前回のポスティングではオバマ政権下の8年間で蓄積された反ビジネス悪規制のひとつと位置付けられる過少資本の最終規則、特にFunding規定の撤廃・廃案の可能性に関して触れた。今回は税法改正とそのM&Aに対する影響等に関して簡単に触れてみたい。
税法改正の経済活動に与える影響は一般に大きいが、特に税率とどのような所得が低税率の対象となるかというポイントはM&Aのストラクチャリング等、Corporate取引に大きな影響を与える。その相関関係は過去のDealの変遷を見てみると良く分かる。2003年のブッシュ減税(息子の方)でキャピタルゲインは15%課税となり、また初めて配当もキャピタルゲイン税率の対象となった。
2006年にClosingされたBoston ScientificによるGuidantの$27Bのメガディール。ビジネス的にはAOL・タイムワーナー以来の大型M&Aの失敗例として引き合いに出されることが多不名誉なものだけど、この買収では、買収対価が60%株式+40%現金だった点が当時、税務業界では話題になった。買収は、上場企業の株式を買収する際の典型であるReverse Triangular Mergerという形で行われているが、税務上、この形が適格再編となるには対価の80%が株式で構成されていないといけない。敢えて60%しか株式としないことで、取引は課税取引となっている。ということは株主レベルで、受け取る対価のうち現金は40%しかないのに、全額課税となったことになる。対価を80%株式としないでも、例えばReverse Triangular Mergerの直後にBoston Scientificが子会社、またはSMLLCを設立してそこにターゲット法人であるGuidantを合併でもさせれば、今度はみなしForward Mergerとして適格にすることができただろうに、それもせず敢えて課税取引にしているように見える。
この頃から株主レベルの課税を気にしないM&Aのストラクチャーが結構目に付くようになる。2007年のTD BankによるCommerce Bankの買収に至っては、同じくReverse Triangular Mergerで株式対価がナンと75%という際どい課税取引だった。80%にしたら非課税の適格再編になるにもかかわらず、だ。ひとつの見方としては、株主レベルのキャピタルゲインが15%であれば、誰も余りそこは気にしないでDealをストラクチャーしてもいいレベルというものがある。課税取引なので、もちろん株式の税務簿価はステップアップする。更に株主の中にはTax-Exemptのペンションとか、また売り手そのものは課税されないパススルーのFundとかが多く含まれていた可能性もある。
2005年のSBCによるAT&Tの買収も興味深い。同じくReverse Triangular MergerでAT&Tを買収し、対価は株式100%だったのでそれ自体は非課税再編だが、買収直前にターゲット側のAT&Tは$1Bもの現金配当を実行している。しかもこの配当、買収がClosingすることが条件だったという。ターゲットの株主が内国法人であればDRDを使えるのでキャピタルゲインより好ましいことが多いが、旧来は個人の株主は同じ課税取引であれば配当よりもキャピタルゲインを好むというのが常識だった。それが2003年のブッシュ減税で配当が15%課税になったため、このようなストラクチャーが可能になったと考えることができる。
同じく2005年のVerizonによるMCIの買収は100%株式対価のForward Mergerだったんだけど、AT&Tと同様、売却直前にMCIにより現金配当が加味された取引だ。電話会社の買収は巨額の配当が付き物なんだろうか?Forward Mergerは課税となると法人および株主の双方で二重課税となるのでこの手の取引には再編そのものの適格性に影響がないよう気を使うだろう。いずれにしても配当の税率が低いからこそ可能なストラクチャーと言える。もちろん今でもキャピタルゲインの方がキャピタルロスと相殺できるとか、簿価をリカバーできるとか、メリットは残っているが、配当とキャピタルゲインとの税率差がなくなったことでストラクチャリングのオプションは増えたと言えるだろう。
この2003年のブッシュ減税は10年間で自動的に失効するきまりだったので(2001年の減税分はその後2年間延長されてそれらも2012年までは有効となっていた)そのまま放っておくと2012年にブッシュ現在が失効しそうになっていた。失効してしまうと税率が上がるばかりでなく、配当に対する優遇税制も失われる。15%が急に39.6%に跳ね上がることもあり得た訳だ。その直前には慌てて配当を出す企業が多かったが、結局ギリギリにブッシュ減税の多くは恒久化され、ハイエンダーと呼ばれる高所得者だけに減税効果がなくなる形で決着が付いた。
今回もし本当に法人税率が35%から15%(または20%)、また個人所得税も39.5%から33%に下がる、かつ3.8%のInvestment Taxも廃止されると株式市場、M&Aには追い風だろう。特にクリントンが当選していたら、税率は良くても現状維持、更に最悪なことに長期キャピタルゲインに適格となる保有期間が一年からナンと6年に延長というとんでもないアイディアだっただけに、株式市場やM&Aへの冷却効果は凄まじかっただろう。配当がキャピタルゲイン税率の対象となるための保有期間が60日なのに、売却をキャピタルゲインとするのに6年って言うのは不合理な話しだ。幸いにもこれらの税法は今では実現の可能性がなくなっている。
次回はもう少し、2017年に考えられる税法改正に関して。
税法改正の経済活動に与える影響は一般に大きいが、特に税率とどのような所得が低税率の対象となるかというポイントはM&Aのストラクチャリング等、Corporate取引に大きな影響を与える。その相関関係は過去のDealの変遷を見てみると良く分かる。2003年のブッシュ減税(息子の方)でキャピタルゲインは15%課税となり、また初めて配当もキャピタルゲイン税率の対象となった。
2006年にClosingされたBoston ScientificによるGuidantの$27Bのメガディール。ビジネス的にはAOL・タイムワーナー以来の大型M&Aの失敗例として引き合いに出されることが多不名誉なものだけど、この買収では、買収対価が60%株式+40%現金だった点が当時、税務業界では話題になった。買収は、上場企業の株式を買収する際の典型であるReverse Triangular Mergerという形で行われているが、税務上、この形が適格再編となるには対価の80%が株式で構成されていないといけない。敢えて60%しか株式としないことで、取引は課税取引となっている。ということは株主レベルで、受け取る対価のうち現金は40%しかないのに、全額課税となったことになる。対価を80%株式としないでも、例えばReverse Triangular Mergerの直後にBoston Scientificが子会社、またはSMLLCを設立してそこにターゲット法人であるGuidantを合併でもさせれば、今度はみなしForward Mergerとして適格にすることができただろうに、それもせず敢えて課税取引にしているように見える。
この頃から株主レベルの課税を気にしないM&Aのストラクチャーが結構目に付くようになる。2007年のTD BankによるCommerce Bankの買収に至っては、同じくReverse Triangular Mergerで株式対価がナンと75%という際どい課税取引だった。80%にしたら非課税の適格再編になるにもかかわらず、だ。ひとつの見方としては、株主レベルのキャピタルゲインが15%であれば、誰も余りそこは気にしないでDealをストラクチャーしてもいいレベルというものがある。課税取引なので、もちろん株式の税務簿価はステップアップする。更に株主の中にはTax-Exemptのペンションとか、また売り手そのものは課税されないパススルーのFundとかが多く含まれていた可能性もある。
2005年のSBCによるAT&Tの買収も興味深い。同じくReverse Triangular MergerでAT&Tを買収し、対価は株式100%だったのでそれ自体は非課税再編だが、買収直前にターゲット側のAT&Tは$1Bもの現金配当を実行している。しかもこの配当、買収がClosingすることが条件だったという。ターゲットの株主が内国法人であればDRDを使えるのでキャピタルゲインより好ましいことが多いが、旧来は個人の株主は同じ課税取引であれば配当よりもキャピタルゲインを好むというのが常識だった。それが2003年のブッシュ減税で配当が15%課税になったため、このようなストラクチャーが可能になったと考えることができる。
同じく2005年のVerizonによるMCIの買収は100%株式対価のForward Mergerだったんだけど、AT&Tと同様、売却直前にMCIにより現金配当が加味された取引だ。電話会社の買収は巨額の配当が付き物なんだろうか?Forward Mergerは課税となると法人および株主の双方で二重課税となるのでこの手の取引には再編そのものの適格性に影響がないよう気を使うだろう。いずれにしても配当の税率が低いからこそ可能なストラクチャーと言える。もちろん今でもキャピタルゲインの方がキャピタルロスと相殺できるとか、簿価をリカバーできるとか、メリットは残っているが、配当とキャピタルゲインとの税率差がなくなったことでストラクチャリングのオプションは増えたと言えるだろう。
この2003年のブッシュ減税は10年間で自動的に失効するきまりだったので(2001年の減税分はその後2年間延長されてそれらも2012年までは有効となっていた)そのまま放っておくと2012年にブッシュ現在が失効しそうになっていた。失効してしまうと税率が上がるばかりでなく、配当に対する優遇税制も失われる。15%が急に39.6%に跳ね上がることもあり得た訳だ。その直前には慌てて配当を出す企業が多かったが、結局ギリギリにブッシュ減税の多くは恒久化され、ハイエンダーと呼ばれる高所得者だけに減税効果がなくなる形で決着が付いた。
今回もし本当に法人税率が35%から15%(または20%)、また個人所得税も39.5%から33%に下がる、かつ3.8%のInvestment Taxも廃止されると株式市場、M&Aには追い風だろう。特にクリントンが当選していたら、税率は良くても現状維持、更に最悪なことに長期キャピタルゲインに適格となる保有期間が一年からナンと6年に延長というとんでもないアイディアだっただけに、株式市場やM&Aへの冷却効果は凄まじかっただろう。配当がキャピタルゲイン税率の対象となるための保有期間が60日なのに、売却をキャピタルゲインとするのに6年って言うのは不合理な話しだ。幸いにもこれらの税法は今では実現の可能性がなくなっている。
次回はもう少し、2017年に考えられる税法改正に関して。
このブログ記事の配信元:
コメントを追加