メインコンテンツに移動

トランプ大統領税法改正プラン

Max Hata
前回のポスティングでは新政権誕生から4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表までの経緯が「Hot n Cold」そのものだった点を簡単におさらいした。

4月26日のプレスカンファレンスは、発表するすると言って全然出てこなかった大統領側の税法改正に対する指針がようやく満を持して登場するはずだっただけに注目度はかなり高かった。そんな期待が高まる中、東海岸Day-Light Saving時間午後1時38分、会見はほぼ時間通りに始まった。

「「遺跡保存法(Antiquities Act)」の話しにこんなに沢山のプレスが集まるなんてチョッと意外ですね・・」というホワイトハウス報道官Spicerのジョークの後、「今日はもちろん、雇用を創出する法人そしてミドルクラスの双方に税負担の軽減を実現するため大統領の努力の結晶であるプランを披露するための会見に他なりません」という感じで本題に入った。最初の遺跡保存法のところのジョークは面白かったけど(特にSpicerが言うと)個人的にその心は完全には分からなかった。遺跡保存法という単なる地味なイメージの法律を持ち出して沢山の人が集まっている状況を冗談にしただけなのか、税法を遺跡保存法と同じほど古くて固いイメージで表現しようとしたのか・・。つまり現状の税法は今では過去の遺物、すなわちAntiquitiesというところまで意図してのジョークだったのか。後者だったら中々鋭い。

そして国家経済会議委員長Cohnがプラン全体の背景および個人所得税を、財務長官Mnuchinがビジネスおよび法人税を説明すると紹介された。会場参加者にはレターサイズ1枚の簡単なサマリーが配布されている。この配布サマリーの内容は後述するが、アウトラインだとしても余りに簡素なものだ。この「極端な簡素さおよび詳細の欠如」が今回の公表の大きな特徴のひとつと言えるだろう。

紹介に応じてCohnが登場するが、さすが6.3フィート(192㎝!)だけあってデカい。ちなみに後ろに仁王立ちしているMnuchinも負けてない。彼も6.1フィート(186㎝)だから2人とも大きい。僕らと同じ普通の身長のSpicer(7.3フィートで173㎝)が子供のように見える。CohnもMnuchinも2人とも著名なバンカーだけど、Cohnは普通にNYCに住んでいる一方で、MnuchinはBel Air(ロサンゼルスのUCLAの裏の高級住宅地)が主たる居住地だそうだ。もちろんNYCのMidtown辺りにペントハウスの一つ位は軽く持ってるんだろうけど。

そしてCohnは「今日は歴史に残るエキサイティングな一日で、この日が来るのを長い間心待ちにしていました」と始めた。生き馬の目を抜く米国投資銀行で幹部に上り詰め、時に怖かったと評されるイメージとは異なり、国民のための公僕っぽい雰囲気すら漂わせる語り口だ。2月前半から長い間発表を待っていたので、この日を心待ちにしていた点は確かに誰にも異論はないだろう。共和党主導の議会と共に「一世代に一度あるかないか」の画期的な税法改正を実行するチャンスとのこと。チャンスがあったのにオバマケアを廃案にできなかったのはどう説明するのか分からないけど、税法改正は米国民にとって喜ばしい話しなので民主党も一緒に賛成してくれることを願っているという。極左派の影響でトランプとか共和党の法案には内容にかかわらず大反対せざるを得ない民主党を口説くのは至難の業だろう。というかそんなことはCohnも百も承知なので、なんでも反対の野党民主党の大人げなさをハイライトするために敢えて言及しているように思えた。

Cohnは今回の税法改正プランの目的を「雇用創出」「経済成長」「低中所得者層の救済」の3つと位置づけている。この3つは会見を通じて何回も協調されるテーマだった。3つとも全て素晴らしいテーマだと思うけど、 特に小中小企業主、ミドルクラスを救うというミッションは会見中しつこく繰り返された。共和党案が富裕層向けという攻撃をかわすために乱発されている観はあるけど、富裕層が一番多額の税金を支払っているケースが多いのだからドルベースでは富裕層の減税が大きくなるのは当然なはず。ここ8年でトップマージンレートの上昇はオバマケアタックスを加味すると8~9%だから、その際にどれだけの追加負担を強いたかを理解せずに、減税の時だけ富裕層に手厚いと言って攻撃するのは筋違いな感じ。でもそのような攻撃は必ずあるので、そのための伏線として何回もミドルクラスに言及があった。

で、Cohn曰く前日の夜まで下院、上院とすり合わせをし、素晴らしいリーダー間で「Principle(原理原則?)」に合意することができているそうだ。会見を通じてこの「Principle」とか更に「Core principle」という用語が多用された。つまり原理原則は発表できるが、裏を返せば詳細は何も決まっていないということだろう。下院と上院とも要は原理原則は合意しているが、詳細、例えばBorder Adjustmentをどうするか、とか肝心の具体案はまだ合意を見ていないということのようだ。それを裏付けるように、これから数週間「Closeに下院、上院と議論を重ねて行く」とのこと。なんだ未だ重ねてなかったんだ・・という気がしないでもないけど、まあ「Never too late」かな。でも本当のところはCloseに議論を重ねたけど合意に達していないという方が正確な気がする。

また税法が複雑過ぎて誰も自分の申告書すら自分で用意できない状況に国民は不満をもっており、制度簡素化により簡単に自分で申告書が作成できるような状況に戻すという目標も明示した。これもその通りで、僕も米国タックスの専門だけど、毎年10月15日(延長するので・・)が近づくと自分の申告書を作成するのがとても難しく苦痛だ。専門でなければとてもできるものではないだろう。

税法改正の必要性をサポートするための歴史の勉強も登場した。1960年前半にケネディー大統領が減税を実施した頃の所得税最高税率は90%で、租税回避紛いの行為が蔓延していた。1980年台にレーガン大統領が所得税最高税率を28%にまで下げたが、その後また39.5%に戻ってしまい相変わらず節税対策に多くの時間が費やされている。法人税は1988年の34%から大きく変わっていないが、その間に世界の他国は大きく法人税率を下げ、テリトリアル課税(外国子会社からの配当非課税制度)に移管したにもかかわらず、米国のみ1988年の状態で2017年を迎えているという遅れぶりを指摘している。要は概して思い切った税法改正の気が熟しているということだ。

このようなフレームワークの中で、次にCohnは個人所得税の減税プランの解説に入る。ここからは次回。
このブログ記事の配信元:

コメントを追加

認証
半角の数字で画像に表示された番号を入力してください。