Section 7874が制定された当時から、また特に2012年にSBAテストが有名無実になって以降、Section 7874の適用を回避するには、外国企業との統合後に、旧米国法人の株主が統合後の外国法人の60%または80%の持分を持たないようなストラクチャーとする点がフォーカスとなっていた。ちなみに主たる懸念は80%のほうであり、最悪60%以上となっても80%未満であれば、一応Inversionは成功なので、よしとするような傾向がある。
これは一見、単純な計算のようだが、Inversion変遷のご多分に漏れずこの点にかかわるプラニングも進化していく。以前にも触れたが、60%とか80%を切らせるには、算数的には分母を大きくする、または分子を小さくする、という二つの方法がある。ここで言う分母とは統合後のトータルの持分で、分子は旧米国法人の株主による再編後の外国法人の持分となる。財務省としては故意に分母を膨らませたり、逆に分子を小さくするような取引に網を掛けようと考える。 まず分母側だけど、分母を大きくするには外国法人の価値を大きくする必要がある。この戦略は一般に「Stuffing」と呼ばれ、これに網を掛ける財務省側の規定は(その名の通り)「Anti-Stuffing」と言われる。この点に関して、Section 7874の条文そのものに「再編にかかわり、外国法人が公募する株式は算式に含まない」という規定、また「Section 7874適用回避目的で行われる資産・負債の移管は無視する」という規定、等が盛り込まれている。
Anti-Stuffing規定もInversionの進化と共に厳しくなる。まず、法律そのものを読む限り、公募(Public Offering)に当たらない株式の新規発行は分母に加えていいこととなる。すなわち、私募で株式を発行すれば分母を増やすことができ、60%または80%の持分規定をクリアできるストラクチャーが可能となる。この点に関しては2009年にIRSがNotice 2009-78を発行し、私募株式発行でもその対価が現金・有価証券を含む「非適格資産」の場合には、その株式は算定に加えないとされた。また当Noticeを基に発行された財務省規則では、公募、私募の株式発行ばかりでなく、他の株式譲渡にも同様の規定を適用するとした。これは外国法人が直接譲渡に関与しているものばかりでなく、再編にかかわる全ての譲渡が対象となる。もちろん、外国法人の純資産額に影響がない株式譲渡(例えば株主間の譲渡)は非適格とはならない。またもともとSection 7874で規定している「公募の株式は無視」という考え方は一部、緩和され、公募の対価が非適格資産の場合のみが問題であるとされた。
この非適格資産の考え方は2014年のNotice 2014-59で更に強化され、Inversionの再編にかかわって株式を発行等して取得した資産ばかりでなく、外国法人の資産内容そのものに、Inversion時点で非適格資産が50%超存在する場合には、60%および80%の判断時の分母に含まれる外国法人の株式数は非適格資産に比例する部分をマイナスするとまでされてしまった。この50%テストは上述の非適格資産を対価に発行された株式は判定に加味しないとするルールに追加で適用される。二つの規定は部分的に同じ資産に対する適用となることがあるので分かり難いが、一応ダブルカウントはされないようには配慮されている。
統合型のVersion 5.0のInversionは何とか80%をぎりぎりクリアするような取引が多い。すなわち、米国法人の方が再編相手の外国法人より圧倒的に規模が大きく、本来であれば米国法人が存続の持株会社となるべきケースがほとんどだ。したがって、非適格資産に絡んで分母が少しでも縮小してしまうと簡単に80%を超えてしまい、せっかくのInversionがInversionでなくなってしまうリスクが高い。その意味で、非適格資産はかなり効果の高い規定だと言え、その認定、確認は最重要課題となる。
比率的に言うと、例えば、20の発行済み株式を持つ外国法人が新たに79株を発行して米国法人を買収するような際どいパターンが多い。その場合、統合後のトータル株式は99株で、米国法人の株主は79株を継続するため、80%に至らず、Inversionは効果を持つこととなる。60%テストは満たせないので以前に触れたInversion Gainを10年以内に認識する場合には課税されるが、外国法人に変身というメリットは享受できる。また米国株主の持分は50%を大きく超えるので、株主レベルではSection 367に抵触するが、Section 367がInversionに対する抑止効果を持たない点は以前に何回も触れた通りだ。
このように際どく持分をクリアしているInversionには非適格資産の規定は重く圧し掛かる。例えば、上の例に似ているパターンで、20の発行済み株式を持つ外国法人が新たに76株を発行して米国法人を買収するとする。外国法人はこの買収と関係して4株式を新たに外国の株主に発行し50の現金出資を受けるとする。外国法人の資産内容はこの50の現金の他、150の非適格資産、100の適格(=現金とか有価証券とかでない普通の事業資産)を持っているとする。
この事実関係に上の非適格資産の考え方を適用してみると、まず現金を対価に発行された4株は分母から削除される。更に外国法人の資産内容を見ると、総資産300のうち200が非適格資産となるため、非適格資産の比率は67%となり50%超となる。したがって、分母に含まれる外国法人株式の時価は更に削減される。減額の比率算定には先に削除されている4株に対応する50の現金は含まれないので、150/250、すなわち60%となり、4株削除済みの20株に60%を掛けると12株式が分母から更に削除される。結果として分母に加算される株式数は84(100-4-12)となり、分子が76なので、持分継続は90.4%となり、Inversionは失敗に終わることになる。
この2014年のNoticeは日本の新聞でも(チョッと説明が分かり難かったけど)比較的大きく報道された。しかし、このNoticeが発行された直後にバーガーキングがカナダにInversionしてしまったりして財務省は更にムキになり、2015年にはまたNoticeを出し、非適格資産以外の資産を対価に発行された株式も場合によっては分母に入れない、とまで言い出している。
ということでStuffingの世界では、分母の算定はどんどんシュリンクしてきている。次回はもう一方の分子の考え方をみてみたい。
これは一見、単純な計算のようだが、Inversion変遷のご多分に漏れずこの点にかかわるプラニングも進化していく。以前にも触れたが、60%とか80%を切らせるには、算数的には分母を大きくする、または分子を小さくする、という二つの方法がある。ここで言う分母とは統合後のトータルの持分で、分子は旧米国法人の株主による再編後の外国法人の持分となる。財務省としては故意に分母を膨らませたり、逆に分子を小さくするような取引に網を掛けようと考える。 まず分母側だけど、分母を大きくするには外国法人の価値を大きくする必要がある。この戦略は一般に「Stuffing」と呼ばれ、これに網を掛ける財務省側の規定は(その名の通り)「Anti-Stuffing」と言われる。この点に関して、Section 7874の条文そのものに「再編にかかわり、外国法人が公募する株式は算式に含まない」という規定、また「Section 7874適用回避目的で行われる資産・負債の移管は無視する」という規定、等が盛り込まれている。
Anti-Stuffing規定もInversionの進化と共に厳しくなる。まず、法律そのものを読む限り、公募(Public Offering)に当たらない株式の新規発行は分母に加えていいこととなる。すなわち、私募で株式を発行すれば分母を増やすことができ、60%または80%の持分規定をクリアできるストラクチャーが可能となる。この点に関しては2009年にIRSがNotice 2009-78を発行し、私募株式発行でもその対価が現金・有価証券を含む「非適格資産」の場合には、その株式は算定に加えないとされた。また当Noticeを基に発行された財務省規則では、公募、私募の株式発行ばかりでなく、他の株式譲渡にも同様の規定を適用するとした。これは外国法人が直接譲渡に関与しているものばかりでなく、再編にかかわる全ての譲渡が対象となる。もちろん、外国法人の純資産額に影響がない株式譲渡(例えば株主間の譲渡)は非適格とはならない。またもともとSection 7874で規定している「公募の株式は無視」という考え方は一部、緩和され、公募の対価が非適格資産の場合のみが問題であるとされた。
この非適格資産の考え方は2014年のNotice 2014-59で更に強化され、Inversionの再編にかかわって株式を発行等して取得した資産ばかりでなく、外国法人の資産内容そのものに、Inversion時点で非適格資産が50%超存在する場合には、60%および80%の判断時の分母に含まれる外国法人の株式数は非適格資産に比例する部分をマイナスするとまでされてしまった。この50%テストは上述の非適格資産を対価に発行された株式は判定に加味しないとするルールに追加で適用される。二つの規定は部分的に同じ資産に対する適用となることがあるので分かり難いが、一応ダブルカウントはされないようには配慮されている。
統合型のVersion 5.0のInversionは何とか80%をぎりぎりクリアするような取引が多い。すなわち、米国法人の方が再編相手の外国法人より圧倒的に規模が大きく、本来であれば米国法人が存続の持株会社となるべきケースがほとんどだ。したがって、非適格資産に絡んで分母が少しでも縮小してしまうと簡単に80%を超えてしまい、せっかくのInversionがInversionでなくなってしまうリスクが高い。その意味で、非適格資産はかなり効果の高い規定だと言え、その認定、確認は最重要課題となる。
比率的に言うと、例えば、20の発行済み株式を持つ外国法人が新たに79株を発行して米国法人を買収するような際どいパターンが多い。その場合、統合後のトータル株式は99株で、米国法人の株主は79株を継続するため、80%に至らず、Inversionは効果を持つこととなる。60%テストは満たせないので以前に触れたInversion Gainを10年以内に認識する場合には課税されるが、外国法人に変身というメリットは享受できる。また米国株主の持分は50%を大きく超えるので、株主レベルではSection 367に抵触するが、Section 367がInversionに対する抑止効果を持たない点は以前に何回も触れた通りだ。
このように際どく持分をクリアしているInversionには非適格資産の規定は重く圧し掛かる。例えば、上の例に似ているパターンで、20の発行済み株式を持つ外国法人が新たに76株を発行して米国法人を買収するとする。外国法人はこの買収と関係して4株式を新たに外国の株主に発行し50の現金出資を受けるとする。外国法人の資産内容はこの50の現金の他、150の非適格資産、100の適格(=現金とか有価証券とかでない普通の事業資産)を持っているとする。
この事実関係に上の非適格資産の考え方を適用してみると、まず現金を対価に発行された4株は分母から削除される。更に外国法人の資産内容を見ると、総資産300のうち200が非適格資産となるため、非適格資産の比率は67%となり50%超となる。したがって、分母に含まれる外国法人株式の時価は更に削減される。減額の比率算定には先に削除されている4株に対応する50の現金は含まれないので、150/250、すなわち60%となり、4株削除済みの20株に60%を掛けると12株式が分母から更に削除される。結果として分母に加算される株式数は84(100-4-12)となり、分子が76なので、持分継続は90.4%となり、Inversionは失敗に終わることになる。
この2014年のNoticeは日本の新聞でも(チョッと説明が分かり難かったけど)比較的大きく報道された。しかし、このNoticeが発行された直後にバーガーキングがカナダにInversionしてしまったりして財務省は更にムキになり、2015年にはまたNoticeを出し、非適格資産以外の資産を対価に発行された株式も場合によっては分母に入れない、とまで言い出している。
ということでStuffingの世界では、分母の算定はどんどんシュリンクしてきている。次回はもう一方の分子の考え方をみてみたい。
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