前々回とその前のポスティングで、OECDピラー1で提案されているAmount A、B、Cを解析してきたので、これらの所得が何なのかは大体お分かり頂けたでしょうか。
キーポイントをおさらいしておくと、Amount Aというのは多国籍企業「グループ」の連結財務諸表の税引前利益を基にフォーミュラを掛けて算定する所得となることから、従来の国際課税システムのALPと異なり、機能やリスクベースじゃないし、さらにグループベースの会計上の利益のUpper Portionを取り出すのでグループ内のどの主体に属するという紐付きの関係がない金額。さらにALPベースで既にどこかの国、主体で何らかの形で課税所得として認識されている金額。
Amount Bはルーティン販売・マーケッティング活動に対するリターンで、既存のPEやALPに基づく課税。今までのピュアなALPと異なるのは、個々の活動を基に適正なリターンを算定するのではなく、リターン%を世界中で前以て合意してしまうっていう点。係争防止のため簡素化されたALPだ。Amount Cは市場国における販売・マーケティング活動が、ルーティンの域を超える場合に市場国が認識する超過利益。この金額はその性格から、係争の種になることが分かり切っているので、従来の二国間の係争対応策を強化し強制仲裁を条件としたり、Amount Cにかかわる移転価格更正は一定期間内にのみ容認するような方向を模索中。ただし、強制仲裁の採択に関してはインド等、根強い反対国が存在するので今後の係争防止・解決策の行方は不明。
で、最初のポスティングでも強調したけど、Amount A、B、Cって命名してピラー1が議論しているのは「市場国が市場として課税権を持つことになる所得」だけの話。多国籍企業の全ての活動から生じる所得の話しではない。多国籍企業は、市場国が市場として課税権を持つ所得以外にもいろんなタイプの所得を認識する。例えばルーティン製造活動、ルーティン・サービス活動、従来から認識している市場とは関係ない立場で認識している超過利益、とか。これらの所得は今後もALPベースで各主体、各国に配賦される。
で、物理的な存在の有無にかかわらず市場国に課税権を認め、課税権を得た市場国にフォーミュラで機械的に超過利益を分け与える、というピラー1のフォーカスはAmount Aのみをもって実現される。Amount BやCは原則今までのALPのG線上のアリア、じゃなくて延長線上にある同じ考え方。ピラー1のややこしいところは、ALPでないAmount AとALPベースで配賦されるその他の所得を共存させていること。すなわち従来の国際課税システムのALPで既に100%課税所得がどこかの国で認識されている上に、別途Amount Aが算定される点だ。Amount Aは完全に重複する金額なので、そのままにしておく訳にはいかず、誰かにAmount A相当の課税所得を差し出させる、というか献上させないといけなくなる。ここのデザインは最重要かつ不確実性が高い検討となる。
Amount Aの重複解消法としては、従来の国際課税システム的に考えると、ALPで既に課税されることになる主体にFTCを認めるか、またはそれらの主体のALPベースの課税所得の一部を非課税にする方法が考えられる。Amount Aは多ければ100か国以上の市場国に分配されること、またAmount A総額を献上させられる主体、国も多くのケースで複数となること、を考えると、FTCの計算は複雑過ぎるようにみえる。なので、ここでは重複の解消は、ALPベースで既に超過利益を認識している主体(単数または複数)に総額でAmount Aとなる金額を何らかのフォーミュラで「献上」させる方法を想定しておく。その際、忘れてはならないのは、Amount Aは通常の所得と異なり、主体に紐付きでないし、グループ内の特定の取引相手に認識されている所得ではないので、通常の移転価格調整にかかわる対応的調整のようなメカニズムは適用不可能という点だ。
そこで、Amount Aを多国籍企業グループ内のどの主体、すなわち最終的にはどの国、に献上させるのが合理的か、また、多くのケースで複数の主体に献上させることになるだろうけど、その場合、どのように各主体に負担額を配賦するか、っていう検討が重要となる。Amount Aは概念的には超過利益のUpper Portionなので、グループ内主体のうち、ALPベースで超過利益を認識している主体にAmount Aを献上させることになるんだろうけど、そもそもどのように超過利益を特定するか、っていう検討も必要となる。
さらに、市場国だけに目を向けても、Amount BやCに加えて常にフォーミュラで算定されて分け与えられるAmount Aがプラスで所得になるとは限らない。Amount Bはルーティン販売・マーケッティング活動に対するリターンなので、AとBが重複するってことは考え難い、というかピラー1のデザイン的にあり得ないと言っていい。すなわちALPベースでAmount Bだけを認識している市場国のグループ内主体やPEがAmount Aの一部を献上するかたちで課税所得の一部を非課税とすることはないし、またAmount BがあるからAmount Aの分け前が少なくなることもない。
Amount Cはそんなに簡単ではない。Amount Cは市場国における販売・マーケティング活動が、ルーティンの域を超える場合に市場国が認識する超過利益だから、主体やPEとして物理的な存在がある市場国にAmount Aが配賦され、既にAmount CがALPベースで認識されている場合には、ピラー1内のAmount AとCが既に重複を生み出す可能性がある。Amount CがMarket Intangibleに基づく場合、そこで認識される超過利益が、Amount Aを構成するグループの超過利益の一部に既になっている可能性があると考えられるからだ。現時点でのピラー1デザインでは、Aが他の金額と重複すること、AとC間の重複も認められない、と宣言しているだけで、どのように重複を解消するかに関しては、今後の重要検討事項であるとするに留まっている。
さらにALPベースのAmount Cに関して、またはAmount C以外の超過利益、すなわち市場とは関係のない原因で認識されている超過利益、に関して後年に移転価格調整が入ると、その都度、Amount Aを献上・負担する計算の基となっていたALPベースの主体毎の金額が変動することになる。これらの問題にどう対応するのか、っていう頭の痛い検討も必要となる。まるでTCJA後のSection 905に基づくFTCのRedeterminationみたいな問題だ。なんとかしないと毎年Amount Aの再計算が求められるようなとんでもない結果となり兼ねないね。大変そう。
次回は重複解消法の具体的な参考例等に関してもう少し深掘りしてみたい。
キーポイントをおさらいしておくと、Amount Aというのは多国籍企業「グループ」の連結財務諸表の税引前利益を基にフォーミュラを掛けて算定する所得となることから、従来の国際課税システムのALPと異なり、機能やリスクベースじゃないし、さらにグループベースの会計上の利益のUpper Portionを取り出すのでグループ内のどの主体に属するという紐付きの関係がない金額。さらにALPベースで既にどこかの国、主体で何らかの形で課税所得として認識されている金額。
Amount Bはルーティン販売・マーケッティング活動に対するリターンで、既存のPEやALPに基づく課税。今までのピュアなALPと異なるのは、個々の活動を基に適正なリターンを算定するのではなく、リターン%を世界中で前以て合意してしまうっていう点。係争防止のため簡素化されたALPだ。Amount Cは市場国における販売・マーケティング活動が、ルーティンの域を超える場合に市場国が認識する超過利益。この金額はその性格から、係争の種になることが分かり切っているので、従来の二国間の係争対応策を強化し強制仲裁を条件としたり、Amount Cにかかわる移転価格更正は一定期間内にのみ容認するような方向を模索中。ただし、強制仲裁の採択に関してはインド等、根強い反対国が存在するので今後の係争防止・解決策の行方は不明。
で、最初のポスティングでも強調したけど、Amount A、B、Cって命名してピラー1が議論しているのは「市場国が市場として課税権を持つことになる所得」だけの話。多国籍企業の全ての活動から生じる所得の話しではない。多国籍企業は、市場国が市場として課税権を持つ所得以外にもいろんなタイプの所得を認識する。例えばルーティン製造活動、ルーティン・サービス活動、従来から認識している市場とは関係ない立場で認識している超過利益、とか。これらの所得は今後もALPベースで各主体、各国に配賦される。
で、物理的な存在の有無にかかわらず市場国に課税権を認め、課税権を得た市場国にフォーミュラで機械的に超過利益を分け与える、というピラー1のフォーカスはAmount Aのみをもって実現される。Amount BやCは原則今までのALPのG線上のアリア、じゃなくて延長線上にある同じ考え方。ピラー1のややこしいところは、ALPでないAmount AとALPベースで配賦されるその他の所得を共存させていること。すなわち従来の国際課税システムのALPで既に100%課税所得がどこかの国で認識されている上に、別途Amount Aが算定される点だ。Amount Aは完全に重複する金額なので、そのままにしておく訳にはいかず、誰かにAmount A相当の課税所得を差し出させる、というか献上させないといけなくなる。ここのデザインは最重要かつ不確実性が高い検討となる。
Amount Aの重複解消法としては、従来の国際課税システム的に考えると、ALPで既に課税されることになる主体にFTCを認めるか、またはそれらの主体のALPベースの課税所得の一部を非課税にする方法が考えられる。Amount Aは多ければ100か国以上の市場国に分配されること、またAmount A総額を献上させられる主体、国も多くのケースで複数となること、を考えると、FTCの計算は複雑過ぎるようにみえる。なので、ここでは重複の解消は、ALPベースで既に超過利益を認識している主体(単数または複数)に総額でAmount Aとなる金額を何らかのフォーミュラで「献上」させる方法を想定しておく。その際、忘れてはならないのは、Amount Aは通常の所得と異なり、主体に紐付きでないし、グループ内の特定の取引相手に認識されている所得ではないので、通常の移転価格調整にかかわる対応的調整のようなメカニズムは適用不可能という点だ。
そこで、Amount Aを多国籍企業グループ内のどの主体、すなわち最終的にはどの国、に献上させるのが合理的か、また、多くのケースで複数の主体に献上させることになるだろうけど、その場合、どのように各主体に負担額を配賦するか、っていう検討が重要となる。Amount Aは概念的には超過利益のUpper Portionなので、グループ内主体のうち、ALPベースで超過利益を認識している主体にAmount Aを献上させることになるんだろうけど、そもそもどのように超過利益を特定するか、っていう検討も必要となる。
さらに、市場国だけに目を向けても、Amount BやCに加えて常にフォーミュラで算定されて分け与えられるAmount Aがプラスで所得になるとは限らない。Amount Bはルーティン販売・マーケッティング活動に対するリターンなので、AとBが重複するってことは考え難い、というかピラー1のデザイン的にあり得ないと言っていい。すなわちALPベースでAmount Bだけを認識している市場国のグループ内主体やPEがAmount Aの一部を献上するかたちで課税所得の一部を非課税とすることはないし、またAmount BがあるからAmount Aの分け前が少なくなることもない。
Amount Cはそんなに簡単ではない。Amount Cは市場国における販売・マーケティング活動が、ルーティンの域を超える場合に市場国が認識する超過利益だから、主体やPEとして物理的な存在がある市場国にAmount Aが配賦され、既にAmount CがALPベースで認識されている場合には、ピラー1内のAmount AとCが既に重複を生み出す可能性がある。Amount CがMarket Intangibleに基づく場合、そこで認識される超過利益が、Amount Aを構成するグループの超過利益の一部に既になっている可能性があると考えられるからだ。現時点でのピラー1デザインでは、Aが他の金額と重複すること、AとC間の重複も認められない、と宣言しているだけで、どのように重複を解消するかに関しては、今後の重要検討事項であるとするに留まっている。
さらにALPベースのAmount Cに関して、またはAmount C以外の超過利益、すなわち市場とは関係のない原因で認識されている超過利益、に関して後年に移転価格調整が入ると、その都度、Amount Aを献上・負担する計算の基となっていたALPベースの主体毎の金額が変動することになる。これらの問題にどう対応するのか、っていう頭の痛い検討も必要となる。まるでTCJA後のSection 905に基づくFTCのRedeterminationみたいな問題だ。なんとかしないと毎年Amount Aの再計算が求められるようなとんでもない結果となり兼ねないね。大変そう。
次回は重複解消法の具体的な参考例等に関してもう少し深掘りしてみたい。
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