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Inversion(6)

Max Hata
前回はチョッと脱線して、マイナス金利の話しとなってしまったが、Inversionはここに来て重要なTurning Pointを迎える。2004年の「American Job Creation Act(AJCA)」の制定だ。前々回に触れたが、Inversion Killerとして登場した改訂Section 367規則が実際には全然Killerでもなんでもなく、むしろEnabler(チョッと大袈裟?)になってしまったという反省から、既存の条項に対する付け焼刃ではなく、Inversionを直接的に取り締まる大胆な法律を策定しようという機運が2000年代前半から盛り上がっていた。そこに登場したのがBush(ジュニア)政権時代のAJCAの中に規定されたSection 7874だ。AJCA自体沢山の税法改訂が盛り込まれていて、数多い税法改正の中でも近年では1993年の税法改正(Omnibus Budget Reconciliation Act of 1993)以来の大型パッケージだった。

Section 7874が発表された際、まず感じる違和感は「エッ、7000番台?」というものだった。Inversion対策のような実質的な(手続き的でないという意味で)条項が税法の7000番台後半にCode化されるのはかなり意外だ。7000番台と言えばInternal Revenue Codeの中でも「Procedures and Administration」のSubtitle Fに属する。その一番最後に付け加えられたのがSection 7874となる。普通であれば、法人の取り扱いを規定する300番台とかクロスボーダー関係の800番、900番台となりそうなものだが、敢えて7000番台にCode化されている点でも1993年のInversion対策だった新Section 367とは異なるアプローチだ。

下で詳しく触れるが、Section 7874ができたことで、従来の(=以前のポスティングで触れたMcDermottとかHelen of Troyとかが実行した)単独Inversionは実質不可能となる。となると、親と子の相対的な位置関係が逆さになる(Invertする)という単純な手法は存在し得なくなり、その意味でInversionという用語は本来の意味を失ってしまう。すなわち、Inversion 1.0また3.0時代に存在したInversionはSection 7874と共に去ってしまったと言える。しかし、その後も、他の外国法人との組織再編を経て、旧米国法人が外国法人になることを引き続き一般にはInversionと呼ぶ慣行が続き、2004年以降、Inversionは全く異なる取引形態を意味することとなる。かくしてInversionのVersion 4.0の登場となる。

Section 7874もデビュー当時はInversionに冷却効果をもたらすことに成功する。しかし新Section 367規則がそうであったように、その後、意外にもInversionは徐々に復活する。米国企業、専門アドバイザー、ウォール街の適応能力の高さには感服だ。また、根底には、そこまでしてもInversionしないとグローバルで競争力が保てない程、米国法人税の使い勝手が悪いということにもなる。2016年の大統領選挙ディベートとかでも候補者(特にヒラリークリントンとか)は巨額のExit課税をするなどしてInversion対抗策を強化する、と鼻息が荒いけど、そうではなく、Inversionしないでも安心して米国企業としてグローバル経済の中で戦えるような環境(ここでは税法のこと)を整えるのが政府の本来の役目であり、またInversionを無意味なものにする唯一の対策だろう。

現に、Section 7874後も次々のVersionアップするInversionに呼応する形でチョッと遅れながら、複数のRegulations、Noticeを発行することで、Section 7874自体もVersionアップしていくこととなるが、根本的な解決になっていないばかりか、遂にファイザーまでInversionしてしまったように、どんどん外国企業に米国企業がM&Aされる環境を作り出し、奨励している法律となっているように思え、大きな目で見ると国の利益に反している悪法ようにも見える。

Section 7874はかなり複雑な規定なので本当に細かいことを理解するにはその原文およびSection 7874に関して規定される財務省規則を読むしかないんだけど、その骨子は次の通り。

まず、外国企業が米国企業の資産を直接・間接(株式買収を含む)に取得し、その結果、旧米国法人の株主が60%以上の持分(を持ち続ける場合にSection 7874の適用がある。ただし、買収後に外国企業(買収側)の設立国でグループが実体を伴うある程度のサイズの事業に従事している場合にはSection 7874は適用されないという「Substantial Business Activitiesテスト(SBAテスト)」という重要な例外が規定されている。

この条件に当てはまってしまう場合、すなわち外国法人に買収され、旧米国法人の株主が再編後の外国法人の60%以上の持分を持ち、かつSBAテストの例外を満たせない場合にSection 7874に抵触することとなるが、その適用法は、旧米国法人の株主が60%以上80%未満の持分を持っているのか、それとも80%以上の持分を持っているのか、で異なる。80%以上の持分を継続してしまっている場合には、買収側の外国法人は米国税法目的では米国法人と扱われる。すなわち、会社法的にはInversionしているが、税法上は外国に脱出に失敗したことになるので、Inversionにならない。米国税務上の観点からは意味がなく、単独Inversionは持分テストの観点からは不可能となる。もちろんSBAテストの例外を使うことができれば、旧米国法人の株主が仮に100%所有していてもSection 7874の適用はない。ただしSection 367は適用があるので注意が必要だ。

一方、60%以上だが、80%未満の場合には外国法人は米国税法上も外国法人として認められるが、その後にOut-from-Under系の取引に従事すると、そこから発生するGainを「Inversion Gain」と位置づけられ、NOL等、他の損失との相殺が認められないというペナルティーっぽい規定が適用される。

これがSection 7874の基本なんだけど、どうやって60%とか80%とかを算定するかを巡り、また重要な例外規定となるSBAテストの判断法に関してその後、紆余曲折を経ることとなる。かなり長いのでここから次回。
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