今回も昨日最終化された留保所得一括課税の財務省規則の続き。前回は規則案からの変更点のうち、興味深いものに関していくつか触れた。中でも個人的にはCFC株式譲渡時のみなし配当原資の考え方はかなり面白いと感じると同時に、財務省のルール策定時の「アーティスティック」な側面を垣間見たような気がした。最近の財務省規則には、法文を文字通り読んだ解釈から逸脱するような方向性が散見される。昨日触れた米国内パートナーシップ・ブロッカー対抗策やSection 1248に対する規則もその類。法文から逸脱した規則を策定せざるを得ない背景には、既存の法的インフラを使って斬新なクロスボーダー課税を導入してしまったため、細かい部分で既存の法文では手当て仕切れない部分が続出するという必然がある。
従来のCFC課税であるSubpart F所得は常にCFC毎の計算だったし、常にプラスだったし、毎期の各CFCの単年E&Pが上限だったし、CFCで決定されたSubpart F所得に対して米国株主側で更に数字を加工するようなシステムは法的インフラに想定されていない。Subpart F所得があれば、それは必ず米国株主側で合算されて課税所得となり、Anti-Deferralなので基本的にE&PコンセプトだったSubpart F所得は同額がそのままCFC側で課税済所得となり、また同額が米国株主側のCFC株式簿価に上乗せされるという綺麗なEquationの世界を達成していた。この美しいバランスが留保所得一括課税で完全に崩壊され、そこからGILTIに発展・継承されていく。以前に965(留保所得一括課税)はGILTIのプレリュードって書いたことがあるけど、留保所得一括課税が「Transition Tax」と呼ばれる際の「Transition」は、実は過去のCFC毎の制度を一旦精算し、その後はCFCは大連結させて一社扱い(?)という従来では考えられないWhole New Worldに突入する意味でのTransitionだったんだろうか。Transition Taxそのものが既に新コンセプトのCFC合算ベースなのが凄い。余りにDeepでPurpleでHeavyでMetalなので、この点はこれからも毎日良く考えながら過ごして行かないとね。
で、今日のメインテーマは、前回の予告通り「CFC株式税務簿価の調整選択時の金額制限」。これもCFC合算という新しい概念を起因とする歪にかかわる調整規則となる。
米国株主が複数のCFCを保有していて、それらのCFCの中に留保所得がプラスだったりマイナスだったりする法人が混在している場合、留保所得一括課税の算定時に米国株主側でプラスとマイナスを相殺することができる。それはそれで、グッドニュースと言えるんだけど、CFCそのものは当然単体で存在しているものを、その上層、すなわち米国株主側でCFC間の留保所得を相殺しまうと、CFC毎の属性の調整をどうするか、という従来では存在しないタイプの検討が生じる。
複数のCFCが混在し、どのプラスCFCが誰のマイナスをいくら使用して、またマイナス法人は自分のマイナスをいくら他のCFCに使用されたか、をまず特定しないといけない。この特定法は規則案から改訂されることなく、そのままの方法が踏襲されている。この計算に関しては、以前のポスティング「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(4) 留保所得一括課税」を参照して欲しい。で、そのステップが終わったら、今度は各々のCFCの課税済所得と米国株主から見たCFC株式の簿価を決定しなくてはいけない。
留保所得一括課税を規定しているSection 965は、面白いことに、他のCFCのマイナスで相殺されたプラスCFCのプラス留保所得も課税済所得になると規定している。この所得は実際には米国株主側でマイナスで相殺されている訳だから、課税はされていない。にもかかわらず課税済所得となるという特別な位置づけにあり、規則案が出るまでは「Light PTI」とかいろんな名称で本当に課税された課税済所得と区別していた。規則案では本当に課税されている金額を「Section 965(a) PTI」、マイナスで相殺されて課税されていない課税済所得部分を「Section 965(b) PTI」と命名している。Section 965(b)はマイナス留保所得でプラスを減らしてよろしいと規定している部分なので、この表現はとても分かり易く、今では全国的、もしかしたら全世界的に(a)と(b)でPTIを区別できるようになっている。この辺りの議論は以前、留保所得一括課税にかかわる規則案が公表された直後の夏にいろいろ書いているので「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(5) 留保所得一括課税」等を中心に見てみて欲しい。
で、この実際には課税されてないけど課税済所得と位置付けられる、Section 965(b) PTIに対応して各CFCの株式簿価が米国株主側でどのように動くかと言うと、原則、プラスCFCの株式簿価は増額せず、マイナスCFCの株式簿価は減額しない。ということはプラスCFCの留保所得のうち、他のCFCのマイナスで課税済所得になっている金額を米国に分配すると、その分は株式簿価が増えていないので、分配が簿価を超えるとみなし譲渡益が発生する、という意外な結果となる。「Transition Tax」で全ての留保所得は(低税率で)課税済みに生まれ変わったので満を持して資金を米国に還流しよう、とする際に、源泉税と並んで大きな足かせとなり得る。
このような事態を回避するため、相殺金額にかかわるCFC株式調整、すなわちSection 965(b) PTIに関して、プラス側のCFCの簿価を増額し、マイナス側のCFCの簿価を減額する選択を納税者側のオプションで行うことができる、と規則案では規定していた。この選択は一回限り可能だが、検討時にはマイナスCFCの株式簿価を慎重に特定しないと、選択したはいいけど、選択の瞬間にマイナスCFCの株式簿価を割り込んでしまい、いきなり譲渡益認識、というような最悪の事態となり兼ねない。このみなし譲渡益が怖くてなかなか選択に踏み切れない米国株主は多いだろう。
で、当初、この選択は申告書提出時に行わないといけないという規定だったんだけど、CFC株式簿価とか課税済所得という複雑な検討を伴うため、規則案の後に発表されたNoticeで、期限を延長し、最終規則の公刊記載日から90日後にまでに選択すればよいこととなっていた。また、既に2018年10月15日等に提出した申告書で慌てて選択を行ってしまった米国株主は、期間内に選択を取り消すことも認められる。
規則案では、CFC株式簿価調整の選択を行う場合、相殺金額の「全額」に関してプラス側の簿価増額、マイナス側の簿価減額が規定されていた。CFC株式簿価を減額してマイナスとなるとみなし譲渡益となることから、仮にCFC株式の簿価やプラスとマイナスの配賦額を正確に特定することができたとすると、譲渡益が出るような状況にある米国株主は選択は行わないことになるだろう。選択をしない場合、その時点では何も起こらない。でもプラス留保所得を持つCFCから資金を還流しようとすると、今度はこっちの株式簿価が十分になくて資金を持ち返れないという事態が想定される。留保所得一括課税は8年間に亘る分割払いが可能とは言え、納税原資も必要だし、そもそもお金を持っているのはプラスのCFCの可能性が高い訳だから、これではせっかくの留保所得一時課税で課税済みとなった資金を米国に持ち返ることすら憚れるような状態になる。
最終規則ではこのようなジレンマを解消または軽減するため、CFC株式簿価調整の選択をする場合でも、マイナス側のCFC株式簿価に関して譲渡益が出ない範囲でのみ、株式簿価の調整をする選択を新規に規定している。当選択は、マイナスCFCの株式簿価の「範囲のみ」で行うことから「to-the-extent規定」と新しい名称まで付けてくれている。当たり前だけど、マイナス側の簿価減額を限定する場合、プラス側の簿価増額も同額に限定される。
To-the-extent規定の実際の規則の書き方は例によってややこしく、米国株主はまずプラス側のCFC各社の株式簿価増額希望額を指定することができるとし、その条件として、増額の総額(ここで総額と使用されている意味はおそらく複数クラスの株式が存在する場合を想定?)は当プラスCFCの留保所得を相殺したマイナス額を超えてはいけない(これは趣旨的にも規則案の時からその通り)、さらに次は米国株主側の合算ベースで、プラス調整総額がマイナスCFC株式簿価減額の総額を超えてはいけないと規定している。その上で、次にマイナスCFCの規定に移り、マイナスCFCの株式簿価減額の総額(この総額も個々のCFCベースの話し)は、当マイナスCFCの調整前の簿価を超えてはいけないとしている。しかもマイナスCFC側の規則には簿価を超えてはいけないのは「On a day」、多分On any dayと同じ意味?とわざわざ規定されている。
なお、この選択、グループ企業合致要件があり、基本的に50%超の資本関係にある米国株主は選択するかしないか、統一したポジションを取らないといけない。最終規則ではこの点に関して、プラスをマイナスで全く相殺していない米国株主に関しては選択に参加する必要はないとしている。選択に参加してもしなくても、そんな米国株主にとっては何も変わらないけど、たぶん、自分は関係ないから何にもしなくて問題ないじゃん、と思って何もしない場合に他の50%資本関係にあるグループの選択が期せずして無効になっちゃりするリスクを排除してくれているんだろう。
譲渡益を認識しない範囲で簿価調整を認める場合、もしかしたら調整そのものが選択ではなく強制になるのでは、というようなアプローチもあり得たが、最終的には金額調整もOKで、そもそも簿価調整を行うかどうかも引き続き選択制度となっている。これは納税者フレンドリーな改訂だけど、いずれにしても簿価や相殺金額の配賦を正確に特定しなくてはいけないことに変わりはない。しかも最終規則が出てしまったので、選択期限が切られてしまったことになる。選択は一回キリだから慎重に考えないとね。CFCの数にもよるけどこんなの90日で意思決定できるんだろうか。もちろん規則案が出た頃からシミュレーションとか始めてたら問題ないんだけどね。
従来のCFC課税であるSubpart F所得は常にCFC毎の計算だったし、常にプラスだったし、毎期の各CFCの単年E&Pが上限だったし、CFCで決定されたSubpart F所得に対して米国株主側で更に数字を加工するようなシステムは法的インフラに想定されていない。Subpart F所得があれば、それは必ず米国株主側で合算されて課税所得となり、Anti-Deferralなので基本的にE&PコンセプトだったSubpart F所得は同額がそのままCFC側で課税済所得となり、また同額が米国株主側のCFC株式簿価に上乗せされるという綺麗なEquationの世界を達成していた。この美しいバランスが留保所得一括課税で完全に崩壊され、そこからGILTIに発展・継承されていく。以前に965(留保所得一括課税)はGILTIのプレリュードって書いたことがあるけど、留保所得一括課税が「Transition Tax」と呼ばれる際の「Transition」は、実は過去のCFC毎の制度を一旦精算し、その後はCFCは大連結させて一社扱い(?)という従来では考えられないWhole New Worldに突入する意味でのTransitionだったんだろうか。Transition Taxそのものが既に新コンセプトのCFC合算ベースなのが凄い。余りにDeepでPurpleでHeavyでMetalなので、この点はこれからも毎日良く考えながら過ごして行かないとね。
で、今日のメインテーマは、前回の予告通り「CFC株式税務簿価の調整選択時の金額制限」。これもCFC合算という新しい概念を起因とする歪にかかわる調整規則となる。
米国株主が複数のCFCを保有していて、それらのCFCの中に留保所得がプラスだったりマイナスだったりする法人が混在している場合、留保所得一括課税の算定時に米国株主側でプラスとマイナスを相殺することができる。それはそれで、グッドニュースと言えるんだけど、CFCそのものは当然単体で存在しているものを、その上層、すなわち米国株主側でCFC間の留保所得を相殺しまうと、CFC毎の属性の調整をどうするか、という従来では存在しないタイプの検討が生じる。
複数のCFCが混在し、どのプラスCFCが誰のマイナスをいくら使用して、またマイナス法人は自分のマイナスをいくら他のCFCに使用されたか、をまず特定しないといけない。この特定法は規則案から改訂されることなく、そのままの方法が踏襲されている。この計算に関しては、以前のポスティング「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(4) 留保所得一括課税」を参照して欲しい。で、そのステップが終わったら、今度は各々のCFCの課税済所得と米国株主から見たCFC株式の簿価を決定しなくてはいけない。
留保所得一括課税を規定しているSection 965は、面白いことに、他のCFCのマイナスで相殺されたプラスCFCのプラス留保所得も課税済所得になると規定している。この所得は実際には米国株主側でマイナスで相殺されている訳だから、課税はされていない。にもかかわらず課税済所得となるという特別な位置づけにあり、規則案が出るまでは「Light PTI」とかいろんな名称で本当に課税された課税済所得と区別していた。規則案では本当に課税されている金額を「Section 965(a) PTI」、マイナスで相殺されて課税されていない課税済所得部分を「Section 965(b) PTI」と命名している。Section 965(b)はマイナス留保所得でプラスを減らしてよろしいと規定している部分なので、この表現はとても分かり易く、今では全国的、もしかしたら全世界的に(a)と(b)でPTIを区別できるようになっている。この辺りの議論は以前、留保所得一括課税にかかわる規則案が公表された直後の夏にいろいろ書いているので「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(2) – 国際課税(5) 留保所得一括課税」等を中心に見てみて欲しい。
で、この実際には課税されてないけど課税済所得と位置付けられる、Section 965(b) PTIに対応して各CFCの株式簿価が米国株主側でどのように動くかと言うと、原則、プラスCFCの株式簿価は増額せず、マイナスCFCの株式簿価は減額しない。ということはプラスCFCの留保所得のうち、他のCFCのマイナスで課税済所得になっている金額を米国に分配すると、その分は株式簿価が増えていないので、分配が簿価を超えるとみなし譲渡益が発生する、という意外な結果となる。「Transition Tax」で全ての留保所得は(低税率で)課税済みに生まれ変わったので満を持して資金を米国に還流しよう、とする際に、源泉税と並んで大きな足かせとなり得る。
このような事態を回避するため、相殺金額にかかわるCFC株式調整、すなわちSection 965(b) PTIに関して、プラス側のCFCの簿価を増額し、マイナス側のCFCの簿価を減額する選択を納税者側のオプションで行うことができる、と規則案では規定していた。この選択は一回限り可能だが、検討時にはマイナスCFCの株式簿価を慎重に特定しないと、選択したはいいけど、選択の瞬間にマイナスCFCの株式簿価を割り込んでしまい、いきなり譲渡益認識、というような最悪の事態となり兼ねない。このみなし譲渡益が怖くてなかなか選択に踏み切れない米国株主は多いだろう。
で、当初、この選択は申告書提出時に行わないといけないという規定だったんだけど、CFC株式簿価とか課税済所得という複雑な検討を伴うため、規則案の後に発表されたNoticeで、期限を延長し、最終規則の公刊記載日から90日後にまでに選択すればよいこととなっていた。また、既に2018年10月15日等に提出した申告書で慌てて選択を行ってしまった米国株主は、期間内に選択を取り消すことも認められる。
規則案では、CFC株式簿価調整の選択を行う場合、相殺金額の「全額」に関してプラス側の簿価増額、マイナス側の簿価減額が規定されていた。CFC株式簿価を減額してマイナスとなるとみなし譲渡益となることから、仮にCFC株式の簿価やプラスとマイナスの配賦額を正確に特定することができたとすると、譲渡益が出るような状況にある米国株主は選択は行わないことになるだろう。選択をしない場合、その時点では何も起こらない。でもプラス留保所得を持つCFCから資金を還流しようとすると、今度はこっちの株式簿価が十分になくて資金を持ち返れないという事態が想定される。留保所得一括課税は8年間に亘る分割払いが可能とは言え、納税原資も必要だし、そもそもお金を持っているのはプラスのCFCの可能性が高い訳だから、これではせっかくの留保所得一時課税で課税済みとなった資金を米国に持ち返ることすら憚れるような状態になる。
最終規則ではこのようなジレンマを解消または軽減するため、CFC株式簿価調整の選択をする場合でも、マイナス側のCFC株式簿価に関して譲渡益が出ない範囲でのみ、株式簿価の調整をする選択を新規に規定している。当選択は、マイナスCFCの株式簿価の「範囲のみ」で行うことから「to-the-extent規定」と新しい名称まで付けてくれている。当たり前だけど、マイナス側の簿価減額を限定する場合、プラス側の簿価増額も同額に限定される。
To-the-extent規定の実際の規則の書き方は例によってややこしく、米国株主はまずプラス側のCFC各社の株式簿価増額希望額を指定することができるとし、その条件として、増額の総額(ここで総額と使用されている意味はおそらく複数クラスの株式が存在する場合を想定?)は当プラスCFCの留保所得を相殺したマイナス額を超えてはいけない(これは趣旨的にも規則案の時からその通り)、さらに次は米国株主側の合算ベースで、プラス調整総額がマイナスCFC株式簿価減額の総額を超えてはいけないと規定している。その上で、次にマイナスCFCの規定に移り、マイナスCFCの株式簿価減額の総額(この総額も個々のCFCベースの話し)は、当マイナスCFCの調整前の簿価を超えてはいけないとしている。しかもマイナスCFC側の規則には簿価を超えてはいけないのは「On a day」、多分On any dayと同じ意味?とわざわざ規定されている。
なお、この選択、グループ企業合致要件があり、基本的に50%超の資本関係にある米国株主は選択するかしないか、統一したポジションを取らないといけない。最終規則ではこの点に関して、プラスをマイナスで全く相殺していない米国株主に関しては選択に参加する必要はないとしている。選択に参加してもしなくても、そんな米国株主にとっては何も変わらないけど、たぶん、自分は関係ないから何にもしなくて問題ないじゃん、と思って何もしない場合に他の50%資本関係にあるグループの選択が期せずして無効になっちゃりするリスクを排除してくれているんだろう。
譲渡益を認識しない範囲で簿価調整を認める場合、もしかしたら調整そのものが選択ではなく強制になるのでは、というようなアプローチもあり得たが、最終的には金額調整もOKで、そもそも簿価調整を行うかどうかも引き続き選択制度となっている。これは納税者フレンドリーな改訂だけど、いずれにしても簿価や相殺金額の配賦を正確に特定しなくてはいけないことに変わりはない。しかも最終規則が出てしまったので、選択期限が切られてしまったことになる。選択は一回キリだから慎重に考えないとね。CFCの数にもよるけどこんなの90日で意思決定できるんだろうか。もちろん規則案が出た頃からシミュレーションとか始めてたら問題ないんだけどね。
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