前回のポスティングでは4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表のうち、国家経済会議委員長Cohnが個人所得税減税プランを説明し終わり、トランプ大統領(aka Doctor Robert?)がどんな難題でも米国市民のために全力投球して乗り切ってくれると発表を締めくくった部分まで触れた。そして早くも会見終盤となるビジネスおよび法人税の発表のため財務長官Mnuchinが登場した。
このMnuchinの法人税部分の発表も前半のCohnの所得税に負けず劣らず素早く瞬時に終わってしまう。正味2分程度の発表だっただろうか。で、本来であればここでMnuchinの発表内容をカバーするところなんだけど、その前に昨日急に下院がオバマケア廃案そして代替案のAHCAを通したので、その税法改正との関連に関してチラッと触れておきたい。
ご存知の通り、オバマケア廃案はオバマケア誕生以来の共和党の政策の最重要課題であり、オバマ政権時代ですら何回も廃案の法律が通っている。もちろんそんな法律を通したところでオバマ大統領が自らのSignature法であるオバマケア廃案に署名するはずはなく、ことごとく拒否権を発動されて日の目を見なかったという経緯がある。また最高裁でその合憲性が争われ、5-4で際どく違憲判決を免れている。選挙期間中には1月20日の大統領就任と同時に廃案という勢いで議論されていたものの、その後単なる廃案ではなく、それに代わる共和党として受け入れ可能な法律に置き換えるという方向となり、それが一つの理由で調整が難航していた。一旦何らかの恩典、すなわちEntitlementが付与されるとそれを削るのがどれだけ大変か、ということを物語っている。
保守派でLibetarianに近い議員で構成されるFreedom Caucusと共和党としては中道寄りのTuesday Groupとの調整は困難を極め3月23日には一旦撤廃の投票取りやめに追い込まれている。委員会審議を通った法案の本会議での投票取りやめは異例であり、下院議長Paul Ryanにとっては不名誉な結果となっている。その後、2017年中の下院通過は困難と思われていただけに、あれから一月を要したとは言え、実際に廃案を通したのはかなりの偉業。特にトランプ大統領とPaul Ryan下院議長はかなりホッとしただろう。トランプ大統領府による議員説得は熾烈かつピンポイントだったと報道されている。
国民皆保険が当然の日本から見るとオバマケアの議論はなかなか分かり難いと思うけど、米国という国の成り立ち、Federalism(すなわち州が国家主権)等の理由で米国の建国趣旨に馴染まない点も多い。オバマケアはほぼ憲法違反に近い部分があったり、また歴史に残る増税、歳出増のプランでもありそれらの点でも問題が多い。また個人的な実体験からも従来からの医療保険の保険料が上がったり、免責が増えたり、従来から医療保険に入っている人にとっては被害も大きい。さらに事業主に多くの報告義務を強いたり、ビジネスに対する冷却効果も大きい。
米国では個人の「Free Will」を重んじ、大きな政府は信用できないと考える人も多く、医療保険などは連邦政府が口を出すようなマターではそもそもない、また巨大な連邦政府が効率よく保険制度を管理できる訳がないというタイプの拒絶反応も多い。今回下院を通過した代替案AHCAも方向としては、連邦から州政府、個人に選択権を戻すという立て付けになっている。
オバマケア廃案と代替案のAHCAの主たるフォーカスはもちろん医療保険制度だけど、税効果も結構凄まじい。オバマケアで導入された多くの増税規定の廃案で何と10年間で10兆ドルにおよぶ減税効果があると言うからこれだけでも立派な税法改正だ。逆に言えばオバマケアで10兆ドルの増税がされていたことになる。これは下院歳入委員会のThe Blueprintで提唱されているDBCFTでBorder Adjustmentをフルに導入して得られる税収に匹敵するので、オバマケアがどれだけ凄い法律だったか今更ながらに驚いてしまう。ちなみに0.9%のMedicare Surchargeが2023年まで無くならないのはガッカリだったけど。
前回のポスティングの個人所得税絡みの話しでNet Investment Income Tax(NIIT)と呼ばれるキャピタルゲインタックス3.8%を税法改正の枠で撤廃するとCohnが言っていたが、オバマケア廃案でそれをやってくれれば、税法改正では他の減税に原資を回せることとなる。これが、税法改正の前にまずオバマケア廃案を通したかったひとつの背景だ。10兆ドルの減税を税法改正の枠外で実行できれば税法改正そのものにより弾力的に臨むことが可能となる。
オバマケア廃案のプロセスを通じて、大統領府、共和党議会は、税法改正に対するアプローチを構築する上で多くのことを学んだだろう。学習能力は高いと言える。例えば、いきなり下院が詳細な法案を一方的に提案しても、Freedom CaucusとかTuesday Groupとかの反対に合い立法化が難しいというレッスンから、税法改正案は下院、上院、大統領府間である程度のコンセンサスを得るまでは条文案その他の詳細は一切公表しないと決め込んでいるように見える。そのスタンスが如実に表れているのが4月26日のトランプ大統領税法改正プランの公式発表プレスカンファレンスだ。徹底的に原理原則に議論を集中させ、詳細は一切明かしていない。これをもって意味のない会見とバッサリ切り捨てるメインストリームメディアも多いが、これは強かに学習効果が表れていると考えた方がいい。
また、オバマケア廃案の詳細で強いスタンスを取ったFreedom CaucusとかTuesday Groupは自らの一派の影響力の強さに味を占め、税法改正にも同様の影響力を行使できると期待しているだろう。実際に独自の税法改正案を提唱していくという話しもメディアで報道されている。これらの複数の影響力が複雑に絡み合うと、究極的に税法改正をどこまで歳入歳出ニュートラルにするのかという根本的な方向性等にも大きなインパクトを与え、調整がより困難になるだろう。
AHCAは下院を通過した後、上院での審議に入るが、上院でどれだけ時間を掛けてどのような議論になるのか、またそれで税法改正のタイミングがどう影響を受けるかも興味深い。上院にも、租税条約批准ブロッカーのRandy Paulとか一家言持っていて譲らない先生もおり、下院同様に調整には時間が掛かる可能性もある。
という訳で電光石火のオバマケア廃案下院可決があったので脱線してしまったけど、次回はMnuchin担当のビジネス、法人税減税にかかわるプレスカンファレンスの内容に戻る。
このMnuchinの法人税部分の発表も前半のCohnの所得税に負けず劣らず素早く瞬時に終わってしまう。正味2分程度の発表だっただろうか。で、本来であればここでMnuchinの発表内容をカバーするところなんだけど、その前に昨日急に下院がオバマケア廃案そして代替案のAHCAを通したので、その税法改正との関連に関してチラッと触れておきたい。
ご存知の通り、オバマケア廃案はオバマケア誕生以来の共和党の政策の最重要課題であり、オバマ政権時代ですら何回も廃案の法律が通っている。もちろんそんな法律を通したところでオバマ大統領が自らのSignature法であるオバマケア廃案に署名するはずはなく、ことごとく拒否権を発動されて日の目を見なかったという経緯がある。また最高裁でその合憲性が争われ、5-4で際どく違憲判決を免れている。選挙期間中には1月20日の大統領就任と同時に廃案という勢いで議論されていたものの、その後単なる廃案ではなく、それに代わる共和党として受け入れ可能な法律に置き換えるという方向となり、それが一つの理由で調整が難航していた。一旦何らかの恩典、すなわちEntitlementが付与されるとそれを削るのがどれだけ大変か、ということを物語っている。
保守派でLibetarianに近い議員で構成されるFreedom Caucusと共和党としては中道寄りのTuesday Groupとの調整は困難を極め3月23日には一旦撤廃の投票取りやめに追い込まれている。委員会審議を通った法案の本会議での投票取りやめは異例であり、下院議長Paul Ryanにとっては不名誉な結果となっている。その後、2017年中の下院通過は困難と思われていただけに、あれから一月を要したとは言え、実際に廃案を通したのはかなりの偉業。特にトランプ大統領とPaul Ryan下院議長はかなりホッとしただろう。トランプ大統領府による議員説得は熾烈かつピンポイントだったと報道されている。
国民皆保険が当然の日本から見るとオバマケアの議論はなかなか分かり難いと思うけど、米国という国の成り立ち、Federalism(すなわち州が国家主権)等の理由で米国の建国趣旨に馴染まない点も多い。オバマケアはほぼ憲法違反に近い部分があったり、また歴史に残る増税、歳出増のプランでもありそれらの点でも問題が多い。また個人的な実体験からも従来からの医療保険の保険料が上がったり、免責が増えたり、従来から医療保険に入っている人にとっては被害も大きい。さらに事業主に多くの報告義務を強いたり、ビジネスに対する冷却効果も大きい。
米国では個人の「Free Will」を重んじ、大きな政府は信用できないと考える人も多く、医療保険などは連邦政府が口を出すようなマターではそもそもない、また巨大な連邦政府が効率よく保険制度を管理できる訳がないというタイプの拒絶反応も多い。今回下院を通過した代替案AHCAも方向としては、連邦から州政府、個人に選択権を戻すという立て付けになっている。
オバマケア廃案と代替案のAHCAの主たるフォーカスはもちろん医療保険制度だけど、税効果も結構凄まじい。オバマケアで導入された多くの増税規定の廃案で何と10年間で10兆ドルにおよぶ減税効果があると言うからこれだけでも立派な税法改正だ。逆に言えばオバマケアで10兆ドルの増税がされていたことになる。これは下院歳入委員会のThe Blueprintで提唱されているDBCFTでBorder Adjustmentをフルに導入して得られる税収に匹敵するので、オバマケアがどれだけ凄い法律だったか今更ながらに驚いてしまう。ちなみに0.9%のMedicare Surchargeが2023年まで無くならないのはガッカリだったけど。
前回のポスティングの個人所得税絡みの話しでNet Investment Income Tax(NIIT)と呼ばれるキャピタルゲインタックス3.8%を税法改正の枠で撤廃するとCohnが言っていたが、オバマケア廃案でそれをやってくれれば、税法改正では他の減税に原資を回せることとなる。これが、税法改正の前にまずオバマケア廃案を通したかったひとつの背景だ。10兆ドルの減税を税法改正の枠外で実行できれば税法改正そのものにより弾力的に臨むことが可能となる。
オバマケア廃案のプロセスを通じて、大統領府、共和党議会は、税法改正に対するアプローチを構築する上で多くのことを学んだだろう。学習能力は高いと言える。例えば、いきなり下院が詳細な法案を一方的に提案しても、Freedom CaucusとかTuesday Groupとかの反対に合い立法化が難しいというレッスンから、税法改正案は下院、上院、大統領府間である程度のコンセンサスを得るまでは条文案その他の詳細は一切公表しないと決め込んでいるように見える。そのスタンスが如実に表れているのが4月26日のトランプ大統領税法改正プランの公式発表プレスカンファレンスだ。徹底的に原理原則に議論を集中させ、詳細は一切明かしていない。これをもって意味のない会見とバッサリ切り捨てるメインストリームメディアも多いが、これは強かに学習効果が表れていると考えた方がいい。
また、オバマケア廃案の詳細で強いスタンスを取ったFreedom CaucusとかTuesday Groupは自らの一派の影響力の強さに味を占め、税法改正にも同様の影響力を行使できると期待しているだろう。実際に独自の税法改正案を提唱していくという話しもメディアで報道されている。これらの複数の影響力が複雑に絡み合うと、究極的に税法改正をどこまで歳入歳出ニュートラルにするのかという根本的な方向性等にも大きなインパクトを与え、調整がより困難になるだろう。
AHCAは下院を通過した後、上院での審議に入るが、上院でどれだけ時間を掛けてどのような議論になるのか、またそれで税法改正のタイミングがどう影響を受けるかも興味深い。上院にも、租税条約批准ブロッカーのRandy Paulとか一家言持っていて譲らない先生もおり、下院同様に調整には時間が掛かる可能性もある。
という訳で電光石火のオバマケア廃案下院可決があったので脱線してしまったけど、次回はMnuchin担当のビジネス、法人税減税にかかわるプレスカンファレンスの内容に戻る。
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