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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(1) – BEAT(8)

Max Hata
前回はBase Erosion%の算定時に50%超の資本関係にあるControlled Group内の法人の数字は合算する点について触れた。もちろんだけど、前回も最後に触れた通り、合算対象となる法人はControlled Group内の全世界法人とは言え、%を計算する際に実際に取り込む数字はあくまでも米国でネット申告課税の対象となる法人が米国の申告書で計上している費用に限定される。具体的には、米国法人は全世界課税なので、当然、申告書上の全ての金額が入ってくる。外国法人に関してはECIで支店のような申告をしていれば、そこで計上されているDeductionのみを加味することになる。$500Mの売上基準に関しては、厳密に法文解釈すると、条約のPE条項で課税が免除されていても内国法で本来ECIであれば、そこの売上は加味しないといけないとしか読めない。一方、Base Erosion%算定のケースではIRCのChapter 1で控除される費用が対象となっていることから、Section 894はChapter 1の一部であることを考えると、PE条項で課税免除されている外国法人の数字は、例え内国法でECIでも、入れなくてもいいように個人的には考えている。

売上$500M以上という要件と共に、このBase Erosion%が3%以上となると修正課税所得とかBEAT計算が求められる。もちろんその先、実際にBEATミニマム税を支払うことになるかどうかは個々の納税者が置かれている事実関係次第なので何とも言えない。

BEAT適用判断と並び、Base Erosion%にはもう一つの用途がある。BEAT目的で修正課税所得を算定する際にNOLのいくらを加算調整するかという計算目的だ。この部分は法文を読んでも不可解というか、良く分からないのでチョッと詳しく触れてみたい。

以前にも触れた通り、BEATミニマム税は通常の法人税よりも、BEAT目的で再計算する修正課税所得に適用%(2018年は5%、その後10%、2026年から12.5%、ただし銀行は常にプラス1%)を掛けた金額が大きい場合に発生する。なんで、修正課税所得がいくらになるかが最終的にBEATミニマム税が出るかどうかのカギとなる。

こんなに重要な金額だからさぞかし詳細に規定されてるんだろうな、って思うかもしれないけど、それが意外にシンプル。日本語にするのは語弊が生じる可能性大で気乗りしないけど敢えて訳してみると、「修正課税所得」は「米国税法に基づいて算定される該当課税年度の課税所得だが、次の項目は除外して算定すること」となる。で、除外対象は僅か2つ。

ひとつめは「Base Erosion Benefit」。それはもちろんそうだよね。Base Erosion Benefitの恩典に網を掛けるためのBEATだから。で、何回も既にふれている通り、Base Erosion BenefitはBase Erosion Paymentのうち該当課税年度に申告書上、損金算入(Deduction)されている金額となる。言い換えると、損金算入されている費用のうち外国関連者への支払いに基づくものだ。除外して計算するということは、通常の法人税算定で損金算入しているものを加算調整すると考えると分かり易い。

で、もうひとつ除外対象となる金額が「該当課税年度にSection 172でAllowされるNOLのBase Erosion%」となる。ここは余りにサラッと書いてあるので一読しただけでは余り問題意識が生まれないし概念的には容易に理解できる。過年度からNOLがあり、通常の法人税計算でNOLを使っている場合には、NOLの中にも外国関連者に支払って生まれた費用が含まれている可能性があり、その部分は該当課税年度のBase Erosion Benefitを加算するのと同様に加算しなさいというものだ。

でも、ここでは大きな謎が二つある。まず、法文からは絶対に分からないのは、いつのBase Erosion%を適用するのかという点。これは単純な話、法律に触れられていないので不明という問題。最初読んだ時の印象では、NOLが発生した課税年度のBase Erosion%に違いないのではないかと思っていた。例えば、2018年にNOLが発生し、その年に損金算入した費用のうち、5%相当がBase Erosion%だとすると、それを2020年に使用したとして、NOLのうち5%は「悪い」金額なので95%しか使えないというのは合理的だ。もし使用年度のBase Erosion%を使わされると、NOLを構成する金額とは何の関係もない数字に基づいて算定されたBase Erosion%を使うことになるからだ。例えば2020年のBase Erosion%が50%だったとすると、NOLの中には5%しかBase Erosion Benefitが含まれていないと考えられるにもかかわらず、たまたま使用年度の%が高いという理由で使用するNOLの50%を加算しないといけなくなる。ただ、法律は一定のポリシーを実行に移す際にある程度の概算措置を規定することは良くあり、複数年度のNOLを使用する年度にいちいち過去の個々の年度のBase Erosion%を使って加算額を算定するのか、と言われると確かにチョッと面倒っぽい。となると経済的に合理的でないにしても実務的に使用年度のBase Erosion%と判断されてもおかしくない。ここは法文から分からないので財務省規則でも規定できるはず。

毎年Base Erosion%がある程度一定だったら問題ないじゃん、って思うかもしれないけど、2017年以前はBEATという法律自体存在しなかった訳だから、発生年度ベースで決めていいんだったら当面使用するNOLにBase Erosion%はないはず。ということはNOL部分に加算は必要ないってことになる。一方、もし使用年度のBase Erosion%となると、NOLを生み出した年度にはBEATという概念すら存在しなかったのに使用年度の%に基づいた加算処理をしなくれはいけなくなってしまう。これは結構大きな差となり得る。

次に潜在的にもっとヤバいのが「Section 172でAllowされるNOL」をどのように解釈するかっていう点、そんなのSection 172に書いてあるんちゃうの?って関西の人なら言うかもしれないけど(エセ関西弁だったらゴメン)、ここは奥深い。Section 172というのは通常の課税所得計算時にNOLを控除として認めますっていう条文。今回の税制改正で80%制限が加筆される前の法文の方が趣旨的に分かり易いけど、その課税年度に繰り越されてくる、または繰り戻されてくるNOLを控除として使ってよろしい、と規定してる条文だ。もちろん本当はもっといろいろ書いてあるけど趣旨的にはそんな感じと考えて欲しい。つまりSection 172の世界のみで言えば、過去からのNOLは全額控除していいですよってことになる。課税所得はマイナスということはないので、例えばある課税年度単年に100の課税所得があり、過年度からのNOL(80%制限には抵触しない前提)が1,000あったとすると、その年度に発生したいろいろな費用を引いて残っている100の所得に、Section 172で控除が認められる1,000のNOLを差し引いて課税所得はゼロとなり、900のNOLが将来の課税年度に繰り越される。う~ん、ここまでは小学2年生くらいの単純さ。

では、BEAT目的の修正課税所得を算定する際には、ここをどのように考えるべきなんだろうか。Section 172で「Allow」されるNOLを使えるっていう風に単純に法文を解釈するなら、上の例でいくと1,000のNOLを出発点としてBase Erosion%を掛けた金額だけを差し引いて、残りは課税所得(こちらも当年度のBase Erosion Benefitを加算したもの)に充当することができそうに見える。だけど、この「Allow」っていう部分を「当該課税年度にAllowされている」っていうように課税年度を修飾していると考えると、既に当年度で使うことができた100のNOLのみを使って修正課税所得を算定しないといけないこととなる。

法文解釈としてはどちらでもあり得るとは思うけど、読めば読む程この「Allow」が「Allowable」でないことから、当年度の金額に限定される解釈が正しいように思えてきた今日この頃、と言っても1月からそう思ってきたんだけど。更に法文パッケージと同時に公表されている両院協議委員会の説明文書では法文より踏み込んだ表現でご丁寧に「any allowable NOL deduction allowed under section 172」と記載されている。この文書が法文だったらほぼ明確にNOLは通常課税年度に使われている金額に限定されるだろう。Section 172でAllowableな金額(=NOL全額)のうち、当年度に使われている(Allowed)金額と読むしか、この二つの単語が一つの文に挿入されている理由は説明できない。とは言え、説明文書は法文ではない。法文にこの表現がそのまま使われていないのをどう考えるべきか。最後に気が変わったと解釈するべきか、それても説明文書が立法府の意図であると解釈するべきか。

法文解釈なので合理的に解釈の余地があるのであれば絶対的にどっちが正しいという世界ではないけど、上述のどちらの年度のBase Erosion%を使用するべきか、という点を完全な50・50とすると、二つ目の不明点は異なるガイダンスが出ない限り現状の法文では70・30または80・20程度で通常の計算で使用された金額のみと解釈するべきと個人的には見ている。

法文解釈から一歩離れて実務的な側面からも、通常の計算に使用した額に限定されるように思う。仮にNOL全額を出発点として使わせてくれるとする。さっきの例で行くと、修正課税所得計算でも1,000使用することになるけど、そこから実際に修正課税所得の算定で使用される金額は100ではなく、100に当年度のBase Erosion Benefitを加算、さらに1,000のNOLに対するBase Erosion%分も調整、と通常目的の使用額と異なる使用額となる。これを別途トラッキングしてBEAT用のNOL繰越表を管理しないと将来BEAT目的で使用できるNOLが訳わからなくなってしまう。AMTの時は別セットでNOL繰越額をAMT用に管理していたので、やろうと思えば不可能ではないけど、BEAT用に別のNOLを管理するような想定はしていないように思え、この点からも通常課税所得算定時のNOLにBase Erosion%を加味して使用するのでは、と考えられる。この考え方だと過去からの繰越NOLがあり、単年ではプラスの課税所得のケースでは、通常の課税所得はゼロとなり、何らかのBase Erosion Benefitが存在すると(もしろん3%未満ならそもそも関係ない)、BEATミニマム税が発生することになるので要注意。

という訳でだんだんBEAT特集も終盤を迎えつつあるけど、後一回くらいでWrap-Upかな。その後もトピックは山のようにあるけど、965、245A、59A、250、どの辺りから手を付けるべきかチョッと考えないとね。

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