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米国タックス行く年・来る年(5)トランプ政権・下院共和党の税法改正案

Max Hata
前回2回のポスティングでは税法改正とM&Aストラクチャーの関係に触れた。ここらで2017年の税法改正の展望に移ってみたい。とは言え、現時点ではまだ確固たる方向性が決まった訳ではないので、改正の内容を詳細に検討するというよりも大きな方向性を掴んでおけば十分だろう。詳細は2017年の春の展開を見ながら考えていきたい。

ここ8年、掛け声はあったもののオバマ政権下で本気で抜本的な税法改正が行われる気合を感じたことはない。ねじれ現象にあったため、大統領府も議会も最初から試合を捨てていたような気がする。それがトランプ政権の誕生で一気に大型税法改正が現実味を帯びてきていて経済界の期待も大きい。どのような具体的な法律となるにしても、減税、国際課税のテリトリアル化、を通じて米国企業の競争力を高める方向となるだろう。

まず、税法改正のフレームワークだが、現時点で改正の叩き台と考えられているプランは、大別してトランプ次期大統領のものと下院共和党の「Blue Print」と呼ばれるものの二つがある。トランプのものは選挙運動中に発表されていたもので、もう一方の下院のBlue Printは2016年6月に下院議長(House Speaker)のPaul Ryanと下院歳入委員会長のKevin Bradyの両名により公表されてしているものだ。この2つのプラン、同じ共和党案として共通点もあるし、方向的には整合性があるものの、現時点では二つの別のプランであり詳細は異なるという点はよく理解しておいた方がいい。

現時点の最重要アクションプランは、トランプ案および下院Blue Printに基いて自社のタックスポジションがどのようになるかの早急なモデリングだろう。特に後述の「国境税調整」とテリトリアル課税に移行する経過措置としての米国外の子会社(CFC)に眠る埋蔵金の一括課税、の影響を把握しておくことは今後の企業戦略の立案にも大きな影響があるはずだ。日本企業的には、米国企業を買収して付いてきたケース以外では、米国の下にCFCを多く抱えているケースは少ないと思われるので、前者のインパクトの検討が重要なように思われる。また税率が下がることは間違いないので2016年3月期には損金は前倒し、益金は繰り延べ、という当然の戦略が必要となる。

両案を具体的に見ていきたいけど、まず法人税率はトランプ案は15%、下院Blue Printは20%だ。どちらにしても現行の35%と比べるとかなり低い。15%と言えばタックスヘイブンの域だ。両案ともにAMTは廃止だ。思い切りがいい。日本も一気に15%とかできれば凄いのにね、って思うけど、実は米国の税収に占める法人税の割合は僅か10%程度と余り大きくない。これは多くの国内事業がパススルーの形態を取っているからだ。

一方で個人所得税は税収の50%弱を占めるし、かつパススルー事業体の課税は最終的には個人に配賦されているケースが多い。なので最終的には個人所得税率が気になるところだ。こちらは両案ともに12%、25%、33%の3つの税率区分となり、現行の39.6%からやはり減税となる。上述のパススルーから配賦されてくる所得に対してはトランプ案ではパススルーに留保したら(すなわち分配がなければ)15%、下院Blue Printでは分配の有無にかかわらず25%となる。前回、前々回に触れた通り、キャピタルゲインに対する税率はM&Aのストラクチャリングに大きな影響を持つが、トランプ案は現状維持、ただし実質増税だったNet Investment Income Taxの3.8%は撤廃となる。下院Blue Printのキャピタルゲイン課税は面白く、キャピタルゲインは50%非課税とするので半額が課税となり、実質最高税率は16.5%となる。低税率区分に属する納税者にも平準化されて恩典が与えられるのでいい案かもね。個人所得税目的でもAMTは撤廃だ。AMTは面倒なので無くなるとスッキリする。

設備投資減税も凄い。双方共に基本的には支出年度に全額損金算入となる。トランプ案では製造目的に供される資産が対象だが、下院Blue Printでは有形・無形の事象資産全てが対象となる。その代わりネット支払利息の損金算入には制限が加えられ、トランプ案では設備投資の全額損金を選択する場合にはネット支払利息は損金不算入、下院案では常に損金不算入となる。これは投資をレバレッジでファイナンスして、支出を損金算入し、更にファイナンスコストも損金算入するという「ダブルディップ」を禁止するためだ。それにしても大胆。

税率が下がる分、課税ベースは拡大される。両案ともR&Dクレジットのみは聖域的に温存するが、他の様々な特殊恩典(例、製造者控除)は撤廃する。面白いことに下院Blue PrintではLIFOも温存するとしている。LIFOは決算書とのConformity要件があり、IFRSで禁止になったと思うけど、米国ではSECがIFRSを結局認めていないので未だUS GAAPの世界のままだ。

海外子会社に対する国際課税に関してはトランプ案は改正後は分配の有無にかかわらず一律10%課税、移行時の経過措置として現時点の留保金に一括10%課税と言われているが、選挙運動中の案で現時点でもこの案のままかどうかは若干不透明な部分がある。下院Blue Printは100%の完全テリトリアル課税に移行するとし、移行時の経過措置として現時点の留保金を現金で持っているケースには一括8.75%、他の資産で持っているケースでは一括3.5%課税としている。下院Blue Print下では以前のキャンプ案同様8年間の分割払いが可能となる。

下院Blue Printで最も物議をかもしているのは「Border Adjustable Tax(国境税調整)」というものだろう。ここからは次回。
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