(もちろん機体の種類等でかなりのバリエーションがありそうだが)。
もしネットジェットを持っていたら何に使うだろうか?といったしょうもない空想にふけるのは意外と楽しい。ロサンゼルスとニューヨークの往復にコマーシャルジェットを利用する代わりに使うかもしれないけど、ネットジェット持ってる位だったらもうそんなにいつも行き来して仕事する必要もないかも(それでもやってそうな感じが怖いが)。もっと気の利いた使い方としては、金曜日の仕事が終わった後、ニューヨーク郊外の小さめの空港からいきなりミラノにでも飛び立ち、土曜日の朝到着した後(プライベートジェットなので睡眠はバッチリ取れているという想定)、Duomoの近くの奥まった路地のPizzeria/Ristoranteで美味しいイタリアンなんて味わえる展開になったら最高だ。タコのサラダ(ポテトが入っているやつ)とシンプルなパスタまたはニョッキでも食べて、レモン風味のジェラートのデザートみたいな簡単なランチがいい。その後プラプラ散歩して北上し、Turay辺りのまたしても奥まった路地でカフェに立ち寄って一休した後、時間があれば一気に中央駅からユーロスターのテスタロッサじゃなくて「Frecciarossa号」の豪華なFirst Classで(僕は別にToreitaliaのエージェントでも何でもないがあの電車は格好いい、特にPremier、First、Executiveクラスの内装。性能とかはよく分からないけど東海道新幹線にもあれ位の内装のを走らせて欲しい)週末のうちにフィレンツェ位までは足が伸ばせるかもしれない。で日曜日の遅くに向こうを出て、また月曜日からニューヨークで仕事。でもそんな身分だったら月曜日に慌てて帰ってこなくてもいいかも。夢は広がり過ぎるが、それでもどことなく現実に戻ってくるところが何とも言えない。
*ネットジェットとタックス
そんなネットジェットがIRSとタックスでもめていた。米国でコマーシャルジェットを飛ばしている航空会社は乗客チケットに7.5%という外形課税形式の税金、いわゆる「チケットタックス」を支払っている。一方でプライベートジェットのオーナーに同様のタックスはないのだが、IRSはネットジェットがオーナーから受け取るFeeは実質コマーシャルジェットのチケット代に当り、同様のタックスを支払うべきという考え方で追徴を突きつけていた。
ネットジェットのオーナーはプライベートジェットの部分的な持分を買い取った上で、ネットジェットとサービス契約を締結し、飛行機のメンテナンス、パイロットの雇用、その他ジェットを保有する際に必要となる手続き一切の面倒をネットジェットにみてもらう。さらに実際にジェットを使用する時間に応じてOccupied Hourly Feeというのが課せられる。過去の判例に、このOccupied Hourly Feeにはチケットタックスが課せられるというのがあるようだが、IRSはそれだけではなくネットジェットが受け取る全ての月極め費用もチケットタックスの対象となると主張し、3億5千万ドル(80円換算で280億円)の追徴を決めていた。ネットジェット側は月極めの費用はチケットタックスからは除外されるべきだとして法廷での争いが繰り広げられていた。
それがこの2月14日に議会からネットジェットへのバレンタインデーギフトとして「Federal Aviation Administration Modernization and Reform Act」が可決され、ネットジェットのようなプライベートジェットの部分持分に基づく飛行はチケットタックスの対象にはならないという修正というか確認がなされた。この条文の立法により、実質ネットジェットのポジションが指示されたことになる。ネットジェットを含むプライベートジェットのオーナーはその代わりに(かなり格安の)燃料タックスの上乗せを支払うという規定となった。チケットタックスは飛行の価値に7.5%だったのが、燃料タックスの上乗せ金額は飛行で使う燃料ギャロン当り14.1セントとなる。
*ロビー活動
ジェット部分所有に適用されるチケットタックスというかなりニッチな話であるにも係らず、メディアでこの話しが大きく取り上げられたのは、この立法に漕ぎ着けるためにネットジェットが$250万ドルを費やしてロビイストを動員して議会を動かしたという点だ。
Warren Buffet氏は「金持ちがミドルクラスと比べて相応の税金を支払っていないのはおかしい」というコメントでミドルクラスから尊敬されている存在なだけに、その彼が間接的に持っている子会社がロビー活動にこれだけの金額を使って自己に都合のいい法律を制定させてしまったとは見損なった、という揶揄する論調がメディアには多かった。実際には単なるオーナーであるWarren Buffetが今回のロビー活動をどれだけ知っていたかもよくわからないし、金持ちが相当の税金を支払っていない法律がおかしいというのが彼のコメントの趣旨であって、いち株式会社であり、多数のジェットオーナーを抱えるネットジェットとしては合法的に支払うべき税金またはチケットタックス以上のものを支払う義務はないし、これでWarren Buffet氏の志が低くなった訳でも何でもない。
ただ、以前に触れたGEによるActive Finance Exceptionのケースも同様だが、パワーと資金があれば議会を動かして便利な法律を制定してもらうことができるのは確かなようだ。
プライベートジェットと言っても会社が保有している(または契約している)ものをオフィサーのような従業員が社用で使うものと、本当に個人で所有しているのを好きに使うもの、でチョット意味合いが違う。会社が保有しているものを使用する場合には、個人使用部分があるとみなし給与となってしまう。また、Private Equity Fundに買収されるような局面では無駄な費用として会社所有のジェットがなくなってしまうようなケースもある。PE Fundのパートナー自身がプライベートジェットで飛び回っているのに、買収対象となるPortfolio Companyにはそのようなパークを認めないという話しに矛盾がないか、という問いに対してPE Fundパートナーは会社のジェットを使用しているのと、自分で個人的に買ったジェットに乗っているのでは本質的に性格が異なる、という回答をしているのを聞いたことがある。確かに、税引後のネット所得で自家用ジェットを購入している人たちは本当にリッチな方たちだ。
*NetJets(ネットジェット)
米国にネットジェットという会社がある。この会社はプライベートジェットの「部分的所有(Fractional Ownership)」という仕組みを確立させた先駆者的な会社で、現在ではあのWarren Buffet氏のBerkshire Hathawayの子会社である。Warren Buffetが、ネットジェットを数年利用してとても気に入ったので会社を買収してしまった、という豪快ないきさつは良く知られている。自分で価値の分かるものに投資するというWarren Buffet投資コンセプトのいい例だろう。
このネットジェット、自分で一機プライベートジェットを買ってしまうよりもコストメリットがあるのと、メンテナンスその他煩雑な手続き一切をネットジェット側で面倒を見てくれるのでとても人気があるようだ。利用する側はジェット機の全体を100としてその何%を所有するかにより相当のコストを支払う。最低%は全体の1/16で、購入した%に準じて年間に利用することができる飛行時間が設定されている。ちなみに16%だと年間飛行時間50時間だそうだ。ロサンゼルスとニューヨークの往復に換算すると約5往復だ。最低%の購入には約$400,000(3千万強)必要とされる(プラス月極めの費用が発生)。またネットジェットで部分持分を買ったオーナーが飛行時間を「ばら売り」することもあり、25時間の飛行時間が約$130,000と言われている(もちろん機体の種類等でかなりのバリエーションがありそうだが)。
もしネットジェットを持っていたら何に使うだろうか?といったしょうもない空想にふけるのは意外と楽しい。ロサンゼルスとニューヨークの往復にコマーシャルジェットを利用する代わりに使うかもしれないけど、ネットジェット持ってる位だったらもうそんなにいつも行き来して仕事する必要もないかも(それでもやってそうな感じが怖いが)。もっと気の利いた使い方としては、金曜日の仕事が終わった後、ニューヨーク郊外の小さめの空港からいきなりミラノにでも飛び立ち、土曜日の朝到着した後(プライベートジェットなので睡眠はバッチリ取れているという想定)、Duomoの近くの奥まった路地のPizzeria/Ristoranteで美味しいイタリアンなんて味わえる展開になったら最高だ。タコのサラダ(ポテトが入っているやつ)とシンプルなパスタまたはニョッキでも食べて、レモン風味のジェラートのデザートみたいな簡単なランチがいい。その後プラプラ散歩して北上し、Turay辺りのまたしても奥まった路地でカフェに立ち寄って一休した後、時間があれば一気に中央駅からユーロスターのテスタロッサじゃなくて「Frecciarossa号」の豪華なFirst Classで(僕は別にToreitaliaのエージェントでも何でもないがあの電車は格好いい、特にPremier、First、Executiveクラスの内装。性能とかはよく分からないけど東海道新幹線にもあれ位の内装のを走らせて欲しい)週末のうちにフィレンツェ位までは足が伸ばせるかもしれない。で日曜日の遅くに向こうを出て、また月曜日からニューヨークで仕事。でもそんな身分だったら月曜日に慌てて帰ってこなくてもいいかも。夢は広がり過ぎるが、それでもどことなく現実に戻ってくるところが何とも言えない。
*ネットジェットとタックス
そんなネットジェットがIRSとタックスでもめていた。米国でコマーシャルジェットを飛ばしている航空会社は乗客チケットに7.5%という外形課税形式の税金、いわゆる「チケットタックス」を支払っている。一方でプライベートジェットのオーナーに同様のタックスはないのだが、IRSはネットジェットがオーナーから受け取るFeeは実質コマーシャルジェットのチケット代に当り、同様のタックスを支払うべきという考え方で追徴を突きつけていた。
ネットジェットのオーナーはプライベートジェットの部分的な持分を買い取った上で、ネットジェットとサービス契約を締結し、飛行機のメンテナンス、パイロットの雇用、その他ジェットを保有する際に必要となる手続き一切の面倒をネットジェットにみてもらう。さらに実際にジェットを使用する時間に応じてOccupied Hourly Feeというのが課せられる。過去の判例に、このOccupied Hourly Feeにはチケットタックスが課せられるというのがあるようだが、IRSはそれだけではなくネットジェットが受け取る全ての月極め費用もチケットタックスの対象となると主張し、3億5千万ドル(80円換算で280億円)の追徴を決めていた。ネットジェット側は月極めの費用はチケットタックスからは除外されるべきだとして法廷での争いが繰り広げられていた。
それがこの2月14日に議会からネットジェットへのバレンタインデーギフトとして「Federal Aviation Administration Modernization and Reform Act」が可決され、ネットジェットのようなプライベートジェットの部分持分に基づく飛行はチケットタックスの対象にはならないという修正というか確認がなされた。この条文の立法により、実質ネットジェットのポジションが指示されたことになる。ネットジェットを含むプライベートジェットのオーナーはその代わりに(かなり格安の)燃料タックスの上乗せを支払うという規定となった。チケットタックスは飛行の価値に7.5%だったのが、燃料タックスの上乗せ金額は飛行で使う燃料ギャロン当り14.1セントとなる。
*ロビー活動
ジェット部分所有に適用されるチケットタックスというかなりニッチな話であるにも係らず、メディアでこの話しが大きく取り上げられたのは、この立法に漕ぎ着けるためにネットジェットが$250万ドルを費やしてロビイストを動員して議会を動かしたという点だ。
Warren Buffet氏は「金持ちがミドルクラスと比べて相応の税金を支払っていないのはおかしい」というコメントでミドルクラスから尊敬されている存在なだけに、その彼が間接的に持っている子会社がロビー活動にこれだけの金額を使って自己に都合のいい法律を制定させてしまったとは見損なった、という揶揄する論調がメディアには多かった。実際には単なるオーナーであるWarren Buffetが今回のロビー活動をどれだけ知っていたかもよくわからないし、金持ちが相当の税金を支払っていない法律がおかしいというのが彼のコメントの趣旨であって、いち株式会社であり、多数のジェットオーナーを抱えるネットジェットとしては合法的に支払うべき税金またはチケットタックス以上のものを支払う義務はないし、これでWarren Buffet氏の志が低くなった訳でも何でもない。
ただ、以前に触れたGEによるActive Finance Exceptionのケースも同様だが、パワーと資金があれば議会を動かして便利な法律を制定してもらうことができるのは確かなようだ。
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