今日2017年12月15日、予定通り両院協議会は先に各々可決されていた米国税法改革上院案および下院案を両院一致法案としてまとめ、その内容を公表した。説明書500ページで法文と合わせると合計1,000ページの大作だ。毎週寝不足。で、内容的にはここ数日の憶測から大きく乖離はないが、実際に両院一致案として改めて公表されてみるとやはり迫力が違う。この一致案は少なくとも両院の共和党指導部プラス大統領府(ホワイトハウス)は全面的に合意している内容で、最後の最後までの交渉で基本共和党議員のほとんどが賛成票を投じるものと推測されている。来週明けにはいよいよ両院各々の本会議で最終投票となり、再度可決される必要があるが、上院はかなりいい方向に行っているものの最後まで予断を許さない。最後までなかなか見せてくれる。
この土壇場で上院Wild Cardの筆頭だったのはMarco Rubio。子女控除の還付可能額が足りないということで、早々に反対票を投じる姿勢を明確にしていた。実はこれには背景があり、上院案の修正過程でMarco Rubioは法人税を20.94%(結構、細かいよね)に上げて、それを財源として子女控除を拡充するという案を提出したが、大差で却下されている。しかし、その後、他の恩典を認めるために法人税率が21%に忍びあがったのを見て、自分の主張する恩典には耳を傾けなかったくせに、と意固地になってしまったというものだ。う~ん、もちろん子女控除還付を数百ドル上乗せするっていうのも立派な主張だとは思うけど、上院案では相当ここに力を入れて既に$2,000の税額控除かつ物価スライド調整まで規定してくれていることを考えると、これが理由で31年振りの税法改革がお流れというのはチョッと不均衡な気がしないでもない。って誰もが感じるだろうから、そこでMarco Rubioおよびその仲間のMike Leeの意見も最後の最後で取り入れて、Child Creditの還付可能額を$1,100から改め$1,400まで拡充した。これで上院可決の見込みは大きく上がったと言えるだろう。
2週間前の上院案決議で反対票を投じた唯一の共和党上院議員のBob Corkerは引き続き財政赤字面での懸念からなかなか賛成と言わずに法文原案を見てから決めたいとしていたが、金曜日の夕方になって満を持した感じで賛成票を投じると宣言した。Corkerは財政赤字が米国の将来に与える影響と経済成長に不可欠と言える米国税法改革を可決させる必要性、のバランスを考えて自分が決定投票件を握っているつもりで臨むと心の内を明かしていた。でも、この「つもり」の部分だけど、他に2人造反が出ると本当に彼がCasting Voteになるのでシャレになっていない表現だったと言える。で最終的には法案には多くの欠点がある一方、米国ビジネスのグローバル競争力アップのため一世代に一度の改革のチャンスを逃す訳には行かないという結論に至ったと決定の経緯を話している。なるほど。上院案の投票時には自分だけが反対、すなわち法案自体は可決されるのを見込んで敢えて反対の意思表示をしていたとも考えられる。ポリティクスは奥深い。
ちなみにCasting Voteと言えば、50・50のタイになった際に決定投票を行うのは副大統領のペンスだけど、ナンと彼は来週のイスラエル訪問を延期して決定投票が必要な局面に備えてDCでスタンバイするそうだ。表向きには「時代が動く歴史的瞬間」をDCで自身の目で見届ける、というようなことらしいけど実はCasting Vote緊急発進のためのスタンバイ目的である点は見え見え。緊迫~。
後はSusan Collins。不動産税の控除が上院案でも認められて今ではすっかりご機嫌かと思いきや、以前から燻っているオバマケアの部分的廃案とも言える、個人に医療保険加入を強制する部分の撤回に未だに難色を示しているようだ。上院多数党院内総務のMitch McConnellとの間で強制を撤回した後の保険料安定のための法案を別途通すという密約(と言ってもみんな知っているので約束だね)をしているということだけど、この手の法案には下院が難色を示す可能性が大で、その辺りのもやもやが残っているんだろう。ただし、冷徹に考えると上院共和党は2票までは票を失っても法案を可決できるのでBob Corkerが「Say Yes」となった段階でSusan Collinsのレバレッジは相当低下したと言わざるを得ない。
パススルー課税の一層の恩典強化を求めていたRon Johnsonだが、パススルー事業所得の23%を非課税とするという案が両院すり合わせ段階で20%に減額されたものの、個人所得税の最高税率区分が37%に落とされた点を評価して賛成に回っているとされる。
賛成、反対の議論とは別だけど、John McCainとThad Cochranの上院議員2名は体調不良で今週は入院中だった。来週の投票に参加できるのかどうか定かではないが、このために本来は上院を通してから下院と言う順序を逆にするかもしれないと言う。さらにそうすれば、上院がいろいろと議論している間に下院が税法改革を通し、22日時点で政府活動停止を避けるための継続予算決議(Funding Bill)にフォーカスできるというメリットもあるそうだ。
と、まだまだ目が離せない状況ではあるけれど、流れは明らかに週明けの可決に傾いているように見える。 で、肝心の両院一致案の規定内容はと言うと、多く面で上院案を踏襲していると言える。すり合わせ段階で加えられたメジャーな修正は次の通り。
まずは法人税。ここ1~2週間のポスティングで触れてきたように最終的には21%で落ち着いている。税率低減のタイミングだけど、最終的には下院案に準じて2018年からとなる。もし来週トランプ大統領の署名にまで漕ぎつけると12月で終わる四半期内のイベントなので財務諸表の処理が大変そう。 Ron Johnsonが頑張ったパススルー課税に関しては上述の通り、個人オーナーが自営業およびS法人を含むパススルー主体経由で認識する事業所得の20%を非課税とする方向で最終化されている。建築家協会等から「僕たちだって雇用を生み出しているのになぜ・・」と抗議の声があがっていたが引き続き人的役務に基づく事業は対象外とされている。法人のAMTは上院案では存続だったが、以前も触れた通り余りよく考えずに温存された経緯があり、最終的には原案通り法人に関してはAMT撤廃となった。
NOLに関しては上院案に近く、2018年および以降の課税年度に発生するNOL繰越期限は廃止され無期繰越が可能になった一方で繰戻は撤廃。下院案にあった毎年NOLの金額に4~6%の金利を付与してくれるという寛容な策は日の目を見ていない。NOL使用額は繰越年度の課税所得80%を上限とするとしている。上院案では元々2023年および以降の課税年度に80%制限だったが、これがいきなり2018年3月期(暦年べースだとこの規定だけは2017年のNOLから?)または以降に発生するNOLに適用となるようだ。
設備投資減税は基本上院案を踏襲しているが、中古資産でも納税者にとって新規取得であれば認められるという点は下院案を採択している。
日本企業は米国オペレーションに対するDebt Pushdownを徹底していないので、レバレッジのレベルは他の国からのInboundや米国MNCに比べると相対的にかなり低く、その意味では関心レベルが比較的低かったイメージがあるが、ネット支払利息損金算入制限はやはり気になるところだろう。ネット支払利息の損金算入制限は両院一致案となる前は基本的に2つの異なる規定で強化されていたが一つだけになった。生き残ったのはAdjusted Taxable Income(ATI)の30%を超えるネット支払利息の損金不算入というもの。これは既存のSection 163(j)(従来のアーニングス・ストリッピング規定)を撤廃する代わりに支払先がどこでも関係なく適用するという広範なもので「新」Section 163(j)となる。ATIの定義が下院(=EBITDA)と上院(=EBIT)と異なっていた。最終的には2021年まではEBITDA、以降はEBITとなっている。ちなみにここで言うEBITDAとかEBITのEarningsはBookではなく課税所得から計算を始める金額。損金不算入額は永久に繰越可というのも従来のSection 163(j)と同じだが、過去から繰り越されている旧来のSection 163(j)の未使用支払利息の扱いは未だに不明だ。
もう一つ提案されていた支払利息の損金算入を多国籍企業グループ全世界Debt/Equityレシオに基づき損金算入制限しようとする規定は取り下げられている。なかなか面白い。
国際課税に関しては海外子会社(10%以上投資先)からの配当非課税、すなわちテリトリアル課税制度への移行は既定路線だが、ショッカーなのは制度移行時の未配当原資累積額に対する一括課税率。The Blue Printでは8.75%か3.5%だったのが、財源の関係からどんどん上がりナンと今では15.5%(事業資産に再投資されているケースは8%)。ここは簡単に%を変えるだけで相当な歳入にもなるし、共和党にも余りこの%に固執する議員もいないため「Easy」な財源となってしまったのだろう。8年間の分割納付は可能で、部分的に外国税額控除あり、という点は従来通り。
日本では必要以上に恐れられている観のある多国籍企業グループに対する「Base Erosion Minimum Tax」。幸いなことに下院案に盛り込まれていた大胆な20%ペナルティー課税は日の目を見ていない。で、上院案がほぼそのまま採択されている。この上院案、以前のポスティングではBEMTって勝手に略してたけど、この税法を規定する法文タイトル「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」を略して「BEAT」って言うのも最近広く流通している。BEMTって発音し難いけど、BEATだったらゴロがいいからこっちの方が断然勝ちだね。Beatなんて言うとFM Stationみたいで楽しいけど、実は全然楽しくない内容。
このBEAT、簡単に言うと通常の課税所得にBase Erosion Benefitを加算処理して修正課税所得を算定して、それに10%(2026年からは12.5%)を掛けて通常の法人税より高ければ差額をBEATとして納付というもの。最終案では導入年度となる2018年に関してはこれを5%にするという軽減措置が規定されている。で、何がBase Erosion Benefitかと言うとBase Erosion Paymentに基づく損金算入額のこと。Base Erosion Paymentっていうのは米国法人が米国外関連会社にに行う費用項目および資産取得支出。ここで面白いのはInversionしていった法人に対するケースを除き、売上原価は対象外でBase Erosion Paymentに当らないとされている点だ。下院案では金利も免除されていたが、最終BEATでは金利も含まれるようだ。したがって網掛けの対象となるのは金利、、ロイヤリティとかサービス費用とかになる。日本企業の場合、保証料なんかを支払っているケースも多いがそれも対象だ。大概のこの手の規定がそうであるように、30%源泉税対象となる支出は対象外となる。それはそうだよね。源泉税が30%のままと言うことは普通の法人税20%より高い税金を既に支払っているんだから。条約で源泉税が低減されている場合には低減相当分額がBase Erosion Payment扱いとなる。で、ここでいう米国外関連会社は、25%株主、25%株主または該当米国法人の50%超の資本関係にある者、又は米国移転価格税制上関連者と扱われる者とされている。
このBEATだけど、先に触れたSection 163(j)と異なり対象は比較的サイズの大きい多国籍企業グループだ。したがって、BEATの適用はグループ売上$500M以上(50%資本関係グループ総額、ただし外国法人の売上は米国事業関連の部分のみ)およびBase Erosion Paymentが全体の費用の3%以上の法人(REIT・RICは除外)となる。
最後に所得税で特筆すべきは最高税率の37%への低減、住宅ローン金利個別控除を$0.75M新規取得コストまで容認、不動産税、動産税、州・地方所得税、または売上税を$10Kまで個別控除容認、程度だろうか。法人と異なり個人のAMT撤廃はかなわずそのまま存続となった。共和党が党是として拘り続けた遺産税およびGeneration Skipping Transfer Taxの廃案だけど、結局背に腹は代えられないということで非課税枠を増額しながら存続となった。
さあ、これで後はいよいよ来週前半の本会議最終投票。果たしてDCでスタンバっているペンス副大統領は登場のチャンスのないまま「歴史が動く劇的瞬間」を見届けるだけで済むでしょうか?
この土壇場で上院Wild Cardの筆頭だったのはMarco Rubio。子女控除の還付可能額が足りないということで、早々に反対票を投じる姿勢を明確にしていた。実はこれには背景があり、上院案の修正過程でMarco Rubioは法人税を20.94%(結構、細かいよね)に上げて、それを財源として子女控除を拡充するという案を提出したが、大差で却下されている。しかし、その後、他の恩典を認めるために法人税率が21%に忍びあがったのを見て、自分の主張する恩典には耳を傾けなかったくせに、と意固地になってしまったというものだ。う~ん、もちろん子女控除還付を数百ドル上乗せするっていうのも立派な主張だとは思うけど、上院案では相当ここに力を入れて既に$2,000の税額控除かつ物価スライド調整まで規定してくれていることを考えると、これが理由で31年振りの税法改革がお流れというのはチョッと不均衡な気がしないでもない。って誰もが感じるだろうから、そこでMarco Rubioおよびその仲間のMike Leeの意見も最後の最後で取り入れて、Child Creditの還付可能額を$1,100から改め$1,400まで拡充した。これで上院可決の見込みは大きく上がったと言えるだろう。
2週間前の上院案決議で反対票を投じた唯一の共和党上院議員のBob Corkerは引き続き財政赤字面での懸念からなかなか賛成と言わずに法文原案を見てから決めたいとしていたが、金曜日の夕方になって満を持した感じで賛成票を投じると宣言した。Corkerは財政赤字が米国の将来に与える影響と経済成長に不可欠と言える米国税法改革を可決させる必要性、のバランスを考えて自分が決定投票件を握っているつもりで臨むと心の内を明かしていた。でも、この「つもり」の部分だけど、他に2人造反が出ると本当に彼がCasting Voteになるのでシャレになっていない表現だったと言える。で最終的には法案には多くの欠点がある一方、米国ビジネスのグローバル競争力アップのため一世代に一度の改革のチャンスを逃す訳には行かないという結論に至ったと決定の経緯を話している。なるほど。上院案の投票時には自分だけが反対、すなわち法案自体は可決されるのを見込んで敢えて反対の意思表示をしていたとも考えられる。ポリティクスは奥深い。
ちなみにCasting Voteと言えば、50・50のタイになった際に決定投票を行うのは副大統領のペンスだけど、ナンと彼は来週のイスラエル訪問を延期して決定投票が必要な局面に備えてDCでスタンバイするそうだ。表向きには「時代が動く歴史的瞬間」をDCで自身の目で見届ける、というようなことらしいけど実はCasting Vote緊急発進のためのスタンバイ目的である点は見え見え。緊迫~。
後はSusan Collins。不動産税の控除が上院案でも認められて今ではすっかりご機嫌かと思いきや、以前から燻っているオバマケアの部分的廃案とも言える、個人に医療保険加入を強制する部分の撤回に未だに難色を示しているようだ。上院多数党院内総務のMitch McConnellとの間で強制を撤回した後の保険料安定のための法案を別途通すという密約(と言ってもみんな知っているので約束だね)をしているということだけど、この手の法案には下院が難色を示す可能性が大で、その辺りのもやもやが残っているんだろう。ただし、冷徹に考えると上院共和党は2票までは票を失っても法案を可決できるのでBob Corkerが「Say Yes」となった段階でSusan Collinsのレバレッジは相当低下したと言わざるを得ない。
パススルー課税の一層の恩典強化を求めていたRon Johnsonだが、パススルー事業所得の23%を非課税とするという案が両院すり合わせ段階で20%に減額されたものの、個人所得税の最高税率区分が37%に落とされた点を評価して賛成に回っているとされる。
賛成、反対の議論とは別だけど、John McCainとThad Cochranの上院議員2名は体調不良で今週は入院中だった。来週の投票に参加できるのかどうか定かではないが、このために本来は上院を通してから下院と言う順序を逆にするかもしれないと言う。さらにそうすれば、上院がいろいろと議論している間に下院が税法改革を通し、22日時点で政府活動停止を避けるための継続予算決議(Funding Bill)にフォーカスできるというメリットもあるそうだ。
と、まだまだ目が離せない状況ではあるけれど、流れは明らかに週明けの可決に傾いているように見える。 で、肝心の両院一致案の規定内容はと言うと、多く面で上院案を踏襲していると言える。すり合わせ段階で加えられたメジャーな修正は次の通り。
まずは法人税。ここ1~2週間のポスティングで触れてきたように最終的には21%で落ち着いている。税率低減のタイミングだけど、最終的には下院案に準じて2018年からとなる。もし来週トランプ大統領の署名にまで漕ぎつけると12月で終わる四半期内のイベントなので財務諸表の処理が大変そう。 Ron Johnsonが頑張ったパススルー課税に関しては上述の通り、個人オーナーが自営業およびS法人を含むパススルー主体経由で認識する事業所得の20%を非課税とする方向で最終化されている。建築家協会等から「僕たちだって雇用を生み出しているのになぜ・・」と抗議の声があがっていたが引き続き人的役務に基づく事業は対象外とされている。法人のAMTは上院案では存続だったが、以前も触れた通り余りよく考えずに温存された経緯があり、最終的には原案通り法人に関してはAMT撤廃となった。
NOLに関しては上院案に近く、2018年および以降の課税年度に発生するNOL繰越期限は廃止され無期繰越が可能になった一方で繰戻は撤廃。下院案にあった毎年NOLの金額に4~6%の金利を付与してくれるという寛容な策は日の目を見ていない。NOL使用額は繰越年度の課税所得80%を上限とするとしている。上院案では元々2023年および以降の課税年度に80%制限だったが、これがいきなり2018年3月期(暦年べースだとこの規定だけは2017年のNOLから?)または以降に発生するNOLに適用となるようだ。
設備投資減税は基本上院案を踏襲しているが、中古資産でも納税者にとって新規取得であれば認められるという点は下院案を採択している。
日本企業は米国オペレーションに対するDebt Pushdownを徹底していないので、レバレッジのレベルは他の国からのInboundや米国MNCに比べると相対的にかなり低く、その意味では関心レベルが比較的低かったイメージがあるが、ネット支払利息損金算入制限はやはり気になるところだろう。ネット支払利息の損金算入制限は両院一致案となる前は基本的に2つの異なる規定で強化されていたが一つだけになった。生き残ったのはAdjusted Taxable Income(ATI)の30%を超えるネット支払利息の損金不算入というもの。これは既存のSection 163(j)(従来のアーニングス・ストリッピング規定)を撤廃する代わりに支払先がどこでも関係なく適用するという広範なもので「新」Section 163(j)となる。ATIの定義が下院(=EBITDA)と上院(=EBIT)と異なっていた。最終的には2021年まではEBITDA、以降はEBITとなっている。ちなみにここで言うEBITDAとかEBITのEarningsはBookではなく課税所得から計算を始める金額。損金不算入額は永久に繰越可というのも従来のSection 163(j)と同じだが、過去から繰り越されている旧来のSection 163(j)の未使用支払利息の扱いは未だに不明だ。
もう一つ提案されていた支払利息の損金算入を多国籍企業グループ全世界Debt/Equityレシオに基づき損金算入制限しようとする規定は取り下げられている。なかなか面白い。
国際課税に関しては海外子会社(10%以上投資先)からの配当非課税、すなわちテリトリアル課税制度への移行は既定路線だが、ショッカーなのは制度移行時の未配当原資累積額に対する一括課税率。The Blue Printでは8.75%か3.5%だったのが、財源の関係からどんどん上がりナンと今では15.5%(事業資産に再投資されているケースは8%)。ここは簡単に%を変えるだけで相当な歳入にもなるし、共和党にも余りこの%に固執する議員もいないため「Easy」な財源となってしまったのだろう。8年間の分割納付は可能で、部分的に外国税額控除あり、という点は従来通り。
日本では必要以上に恐れられている観のある多国籍企業グループに対する「Base Erosion Minimum Tax」。幸いなことに下院案に盛り込まれていた大胆な20%ペナルティー課税は日の目を見ていない。で、上院案がほぼそのまま採択されている。この上院案、以前のポスティングではBEMTって勝手に略してたけど、この税法を規定する法文タイトル「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」を略して「BEAT」って言うのも最近広く流通している。BEMTって発音し難いけど、BEATだったらゴロがいいからこっちの方が断然勝ちだね。Beatなんて言うとFM Stationみたいで楽しいけど、実は全然楽しくない内容。
このBEAT、簡単に言うと通常の課税所得にBase Erosion Benefitを加算処理して修正課税所得を算定して、それに10%(2026年からは12.5%)を掛けて通常の法人税より高ければ差額をBEATとして納付というもの。最終案では導入年度となる2018年に関してはこれを5%にするという軽減措置が規定されている。で、何がBase Erosion Benefitかと言うとBase Erosion Paymentに基づく損金算入額のこと。Base Erosion Paymentっていうのは米国法人が米国外関連会社にに行う費用項目および資産取得支出。ここで面白いのはInversionしていった法人に対するケースを除き、売上原価は対象外でBase Erosion Paymentに当らないとされている点だ。下院案では金利も免除されていたが、最終BEATでは金利も含まれるようだ。したがって網掛けの対象となるのは金利、、ロイヤリティとかサービス費用とかになる。日本企業の場合、保証料なんかを支払っているケースも多いがそれも対象だ。大概のこの手の規定がそうであるように、30%源泉税対象となる支出は対象外となる。それはそうだよね。源泉税が30%のままと言うことは普通の法人税20%より高い税金を既に支払っているんだから。条約で源泉税が低減されている場合には低減相当分額がBase Erosion Payment扱いとなる。で、ここでいう米国外関連会社は、25%株主、25%株主または該当米国法人の50%超の資本関係にある者、又は米国移転価格税制上関連者と扱われる者とされている。
このBEATだけど、先に触れたSection 163(j)と異なり対象は比較的サイズの大きい多国籍企業グループだ。したがって、BEATの適用はグループ売上$500M以上(50%資本関係グループ総額、ただし外国法人の売上は米国事業関連の部分のみ)およびBase Erosion Paymentが全体の費用の3%以上の法人(REIT・RICは除外)となる。
最後に所得税で特筆すべきは最高税率の37%への低減、住宅ローン金利個別控除を$0.75M新規取得コストまで容認、不動産税、動産税、州・地方所得税、または売上税を$10Kまで個別控除容認、程度だろうか。法人と異なり個人のAMT撤廃はかなわずそのまま存続となった。共和党が党是として拘り続けた遺産税およびGeneration Skipping Transfer Taxの廃案だけど、結局背に腹は代えられないということで非課税枠を増額しながら存続となった。
さあ、これで後はいよいよ来週前半の本会議最終投票。果たしてDCでスタンバっているペンス副大統領は登場のチャンスのないまま「歴史が動く劇的瞬間」を見届けるだけで済むでしょうか?
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