米国タックスにかかわっている身としては結構歴史的なイベントだった税法改革の法文原案公開から一夜が明けた。興奮冷めて(大げさ?)改めて法文を読み見直してみると法人税率以外は減税とか簡素化というイメージから遠くかけ離れている現実に目覚めて愕然。いろんな控除がなくなって自分の税金に至ってはナンと増税という結果となりそうだし、訳の分からない国境調整みたいなペナルティー課税が盛り込まれていたり。Unified Frameworkに基づく想定を大きく上回るものとなっている。税法を簡素化するとかなんとか言ってたけど結局429ページにおよぶ改正案は複雑極まりない。しかもSubpart Fとかそのまま手つかずだし。唯一Subpart Fで廃案とされているのが「foreign base company oil related income」というのも歳入委員会の長であるKevin Bradyのお膝元がHoustonだったりするのでなんか怪しい。
まあ未だ法律になったわけではないし、今日から歳入委員会のマークアップで、来週には上院が別の案を出してくることになっているので現段階でああだこうだと考えても仕方ないかもしれないけど、この税法は結構厳しい。
下院共和党の議員たちからは取りあえず思った程の反対意見は出てないようだけど、NY州とか比較的高額の州税控除を取っている納税者が多い州の議員は早速不満を表明している。多くの地元有権者が結局増税になる可能性が高いからだ。上院議員からも概ね受けは悪くないらしいけど、法人税をあそこまで下げて、しかも10年間の時限措置ではない状態でピッタリ$1.5Tのマイナスになっている辺りはなんか出来過ぎている感じで、財政にもう少し敏感な上院案がどのような形で出てくるか見物だ。下院案の審議過程での火種は州税控除とパススルー25%低減税率の適用範囲の狭さのような気がする。
昨日、法案が出たての段階でNOLは永久繰越が可能で金利は付かないようなことを書いたけど、法文を良く見たら短期AFR+4%で毎年繰越額に増額調整が行われることが分かった。昨日のポスティングも後で訂正しておく。
で、今日は日本企業に関心が高いと思われる多国籍企業に適用される2つの大きな課税措置について。まずは支払利息の更なる制限、で2つ目は国外関連者に対する支払いに対する20%(法人税最高税率)のペナルティー課税だ。特に後者はUnified Frameworkで「Level Playing Field」とか言ってた概念を具体化したものだけど、かなり強力。みんなが恐れてた国境調整にも通じるものがある。
支払利息に関しては昨日触れたとおり、まず、小規模事業主を除きEBITDAの30%を超えるネット支払利息は損金不算入となる。これは既存のSection 163(j)、アーニングス・ストリッピング規定の算定に似ているけど、貸し手が誰でも関係ない。ちなみに今回導入される新しい規則が新Section 163(j)になることからアーニングス・ストリッピング規定はこれをもって撤廃となる。30年近く付き合ってきた規定なのでこんな形で幕切れとなるとチョッとさみしい(?)。財務省規則も草案のまま結局最終化されることもなかったね。もっと厳しい規定が入るので特にめでたいことではないけど。この新Section 163(j)はパートナーシップにも事業主体レベルで適用があるとされ、パートナーシップレベルそのもので制限額を算定するようだ。すなわちK-1でパートナーに課税所得がパススルーされる段階では既に制限が計算された後ということのようでAggregateアプローチではなく完全なEntityアプローチを採択している。なお、不動産業と公共ユーティリティー業はこの制限から免除されている。
この新制限に抵触する支払利息は5年間の繰越が認められる。面白いのはこの繰越は組織再編や適格清算で他の法人に移管が認められるタイプの属性の一部を構成すると規定されている。また3年以内に50%超の持分変動がある場合に、変動後のNOL使用額に制限が加えられるSection 382という規定があるが、新制限で繰り延べられている未使用支払利息はNOL同様にSection 382の制限が課せられる。ここは以前のアーニングス・ストリッピング規定のSection 163(j)には規定されていなかった点で、恐々と買収前の未使用利息を買収後にグループ算定で大きくなった制限枠を基に使用したりしたこともあったけど、そんなことができなくなるように良く考えて規定されている。でも逆に言えば、今まではやっぱりSection 382に抵触せずに使えたということなんだろうか。
で、本題の多国籍企業に適用される支払利息の更なる制限だけど、こちらはどちらかと言うと全世界平均負債に基づくようなアプローチで何となくBEPSのAction 4っぽい。ここで言う「多国籍企業」とは、税法上はInternational Financial Reporting Group (「IFRG」)と言われ、会計原則のIFRSと間違えそうだけど、基本的に一社でも米国と米国外にグループ法人があればIFRGなので、日本企業で米国で活動しているケースは全て対象だ。さらに外国法人でも支店形態で(正確にはECIがあるケース)米国で事業を行っている法人が一社でもあればそのグループもIFRGとなる。ただし全世界グループ売上が3年平均で$100Mを超えない納税者は適用免除がある。
で、全世界平均の計算の仕方だけど、法文のように文書だけだと結構ややこしいので数字を使って追って行く。まず、全世界グループの会計上というか連結財務諸表上のネット支払利息を同じく会計上のEBITDAレシオで米国法人に配賦する。例えば全世界EBITDAが1,000で、同じく全世界会計ベースのネット支払利息が150だとする。米国のEBITDAを200とすると、全世界と米国のEBITDAレシオとなる20%で150というネット支払利息を米国に配賦する。この結果出てくる30がIFRGのネット利息の米国配賦額(「Allocable Share」)となる。 この30と米国の会計上のネット支払利息,例えばこれを50とすると、を比較したレシオとなる60%が損金算入限度%(「Allowable%」)となる。もちろんAllowable%は100%は超えてはいけない。
で、ここで初めて税務上の金額が出てくるけど、税務上制限前の段階で損金算入できる金額に110%掛けて、さらにAllowable%を掛けてようやく損金算入可能額が算定される。米国では会計と税務で金額が異なることが多いけど、仮に税務上の損金算入可能なネット支払利息が40だとすると、その110%は44で、その60%は26.4なのでこの金額が申告書で引ける金額だ。多分正しいと思うけど、実際に申告書作る時は自分でSection 163(n)を見るようにね。それにしても税法の規定にこれだけ会計の数字が多用されるのは少し違和感があるけど、全世界の数字を米国税法ベースに直すよりはマシかも。
で、2つ目の米国外関連者に行う特定支出に対するペナルティー課税だけど、これは凄い。Excise Taxという位置づけなので「Subchapter E」とか新設したりして気合いが入っている。このペナルティー課税は国境調整を彷彿させるが関連者間取引に限定されている点で性格は異なる。この点は明日にでも。
まあ未だ法律になったわけではないし、今日から歳入委員会のマークアップで、来週には上院が別の案を出してくることになっているので現段階でああだこうだと考えても仕方ないかもしれないけど、この税法は結構厳しい。
下院共和党の議員たちからは取りあえず思った程の反対意見は出てないようだけど、NY州とか比較的高額の州税控除を取っている納税者が多い州の議員は早速不満を表明している。多くの地元有権者が結局増税になる可能性が高いからだ。上院議員からも概ね受けは悪くないらしいけど、法人税をあそこまで下げて、しかも10年間の時限措置ではない状態でピッタリ$1.5Tのマイナスになっている辺りはなんか出来過ぎている感じで、財政にもう少し敏感な上院案がどのような形で出てくるか見物だ。下院案の審議過程での火種は州税控除とパススルー25%低減税率の適用範囲の狭さのような気がする。
昨日、法案が出たての段階でNOLは永久繰越が可能で金利は付かないようなことを書いたけど、法文を良く見たら短期AFR+4%で毎年繰越額に増額調整が行われることが分かった。昨日のポスティングも後で訂正しておく。
で、今日は日本企業に関心が高いと思われる多国籍企業に適用される2つの大きな課税措置について。まずは支払利息の更なる制限、で2つ目は国外関連者に対する支払いに対する20%(法人税最高税率)のペナルティー課税だ。特に後者はUnified Frameworkで「Level Playing Field」とか言ってた概念を具体化したものだけど、かなり強力。みんなが恐れてた国境調整にも通じるものがある。
支払利息に関しては昨日触れたとおり、まず、小規模事業主を除きEBITDAの30%を超えるネット支払利息は損金不算入となる。これは既存のSection 163(j)、アーニングス・ストリッピング規定の算定に似ているけど、貸し手が誰でも関係ない。ちなみに今回導入される新しい規則が新Section 163(j)になることからアーニングス・ストリッピング規定はこれをもって撤廃となる。30年近く付き合ってきた規定なのでこんな形で幕切れとなるとチョッとさみしい(?)。財務省規則も草案のまま結局最終化されることもなかったね。もっと厳しい規定が入るので特にめでたいことではないけど。この新Section 163(j)はパートナーシップにも事業主体レベルで適用があるとされ、パートナーシップレベルそのもので制限額を算定するようだ。すなわちK-1でパートナーに課税所得がパススルーされる段階では既に制限が計算された後ということのようでAggregateアプローチではなく完全なEntityアプローチを採択している。なお、不動産業と公共ユーティリティー業はこの制限から免除されている。
この新制限に抵触する支払利息は5年間の繰越が認められる。面白いのはこの繰越は組織再編や適格清算で他の法人に移管が認められるタイプの属性の一部を構成すると規定されている。また3年以内に50%超の持分変動がある場合に、変動後のNOL使用額に制限が加えられるSection 382という規定があるが、新制限で繰り延べられている未使用支払利息はNOL同様にSection 382の制限が課せられる。ここは以前のアーニングス・ストリッピング規定のSection 163(j)には規定されていなかった点で、恐々と買収前の未使用利息を買収後にグループ算定で大きくなった制限枠を基に使用したりしたこともあったけど、そんなことができなくなるように良く考えて規定されている。でも逆に言えば、今まではやっぱりSection 382に抵触せずに使えたということなんだろうか。
で、本題の多国籍企業に適用される支払利息の更なる制限だけど、こちらはどちらかと言うと全世界平均負債に基づくようなアプローチで何となくBEPSのAction 4っぽい。ここで言う「多国籍企業」とは、税法上はInternational Financial Reporting Group (「IFRG」)と言われ、会計原則のIFRSと間違えそうだけど、基本的に一社でも米国と米国外にグループ法人があればIFRGなので、日本企業で米国で活動しているケースは全て対象だ。さらに外国法人でも支店形態で(正確にはECIがあるケース)米国で事業を行っている法人が一社でもあればそのグループもIFRGとなる。ただし全世界グループ売上が3年平均で$100Mを超えない納税者は適用免除がある。
で、全世界平均の計算の仕方だけど、法文のように文書だけだと結構ややこしいので数字を使って追って行く。まず、全世界グループの会計上というか連結財務諸表上のネット支払利息を同じく会計上のEBITDAレシオで米国法人に配賦する。例えば全世界EBITDAが1,000で、同じく全世界会計ベースのネット支払利息が150だとする。米国のEBITDAを200とすると、全世界と米国のEBITDAレシオとなる20%で150というネット支払利息を米国に配賦する。この結果出てくる30がIFRGのネット利息の米国配賦額(「Allocable Share」)となる。 この30と米国の会計上のネット支払利息,例えばこれを50とすると、を比較したレシオとなる60%が損金算入限度%(「Allowable%」)となる。もちろんAllowable%は100%は超えてはいけない。
で、ここで初めて税務上の金額が出てくるけど、税務上制限前の段階で損金算入できる金額に110%掛けて、さらにAllowable%を掛けてようやく損金算入可能額が算定される。米国では会計と税務で金額が異なることが多いけど、仮に税務上の損金算入可能なネット支払利息が40だとすると、その110%は44で、その60%は26.4なのでこの金額が申告書で引ける金額だ。多分正しいと思うけど、実際に申告書作る時は自分でSection 163(n)を見るようにね。それにしても税法の規定にこれだけ会計の数字が多用されるのは少し違和感があるけど、全世界の数字を米国税法ベースに直すよりはマシかも。
で、2つ目の米国外関連者に行う特定支出に対するペナルティー課税だけど、これは凄い。Excise Taxという位置づけなので「Subchapter E」とか新設したりして気合いが入っている。このペナルティー課税は国境調整を彷彿させるが関連者間取引に限定されている点で性格は異なる。この点は明日にでも。
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