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米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(4) – Section 163(j)(1)

Max Hata
大方の予想より数週間遅れて、11月26日に漸く公表されたSection 163(j)の財務省規則案。500ページに上るっていう恐怖の噂があったけど、実際には439ページ。

Section 163(j)の基本的な考え方は比較的単純だ。すなわち、毎課税年度、損金算入が認められる事業目的の支払利息は、修正課税所得(Adjusted Taxable Income 「ATI」)の30%、事業目的の受取利息、そしてフロアファイナンス支払利息、を上限とする、というものだ。

従来、世界最高税率だった2017年以前は、借入は米国で最大限化するというのが、米国MNCのタックスプラニングの定石だったけど、税率の低減、少し前に触れたSection 956の影響で異なるアプローチが可能となったクレジットサポート(詳しくは「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)Section 956温存と財務省規則案(2)」を参照)、そしてこのSection 163(j)の登場で、ファイナンスの在り方も随分と異なってくる。日本企業が想像する以上に、米国MNCに与えるSection 163(j)の影響は大きく、結果として、グローバルファイナンスの在り方を、上述の諸々の新しい環境、更にGILTIを含む他の新規定も複合的に加味して、自社の数字をモデリングして徹底的な定量分析を行っている。

で、冒頭で触れた通り、Section 163(j)の基本的なアプローチは一見実にシンプル。毎課税年度、損金算入が認められる事業目的の支払利息は、ATIの30%、事業目的の受取利息、そしてフロアファイナンス支払利息、を上限とする、というもので、このアプローチ自体、他国のものと比べて特段、有利不利を提供するようなものでない気がする。ATIはザックリとEBITDA(後年はEBIT)に類似するけど、ネット支払利息の損金算入をEBITDAの30%に限定するっていうのは国際的なスタンダードに近い。BEPSは基本全く相手にすることなく、アクションプランに対しても徹底して無視を決め込んでいるに近い米国だけど、Section 163(j)は期せずして(?)アクション4に近い。

では、なぜこの一見、かなりシンプルな条文に439ページに上る規則が必要となるのか?またなぜ439ページ使って規定しても、不明確な部分が残るのか?規則案でも相当なページを割いているパススルー、連結納税グループ、CFCの取り扱い、などが主犯格と言えるけど、今回から数回掛けて、財務省規則案の規定内容を見ながら考えていきたい。

まずは、Section 163(j)の対象となる利息の定義。議会の立法趣旨に基づくと、Section 163(j)は、税法上、利息と取り扱われる金額が対象となるが、これは例えば、OIDとか、税法上利息として取り扱われる金額が含まれることとなる。旧Section 163(j)では、税法上の利息に加えて、利息同様(=Equivalent)の金額、特にSecurity Transfer契約に基づく利息相当額にも適用があるとされていたが、今回のSection 163(j)の立法趣旨にはそのような拡大解釈をする余地はないように見えてて、この部分はプラニングの余地が残るって思われていた。ところが、規則案の蓋を開けてみてビックリ。Section 163(j)で損金算入制限対象となる支払利息は、税法上、利息として取り扱われる費用ばかりでなく、金銭の使用対価として支出される実質的に利息と「同等」の費用を広義に含むとされ、いくつかの例を見ると旧Section 163(j)に勝るとも劣らない広義なものとなっている。これって行政府側の越権行為?

次にSection 163(j)の屋台骨となる制限枠。制限枠は「事業目的受取利息」、「フロアファイナンス利息」そして「ATI」の3つで構成される。Section 163(j)の一つの複雑さは、対象納税者を法人に限定せず、個人事業主等にも拡大している点だ。新旧のSection 163(j)を比較すると、大きな差異がいくつかあるけど、その中の一つがこの対象納税者の範囲拡大。個人の支払う利息は、「事業目的」、「投資目的」、「私用目的」に大別されるけど、Section 163(j)は、このうち事業目的の部分のみに適用がある。複数の活動が混在する場合には、従来、主に投資目的の支払利息がいくらかを決定する目的で「トレーシング規定」という考え方が存在していた。ところが規則案ではトレーシング規定は踏襲せず、どちらかと言うと按分するようなイメージ?ここはもう少し読ませて下さい。事業目的の中で、適用免除事業がある場合には、各事業に供される資産の税務簿価で按分となっているけど、そのルールと混同しないようにしないとね。

法人に関しては、仮に借入の使途目的が事実関係的に投資に当る場合でも、全額、事業目的として取り扱うとしているけど、問題はパートナーシップ。Section 163(j)はパススルーであるパートナーシップに対して、支払利息の損金算入制限計算をパートナーシップレベルで行うよう規定している。一見、「別にそれでいいじゃん」って思うような内容に見えるかもしれないけど、事業主体レベルの課税のないパートナーシップに対して事業主体レベルで制限を加えるなどと言うハイブリッドなアプローチは、パススルー課税と事象主体課税のバランスが崩れ、パンドラの箱を開けてしまったような事態を招く。このパートナーシップの取り扱いはSection 163(j)の中でも最もテクニカルに複雑な部分となる。今回の財務省規則案でも相当なページを割いているけど、まるでパンドラの箱の底にエルピスが残っているかのように、何となくスッキリしない部分が多い。何回も読み直せばシックリ来るのかもね。それにしてもパートナーシップにかかわる規定の複雑さには驚愕。Section 163(j)の話しだけど、Sub K知らないと読んでも全く理解できないだろう。

Section 163(j)に基づく制限対象が「事業目的」の支払利息に限定されることから、制限枠を構成する受取利息もミラーイメージで、事業目的で受け取るものに限定される。上述の通り、法人は全ての活動が事業所得とみなされるので、適用免除事業を除けば単純に全利息をネットすればいい。個人は事業目的の支払利息と受取利息を決定の上、両者を比較するこになる。この点に関して、規則案で興味深かったのは、パートナーシップ側で投資目的と区分される支払利息および受取利息についても、C Corporationに配賦される金額は、原則として事業目的として取り扱う、としている部分。まあ、そうしないと、C Corporation自らでは達成できないことを、パートナーシップを組成して簡単にやれちゃうことになるから、当然、そのような規定が想定はされてた。でも、パートナーシップ側で制限を算定する訳だから、利息のどの部分がどのパートナーに帰属して、しかも各々のパートナーがC Corporationかどうかに基づいて取り扱いがことなるってパートナーシップ側の処理としてはかなり面倒。

次にフロアプランファイナンスに基づく支払利息。これは追加枠と言う形で規定されているけど、このような支払利息があれば、実質、Section 163(j)から免除されると考える方が分かり易い。フロアプランというのは米国小売業、特に自動車ディーラーが店舗に並べておく棚卸資産をファイナンスする方法だけど、Section 163(j)では自動車の販売またはリースに伴い、自動車を担保に受ける融資と規定している。自動車ディーラー業界のロビー活動の賜物だ。ちなみにここで言う自動車には「公道で人や物を運搬する目的で自己推進する車両」に加え、「ボート」および「農耕用作業車」が含まれる。規則案では、ここで言う自動車に、建設機械が含まれるかどうか議論されているけど、立法過程で議会にはそのような意図は見受けられない、として結果として含まれないとしている。建設業界のロビー活動の失敗なんだろうか。

で、一番肝心となる制限枠はATI。ここからは結構DeepかつPurpleなので、次回。

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